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最愛のパートナー 死者と生者の記憶を巡る旅  作者: はせ
第4章 昔語り『一度目の死』
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最近

最近



 次の満月の夜。


「コトネさんの顔をこんなに近くで見ることができるなんて、幸せで夢の世界に行るようだよ」


「あ、あの、そんなに見ないでください……。もう、早くいっちゃってください、夢の中に」


「またそんな意地悪を言う」


 リセイさんは膝の上に頭を乗せる私を見下ろしている。

 私はというと身を守るように手足を縮めて丸くなっている。

 こんな風に真上から見下ろされるという体験は小さい頃にお母様にしてもらったくらいで殿方にされるなど初めてで、これはなんだか絶対に恥ずかしい。


「恋人同士の慣わしに『膝枕』というものがある。後学のためにぜひ試してみよう」


 というので、特に何も考えずに頷いたらこうなってしまった。

 もう!

 これが何か知っていたら、縦ではなく横に首を振ったのに!


「それとも今夜は一緒に?」


「そんなこと言ってません。時間が来たらちゃんと離れに戻ってくださいね」


「もちろんだ」


 寝返るとリセイさんの体が目の前になった。

 甘い、いい匂いがする。


 ど、どうしよう……。

 こうなるともうすることは一つしかない。

 よし。

 いたずらしよう。


「えい」


 リセイさんの脇腹をくすぐった。

 無反応……あれ?


「コトネさん?」


「えっと、効かないんですか?」


 リセイさんの顔を見上げて訊く。


「うん。コトネさんはどうなんだろう」


 指の先がつーっと私のくびれをゆっくり動く。


「あは、や、やめて!」


 くすぐったくて身をよじる。

 思わずリセイさんの手をつかむ。

 指と指をからませてくる。

 私の手を引くと、リセイさんは手の甲に頬を押し付けてきた。


「あたたかい」


 リセイさんは私の手の甲に口付けてきた。


「なに……してるんですか……?」


 こそばゆい。

 最近は、この妙な感覚と感情に素直になれるようになってきた。


「コトネ様、失礼致します」


 バッと飛び上がるように立ち上がり、服を整える。


「早業だ」


「(うるさいです)。イヨ、どうしたの?」


 障子が開く。


「ハシバミの実とお茶をお持ちしました。お邪魔でしたか?」


「いいえ、ありがとう」


「それでは、失礼いたします。(幸せそうなお顔ですね)」


 断じてそんな顔はしていない……!

 イヨはすぐに去っていった。


「残念だったね」


「なにがでしょうか?」


「いや、なんでも」


 笑顔が引きつっているのが自分でもわかった。

 ほら、イヨの言ったことは間違っている。


「せっかくだから頂こうかな」


 リセイさんはどんぐりに似たハシバミの実を指先でひと粒つまみ口に運ぶ。

 その指の運びが、上品だなと思った。


「そうだ。刀、貸してもらってもいい?」


「……? ええ」


 刀掛台に置いていた刀を差し出す。

 鞘にさしたまま、手に取った刀を眺める。


「最近、多く造られるようになった毛抜形刀(けぬきがたとう)を改良した太刀だね。近衛(このえ)兵がよく使っている」


「ご存知なんですね。ただ近衛が使うものよりは刀身を少し短くしてあります」


「2尺3寸というところかな。今の時代としては確かに。でもこれでも僕には重い。コトネさんはすごいね。銘はなんというの?」


清風明月(せいふうめいげつ)です。月にちなむのは月代家一族の流儀なのですけど、この太刀とお会いしたのが静かで清らかな夜風が吹いていましたので、そう名づけたんです」


「いい名前だね」


 畳の上に刀を置く。


「リセイさんは武術などは?」


「僕はこれ。少しは進歩したんだ」


 お茶を一口啜ったあと、湯のみに一本縦線を引くように指でなぞる。


 瞬く間に湯気を立てていたお茶が凍りついた。

 これには驚いた。

 前に言っていたくさび形文字を使った術だ。

 陰陽の(たぐい)だろうか。


「人の足を凍らせるくらいならできる。身を守るには十分。まだまだ修行中の身だけれどね。父ならこれを射ち出す。この間、父と狩りに出かけたんだけれど、飛ぶ鳥に指先を向けだだけで凍らせていた」


「想像することが難しいのですけれど、でもお父上はすごいのですね。遠くから攻撃できるのなら、刀でなんて太刀打ちできません」


「そう? 君のお父上は飛んできた矢を縦に斬ると聞いたよ? それに呪術や妖術も斬って霧散させてしまうとか」


「そんな……確かに聞いたことはありますけど」


 イヨが運んでくれた蒸したハシバミの実を口に含む。

 独特の苦味と香ばしさが口に広がった。


「もう遅い。そろそろ離れに戻るよ」


「送りましょうか?」


「ついてきたら返さないよ?」


「もう、何をバカなこと言ってるんですか?」


「本当にさ」


 お互い抱きしめ合って、唇に唇を重ねて『おやすみ』を告げた。


 このところ、リセイさんはよく泊まりにくる。

 離れの一室はすでにリセイさん専用になっていた。




 

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