夢
夢
次の日。
貨物輸送機の中、コンテナに背をあずけた格好で、腰をおろす。
離陸の揺れがおさまり、巡航高度に達したようだ。
アレクシス・ディーターの権力は国の保安当局にも伸びているらしく、帰国の便に乗ろうとパスポートを提出した途端に、追い回されるはめになった。
仕方なく、滑走路に忍び込み、日本行きの貨物機に飛び込んだ。
今回の一件で紫水晶と鏡が両方揃った。
ただ実のところ、鏡についての記憶が未だに欠落している。
紫水晶ははるか昔、俺の村に祀られていたものだから当然、それについての知識はある。
しかし、鏡の方は小都音の村に祀られていたものだ。
未来を見せる鏡……その名のとおり、未来予知の類だが、それでは占いと大差ない。
『紫水晶』の魂を現世に留める力ほどの価値があるとは思えない。
まだ、思い出していない何かがあるのかもしれない。
「なあ、これでどうなるんだ?」
「どうって何がです?」
きょとんとする小都音に、俺は鏡に纏わる記憶が曖昧なことを説明する。
「そうだったんですね。てっきりご存知だったかと……。それではお話ししますね」
顔を少し傾けるようにして額にキスされ、小都音の胸に抱かれる。
「お、おい……」
「また……あの夢の中で……」
急に眠気がさし、ぼんやりとする。
「楽にして……。抗わないで……」
次第に頭がずりさがり、膝枕のようになる。
頭を撫でてくる指がくすぐったかった。
「コトネ様、そろそろお時間です」
「…………」
「納得しておりませんよね」
「…………」
私の付き人であるイヨはさっきから困ったように難しい顔を浮かべている。
年は私とそう変わらない。
15、6才。
小さい時からいつも一緒だ。
イヨが伏せた顔を上げる。
「でも、これもお生まれになられた時からの定め……。いえ、でも、お会いしてからご意志を固められても遅くはないのではないでしょうか」
「会えば合意と取られることぐらい、イヨにだってわかるでしょう」
「ですが……」
イヨにあたっても仕方ないのは分かっている。
「ふう……」
小さくため息をつく。
今日、私を娶る男が来る。
嘆いてもなにも変わらない。
泣いても喚いてもきっと未来は変わらない。
いっそ逃げてしまおうかしら。
でも、もう遅い……。
もうその時が来てしまう……。
「…………。いいわ。行きましょう。逃れられないのはちゃんと分かってる」
「コトネ様……」
着物の裾をおさえ、立ち上がる。
台に置いた丸鏡に映る自分を見る。
きらびやかな着物姿。
生地が高価なのは肌触りでよくわかる。
いままでこんなにも着飾ったことはない。
まるで貴族だ。
意を決し、襖障子に手をかける。
「あ、あの、コトネ様! 殿方にお会いするのに刀は要らないかと思います!」
「あら、どうして?」
「だって、コトネ様、お相手の方を切り伏せてしまいそうですもの」
本気でそう思っているわけでないのは、イヨの顔を見ればわかる。
「刀をお預かりしますね」
「仕方ないわね。はい」
なんだか憂鬱な気分が晴れてしまった。
微笑むイヨに、左に持った愛刀――清風明月を差し出す。
「大切にね」
「もちろんです。コトネ様、きっと運命はコトネ様を裏切るようなことはしません。私はそう信じています」
「うん、そうだといい。イヨ、ありがとう」
私は、真剣な眼差しのイヨに微笑んだ。




