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シャンデリア

シャンデリア



 ドンドンドンドンドンドンッ。


 一発目の弾が地面をえぐったところで、太い木の影に隠れた。

 重火器か!?

 今にも盾代わりにしている木の幹に穴があきそうだ。


小都音(ことね)、無事か?」


「ええ、屋敷の警備、強化されてますね」


「ったく、ここはどこの戦場だ?」


「とても歓迎して下さっているようで……」


「本当にな。障害物の少ない正面からは無理だ。側面から行くぞ」


「了解」


 見張り台から伸びるビーム状のサーチライトから逃れるために、木の影に隠れながら屋敷をぐるりと囲う城壁に向かって走る。


「追え! 肉片にかえてやれ!!」


 拡声器でも使っているのか?

 リーダーらしい奴の声が屋敷を囲む森に木霊する。

 逆に音を頼りにし難くなり厄介だ。

 ただのバカか、それとも威嚇のつもりか?

 侵入さえ防げれば、逃げてくれた方がよいと考えているのかもしれない。

 リーダーの言葉に従って、サーチライトが俺たちを見つけ出そうと左右に動く。

 銃撃は城壁の中からのみ……。

 はっきりとは分からないが、城壁の外には敵はいないようだ。

 しかし……。


「こうなることを予想しておくんだった! あっちは鏡を使って未来を見ることできるんだ。俺たちの侵入を予見されてる」


 前回の侵入時は不意をつけた。

 しかし、一度侵入があれば、鏡の主なら次にいつ賊が侵入してくるか未来を見ようとするのは必然だ。


「どうします?」


「カードあるか? 俺たちの未来は?」


 アレクシスはどんな未来を見た?


「ありますよ。簡易式でやります」


 走りながら、カードを一枚ひく。


「どうだ?」


「『世界』の正位置」


「いつもどおりだな」


「いつもどおりですね」


「はは、つまりあちらさんは鏡を奪われる未来を見て慌てたんだろう。警備を厳重にしようと変わらない未来は変わらない」


 結果がそうなっているのなら、退く必要は無い。

 腰に巻いたロープを解く。

 ロープの先にはアンカーが結んである。

 高さ10メートルほどの城壁のような塀を見上げる。

 ロープを回し、勢いをつけてアンカーを塀の上に向かって投げる。

 ガキッ、とアンカーが引っかかる音。

 ロープを引っ張って、しっかりとアンカーが固定されていることを確認。


「登るぞ」


「はい」


 ロープを使って壁をよじ登る。

 小都音も後に続く。

 アンカーを外し、ロープを回収。

 城壁の中は高い木が多い。

 手近な木に飛び移り、すぐに下に降りた。


「見られたか?」


「大丈夫です」


「よし」


 サーチライトの光りは相変わらず、城壁の外を探っている。

 相手は俺たちが城壁の中に入ったことに気づいていない。


 さあ、冷静に考えろ。

 たとえ、侵入を予知したとしても、アレクシスには1日の時間も与えていない。

 お抱えの私兵に、急遽(きゅうきょ)雇った傭兵……現実的に考えて30人強がいいところだ。

 統率が取れるわけもない。

 配置はどうする?

 私兵は自身や身内の警護に当てる。

 傭兵は屋敷の中と外に置く……。

 あとは傭兵が軍隊上がりだっととすれば面倒なくらいか。


「前回と同じ、窓から入る」


「了解です」


 ただし前回は2階だったが、今回は1階からだ。

 木の上に登っていては逃げ場が少なく、見つかったときに蜂の巣にされてしまう。

 傭兵に見つからないように窓際に近づく。

 

「警備が堅い。バレずに入るのは難しいかもな」


「後ろ!」


 鞘から刀を抜刀。

 抜いた勢いで柄から手を放す。

 すぐに木の影に隠れる。

 サブマシンガンの連射音。

 狂った方向に弾が飛ぶ。

 どさっと音がして銃声が止んだ。

 素早く覗くと、刀が墓標のように倒れた男の心臓に突き刺さっていた。

 刀の柄に紐のようなものが結んであって、小都音の手元まで伸びている。


「こういう使い方もあるんです」


 紐を引くと刀が抜けた。


「なるほど」


 刀を手繰(たぐ)り寄せ、鞘に戻した。

 だが、今の銃声で、城壁の中にいることがバレてしまったはずだ。

 手早く中に入った方がいい。


「小都音、窓を()ってくれ」


「はい。やっ」


 居合切りの要領で窓を四角く切り取る。

 今更、窓を壊そうと関係ない。

 迅速に、鏡を目指そう。


 入った部屋の中央には長くて大きなテーブルが置かれていた。

 食卓か……。


「外の警備が中に戻る前に3階まであがるぞ」


「待って。理晴、これ、気をつけないと」


 小都音が差し出した手のひらに乗った金属片を手に取る。

 サブマシンガンの弾だ。


「銀製か」


「ええ。ルーンの障壁でも長くは防げないし、もしライフルなら貫通します」


 俺の障壁じゃ、サブマシンガンなら数秒、ショットガンなら一発で砕ける。


「複合障壁にしたほうがいいな」


 ルーンの障壁と小都音の大鍵(ソロモン)(さそり)の結界を重ね掛けして、複合障壁とする。

 扉の側面に付く。


「いくぞ、3、2、1」


 部屋の扉を開け、手近な柱の壁に飛び込む。

 銃の連射音。

 数発が障壁に当たった。

 柱の影で呼吸を整える。

 吹き抜けになった2階の通路にアレクシスと十数人のボディーガードがいた。

 それと、前回侵入した部屋の近くに、あの時の少女がいた。


「レイン、表に出るな! 隠れていろ!!」


「お父様! 何がどうなっているの!?」


「お嬢様、こちらへ」


「お前たち、コソ泥を絶対に逃すな!」


 アレクシス、レイン、それにボディーガードの気配が消えた。

 残ったのは雇われた傭兵か……。


「おい、女。囲まれているぞ? あと何人仲間がいるか教えてくれれば、殺さないでやる」


「バカな犬ですね。私たちの人数も把握できていないなんて」


「数が分からなければ兵力は分散する。けど、悠長にしている暇はない。外の奴等まで中にきた面倒だ」


「おい、どうする?」


 野太い声でセリフを吐き、威嚇するように銃弾を撃ってくる。


「障壁は簡単には破れない。銃撃を無視して3階まで一気にあがる。いくぞ」


 小都音が頷く。

 松明のルーンを刻んだ小石を思い切り天井のシャンデリア目がけて投げつける。

 飛んだ石に銃弾が飛ぶが、当たらない。

 ルーンが発動し炎が上がる。

 シャンデリアを固定しているボルトと鎖を高温が溶かす。

 重力に引っ張られてシャンデリアが落下。

 

 ガシャァアン――ガラスがホール中に飛び散った。





 

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