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最愛のパートナー 死者と生者の記憶を巡る旅  作者: はせ
第4章 昔語り『一度目の死』
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転生

転生



「大丈夫。お別れじゃない」

「でも……」

「不安? 信じて欲しい。僕の計算も術式も」

「そんな! リセイさんのこと信じています」

「それならこの世界に思い残すことがある?」

「いいえ」


首を振る。 


「ありません。お父様もイヨも死んでしまったこんな世界に」

「それならどうして?」


 お父様の最後の言葉がよみがえる。



『ただリセイくんを信じなさい』



 あの言葉はこのことを言っていたんだ。


「いえ、……信じていいのですよね」

「大丈夫。信じて。きっとまた僕らは同じように共に時を刻み合う」

「……はい、信じます」


 私たちの魂は、あの水晶の中に入るのだ。

 それがどういうものなのかは分からない。

 長い眠りにつくのだろうか。

 それとも中は楽園のような場所なのか。

 宝石の壁に囲われた世界なのかもしれない。



 足音が近づく。

 武士たちが迫っているのだ。

 乱暴な声が大きくなる。


「もう時間がない。すぐに儀式を始める」


 床に描いた陣の中央に膝立ちになり、巻物を開く。

 目の前に松明の炎で輝く紫水晶を置く。


「ここに来るまでの空は、君がこんなに不幸だということも気にしないで、嫌なくらいによく晴れていた。おかげで天を巡る彗星にも術はきちんと届く」


 リセイさんは天を仰ぐ。

 こんな洞窟の中であっても、まるで空の星が見えているように思えた。


 異国の言葉で呪文を紡いでいく。


「術式を打ち上げる」


 その途端、リセイさんの足元の円形の陣から光が漏れだし、洞窟の天井の壁を突き抜けて、垂直に真上へと伸びた。

 それは一瞬の事で、すぐに輝きは失われた。


「次だ。水晶と僕らの魂をつなぐ」


 また別の言葉で呪文が紡がれる。

 私は黙って見ているだけだ。

 

「来るよ。ちょっと怖いけど拒まないで」


 リセイさんの言葉に「え」と思った途端、紫水晶から小さな無数の手が伸びてきた。


 思わず腕を振ってその手を弾こうとするのをどうにか堪える。

 伸びてきた手が全方位から私の心臓をわしづかみするようにする。

 妙な違和感がする。

 息苦しく、命を体から引き剥がそうとするように引っ張られる感じだ。

 リセイさんにも同じように手が伸びている。


「心配しないで。これでいつ死んでも魂は水晶に引きずり込まれる」

「そういう仕組みなのですか……。ちょっとどころでなく怖いですよ、これ」

「そうだね。僕も初めてだから、正直怖い。さあ、最後の準備だ」


 そう言うと、壁の窪みを探し、そこを掘る。

 できた穴に紫水晶を隠した。

 鏡と巻物も別々の場所に隠す。


「せめて水晶だけは破壊されないようにしないと。僕らの魂が砕かれてしまうから」


 急に不安になる。


「そんなことにならないですよね?」


「大丈夫だよ。きっと鏡が見せたとおりに事は運ぶさ」


 リセイさんは祠の入り口に顔を向けて立つ。


「もしも鏡が見せたとおりにならない可能性があるというのなら、……もしも運命とか宿命とかそういったものが変えるというのなら、今この場で変わってもらう。運命だからといって、大人しく殺されるっていうのも納得できないしさ」


 奥から火の明かりが覗いた。

 とうとう追手が来たのだ。


「おい、生き残りがいたぞ!」

「皆殺しにするぞ」


 鎧を着た男が飛び込んでくる。

 リセイさんはすかさず男の懐に飛び込んだ。

 間合いが近すぎ男は刀を振るえない。


 男の体が次第に緩慢な動きとなっていく。


「ひ、さ、寒いぃぃ」


 最中(さなか)、男の体が凍りついていく。


「か、から、からだが……」


 そして指先ひとつ動かなくなった。

 男の皮膚は青くなり、体や服に霜が降っている。


 凍った男の後ろから2人の影が飛び出てくる。


「無理しないでください」


 鞘から刀を抜き、影から飛び出てリセイさんにめがけて刀を振り上げた男の首に刀を平突きで刺し、素早く引き抜いてもう一人の大きく開いた口に高速の突きを入れた。


 何かが飛んだ。

 ──矢だ。

 弓兵の矢がリセイさんの体を射抜いた。


「リセイさん!!」


 倒れる彼を受け止め庇うように抱きしめる。

 背後で、男が串刺しにせんと槍を高く振り上げるのが分かった。

 すべてが悪夢のとおりに進行していった。




***




 重い瞼を開く。

 ぼんやりする頭を手でおさえる。

 霞んだ視界が次第にはっきりとしてくる。

 とはいえ薄暗い。

 一瞬、ここがどこだか分からなかった。

 目の前には小都音(ことね)の寝顔。

 見上げる形になっている。

 騒がしいエンジン音で、ここが貨物輸送機の中だとようやく分かった。


「おい」

「…………」


 静かな寝息がする。

 そうだな……今はそのまま寝かせておこう。

 夢の光景が思い浮かぶ。

 色々と思うところはあるが、第一に、俺は昔、あんな風だったか……?

 まるで今のこいつみたいな奴じゃないか。


 片方の手で顔を被い、ため息をついた。


 そもそもなんでこいつの視点なんだ?

 前回の夢は俺自身の夢。

 今見た夢はこいつが見せた夢。

 それなら小都音(ことね)視点であるのは必然か……。


 だが、そうか……。

 今、俺たちがこの時代、こうして生きているのは、全部、こいつの親父が仕組んだことということか。

 いったいどれだけ先の未来を予知したというのだ。

 俺と小都音を引き合わせたあの縁談がすべての始まり。

 それなら、俺の親父は阿呆ということになる。

 親父は月代一族の未来を見る力を利用しようとしていたのだろう。

 それを紫水晶は無くなるし、秘術を記述した巻物はなくなる。

 もちろん大翁を復活させることもできなくなった。

 すべてを失ったあと、どう余生を過ごしたのやら。

 静かに天寿をまっとうしたと願いたい。


 げ。

 小都音がゆっくりと瞼を開ける。

 眠そうに目を擦る。


「先に目覚めてたんですね」


「ああ。おはよう」


 なんとなく目をそらす。


「おはようございます。昔、理靖(りせい)はああだったんですよね。私も久しぶりに思い出しちゃいました。出会った初日からがんばってましたね」


 俺は小都音の膝に乗せた頭を浮かせ、体を起こす。


「一目惚れだったんだ。口説くのに必死だったのさ」


 逆にお前は俺と知り会う前、あんなにも嫌がっていたのか。

 人生の終わりのような顔をしやがって。


「今のセリフ、昔に戻ったみたい」


「からかうな。なあ、どっちの俺がいい?」


「なにを言ってるんですか? 選ぶことなんてできませんよ。だって、どちらも貴方なんですから。それじゃあ理靖(りせい)はどう思っているのでしょう?」


「いや、お前は今も昔も変わらない」


 そして唇に口付けた、お互いに求めあうように。


 貨物機は高度を変えず、飛びつづける。

 窓がないため、今どのあたりを飛んでいるのかはわからない。


「巻物、探さないといけないな。転生のための細かな術式を覚えていない」


「そうですね。でもしばらくはデスクワークになると思いますよ。今現在、私は何も手がかりを得ていません。それとなく下の者を使って調べてはいるのですけど……」


「時間がかかりそうか?」


「今は何とも。でも今回は必ず探し出した方がいいです」


「今回は?」


「はい。前回の転生の儀式を行なう際には、鏡と紫水晶しかなかったんです。理靖が術式を覚えているというのを信じたのですが」


「……? ちゃんと成功して今こうして転生できているだろ?」


「貴方の魂が死体に乗り移ったというところ以外は、ですよ?」


「…………ああ、そうか。そういうことか」


 なんとなく右手を閉じたり開いたりしてみる。

 少し血色が悪いくらいでほかはたいして通常の人間と変わらないのだが。

 死体に乗り移ったとはいえ心臓だってちゃんと動いている。

 元は脳死体か何かだろうか?



 しかし、なるほど。

 俺が死んでいるのはそういう理由か。

 前回の死の直前を思い起こす。

 確か記憶の中ではあの時の死ぬ間際だって、あまり余裕がなかったはずだ。

 結局、誰だかに殺されて終わったのだ。

 巻物なしで儀式を行なったは、単に準備する時間がなかっただけだと思う。


 だが、今では術式の内容が全く記憶にない。

 夢で見た魔法陣の形状も定かではない。


「提案だが、鏡を使うというのはどうだ? せっかく取り戻したんだ」


「いえ、あれの性質はもはや呪い──見せられた未来は必ず実現してしまいます。使い方を誤ると大変です」


「俺はまだ鏡の性質ってのをきちんと理解できていないんだが、アレクシスは鏡を使って市場の未来を予測できていたんだろ。その半面、俺たちに鏡を盗まれる未来を見せられて、その通り盗まれた」


「うーん。アレクシスはあくまでも市場の未来を見ていたから良かったんです。でも最後に自分の未来を見てしまった。鏡を私たちに奪われない未来を見れたなら良かったのですが、奪われる未来を見せられてしまった」


「ということは、『市場の未来を見る』ではなく、『市場で成功するかしないかの未来』を見ようとしていたら、破産する未来を見せられてしまう可能性もあったと?」


「そう解釈できますね」


「なら、巻物を俺たちが見つける未来ではなく、巻物がどこに現れるかの未来を鏡に問うのはどうだ? 案外いけそうじゃないか?」


「ただ……懸念されることとしては、火事の現場に巻物が現れるといった未来も考えられますよ?」


「ああ、そういうこともあるか。……結局、鏡には頼るべきではないか」


「ええ。シンプルに情報収集とタロットによる未来予知で絞り込みます。それに、しばらく動けない理由がほかにもあるんですよ」


 そう言うと小都音は微笑んだ。


「なんだ? その笑みになぜか嫌な予感がするんだが」


「そんな、ひどい。いいことですよ。最高に幸せなことなんです」


 膝立ちになり唇を重ねる。

 手を俺の頭に回し、離れようとしない。

 

「ヒントです」


 空いたもう片方の手が俺の手を取る。


 そして、その手は小都音のお腹のあたりにそっと押し当てられた。

 至近距離で目を合わせ、再び微笑む。


「さあ、答えはなんでしょう」




 

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