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計画

計画



 人目につかない橋の下まで泳いで、川から上がった。


「散々な目にあった……」


「この恰好じゃ、表を歩けないですよね」


 小都音(ことね)の言うとおり、びしょ濡れな上に着ている服もボロボロだ。

 どう考えても街を歩くには異様だ。


「その辺で服を見繕おう」


 濡れた服の端を絞って、姿を消す。

 人の少ない店に入って、服を手に入れて路地裏で着替える。

 代金分に少し上乗せして、ユーロ紙幣をレジに置いておいた。

 モノを盗み出すことを生業にしているとはいえ、泥棒とは違うのだ。

 着ていた服は丸めてゴミ箱に放り込んだ。


「これからどうします?」


「装備を整えて、夜を待つ。休憩だ」


「じゃあ、一度ホテルに戻りましょう」




 ホテルに着くとフロントから人が出てきて、


「おかえりなさいませ、トガワ様」


 誰だそいつは? と一瞬思ったが、ここで使っている偽名だったなと思い出した。

 部屋番号も伝えていないが、差し出してきた鍵を受け取る。

 部屋によっては顔パスになるらしい。


「フラワーバスにしたいの。いくつか見繕って。できるだけ早く持ってきてくださいますか」


 ホテルマンにそう告げる。


「かしこまりました。すぐにご用意いたします」


 この手のサービスが無料ということはあるまい。

 小都音は、経費で落とせるからと贅沢の限りを尽くしている。

 エレベーターに乗ってスイートルームに戻った。


「疲れた……」


 倒れるように、ソファにもたれる。


「本当に……ですね……。体が冷えちゃいましたし、お風呂で温まりましょう」


「ああ。お湯を入れてくる」


 おろしたばかりの重い腰をあげようとしたが、


「いいえ、いいですよ。私がします」


「そうか? ありがとう」


 小都音がバスルームに向かうと、少ししてルームサービスが注文の品を届けにきた。

 昨日と同じボーイだった。


「さすが、早いな。ありがとう」


「こちらはサービスです。お疲れのようでしたので」


 とアロマローションも受け取った。


 昨晩よりも多めにチップを渡してやった。

 

 届いた香りのよい花びらを湯船に浮かる。

 折角だから頂いたローションも一緒に入れた。


「ご一緒します?」


「あたりまえだ。おまえに触れるのが一番疲れが取れるんだ」


 素早く口付ける。


「なんです、それ?」


 おどけたように笑って言った。




 夕方――。

 新しい服に着替えて、装備を整える。

 ルーンを刻んだ小石も補充。

 それらと一緒に、黒いローブもバッグに入れた。


「おまたせ。はい、あなたも」と背後から声。


「うん?」


 小都音が頭に何かをかぶせてくる。

 それを手に取ると、ブラウンのウィッグ。

 振り向くと、小都音は、漆黒のストレートの髪を畳んで、ウェーブのかかったブロンドヘアのウィッグをつけていた。

 長さは肩くらいだ。

 目にはカラーコンタクトを入れていた。


「ここでは東洋人は目立ちますからね」


 そう言って、サングラスを差し出してくる。


「はい、貸してください」


 サングラスを受け取り、ウィッグを手渡した。

 ウィッグをつけてもらい、サングラスをかける。

 鏡を見ると一応は別人のようだった。


「さ、まだ早い。まずはディナー。食べたら鏡を取りにいこう」



 広場の一角にあるレストランの2階のテラス。

 広場ではいくつかのグループが弦楽器を持って思い思いに音楽を奏でている。


 フェットゥチーネにフォークをくるくると絡ませる。


「じゃあ、遊びだったっていうの!?」


 声がする方になんとなく目を向けた。

 他の客たちも何事かと目を向ける。


「そうは言わないけれど……。なあ、頼むよ。こんなところで大声を出さないでくれよ」


 どこかで見たことのある金髪の少女だった。

 向かい合う青年の顔はこちらからは見えない。


「ばか! さようなら。もう呼び出さないで!」


 少女は足早に1階へ降りていった。


「どこかで見たことあるような……」


「屋敷にいた()ですね」


「ああ、なるほど。そういえばああいう顔だったか。あのときは暗かったからな」


「恋に忙しい時期は大変ですね……」


 テラスから広場に目を向けると少女がやっぱり見たことのある高級車に乗り込むところだった。


「レイン様、もうよろしいのですか?」


「ええ。出してちょうだい。それに今日は無断で出てきてますから。早く戻らないと……」


 車は少女を乗せて走り出した。

 レイン・ディーター……そういう名前らしい。


「さて、あちらの状況、どうなっています?」


「どうだかなぁ。相変わらずルーンじゃ屋敷の結界の中まで見ることはできない。ただ、今のところ人が入ることはあっても出ることはなかったから。いまの車を除いてな」


「じゃあ、私の鏡(、、、)はまだ屋敷の中にありそうですね」


「安全な場所に運べるなら運びたいんだろうが、アレクシスからすれば、あの屋敷が一番安全なんだろうさ」


「でも、さすがに鏡の場所は変えたでしょうね」


「ま、宝物室か隠し部屋かだな。古くからある城を改装して使っているから、隠し部屋は必ずあるさ。そして歴史ある建造物ってのは、住まう主の意思とは関係なしに歴史学者が設計図から素材に何を使っているかまで(あら)わにしてしまっている」


 いいながら、見取り図を出し小都音に見せる。


「へえ。おもしろいですね」


 内装は変えれても、柱や部屋の位置は変えられない。

 前回の侵入時の記憶と照らし合わせ、見取り図上ではあるのに、無かった部屋……隠し部屋の候補を探す。

 単に老朽化で埋め立てらしまった可能性ももちろんあるが、調べるべき対象としては有力だ。


「なんにせよ、俺たちにとっては日が暮れてからの方が動きやすい」


「あとだいたい2時間ですね。それじゃあ……」


 小都音はウェイトレスを呼び、


「チョコレートケーキとエスプレッソを2つずつお願い」


 と注文した。




 

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