川
川
螺旋状の階段を降りる。
トントントンと足音が反響する。
ひとつ下の階に着き、耳を澄ませる。
風の流れがなく、出口は遠いようだ。
まだ下に階が続くらしい。
慎重に通路を進む。
この階も一本道ではなく、複雑な迷路のようになっている。
上の階でしたのと同じように紙に地図を描いていく。
角を曲がると、少し先の地面に骨が転がっていた。
近づくと、カタカタカタカタッ、と震え出した。
「また貴方たち? しつこいと嫌われますよ」
骨が組みあがって、全部で4体の骸骨が立ち上がる。
顎をかちゃかちゃ鳴らして、サーベルを振り上げて向かってきた。
小都音は素早く動いて、サーベルをもつ右腕を刀で切断する。
サーベルごと地面に落ちたが、骸骨はすぐにサーベルを左手で拾い、低い体勢から斜めに切り上げる。
痛みも感じないし、腕の切断くらいでは致命傷にもならないようだ。
切り上げられたサーベルを刀で受けると、鍔競り合いになった。
「上のよりは動けるようですね……!」
俺は入り込もうかと思ったが、小都音は左手を柄から離す。
空いた手を握る動作をすると、一瞬で、もう一本の抜き身の刀が握られていた。
そのまま下から上へ頭蓋骨を突き刺すと骨がばらばらになって動かなくなった。
やはり頭蓋骨だと一撃なのか。
「なあ。こいつら、魔術師の傀儡か? それとも怨念でも取り付いているのか?」
別の骸骨の頭を殴って吹き飛ばす。
攻撃用のルーンは残り少ないから節約したい。
幸い、ガントレットで殴ると一発でKOできるらしい。
「どちらでしょうね。やっ」
2体縦に並んだ骸骨に突きを喰らわせ、同時に頭蓋骨を串刺しにする。
小都音は、刀に刺さった頭蓋骨を手で引き抜き、中を見た。
「んー。額の裏側になにか模様がありますよ」
「パス」
「はい」
頭蓋骨をバスケットボールのように受け取り、中を覗く。
「円の中に逆五芒星?」
「そのようですね」
記憶の中にある知識と照らし合わせる。
確か……。
「悪魔をくくりつけるマークだったか……」
「くくりつける?」
「ああ。逆五芒星が悪魔を意味していて、それを円で固定している」
「さすが。博識ですね」
「どうも。……なにせ数百年分の知識があるからな」
小都音が数百年間を戦闘技術に注ぎ込んだのに対して、俺は知識の獲得に当ててきたのだ。
「この方法だと、上の術者がリアルタイムにコントロールしているわけじゃないな。トラップみたいに条件を満たしたときに動くようになっているんだろうよ。何年前に施された術かもわからん」
話しながら、マッピングを続ける。
先の方の天井に黒い塊がある。
「待った」
「何かいます?」
「あれだ」
指差す。
「生き物かな?」
よく見るとバサバサと羽ばたいているようだった。
「コウモリ……ですか?」
「普通のじゃないよな……」
「色々いますね、ここ」
明らかに目が不気味に光り、牙をむき出しにしている。
「理靖、小さくて多い。任せていいですか?」
「ああ、もちろん」
こいつらは刀では相手しにくい。
何か効果的かな。
多数を相手にするなら炎が最適か。
松明のルーンを刻んだ小石に十分に魔力を注ぐ。
コウモリが一ヶ所に集まっているところ目掛けて投げつける。
一気に炎が吹き出し、燃え上がる。
火のついたコウモリたちが狂ったように焼けて灰になった。
「残りは私が」
そういって燃え上がるコウモリの群れに駆け出した。
炎を逃れたコウモリたちは小都音が一匹ずつ斬っていった。
***
階段を4つ降りたところで、いままでとの違いに気づいた。
洞窟で行き場を失ったように唸る風の音がした。
微かに湿った土の独特な匂い。
耳を澄ますと、遠くから波が打つ音が聞こえる。
海……いや、潮の匂いはしない。
この先に川がある……。
「出口、近いな」
「ようやくお日様に会えますね」
疲れ切った顔に笑顔が浮かぶ。
なんとなく声色も明るい。
出口を目指して歩く。
緩やかな下り坂になっていた。
「さて、最後に何か来るか?」
「そんなこと言っていると、特大のが来ちゃいますよ?」
「そりゃあ、ごめんだ」
かちっ。
何かの音がした。
ゴゴゴゴゴゴゴッ。
「おい、何かしたか?」と振り返る。
「いいえ、特には……」
わずかだが砂煙のようなものがたっている。
「とにかく、走りましょう!」
「おう」
嫌な予感がして、全力で坂を駆ける。
音がどんどん大きくなってくる。
後ろを見ると、大きな茶色い何かが転がって来た。
あれは、岩だ!
「また古典的なトラップか!?」
「前!」
首を戻すと、特大のヘビ。
うっすらと透けている。
「実体がない。ヘビの亡霊か!? かいくぐれるか?」
「無理でしょう! 私がやります。溜めの時間がない。あれを」
「了解!」
最後の松明のルーンに魔力を注ぐ。
小都音は走りながら、突きの構えを取る。
刀を先端に魔力を込める。
銀色の輝きがほとばしる。
まだルーンに十分な魔力は溜っていない。
小都音も同じだ。
ルーンを小都音の前に投げる。
「複合――」
一気に加速し、
「――紅月」
小都音の姿が消え、元、居た場所からヘビの後ろまで炎の柱が伸びる。
炎はまるごとヘビを飲み込んでいた。
炎が消えるともうヘビの姿はなく、その先に小都音の姿があった。
「それで、後ろの岩もやれないか?」
「溶岩になってもいいのなら。やります?」
「いや、やめとく」
ゴロゴロと転がってくる岩に追われながら、坂道を下る。
明かりだ!
洞窟のようになっていて、押し入る水が波打っている。
「出口ですよ!」
「いい感じにボートでもあれば最高だったんだがな。飛び込むぞ。それしかないだろ」
「了解」
岩が追る。
水中へ飛び込ぶ。
小都音も刀を消し、俺に続く。
直後、頭上を黒い影が被った。
岩が勢いも殺さず、洞窟の出口の先まで飛んだ。
大きな水しぶきがあがり、生じた波が体を揺らす。
川から頭を出し、空を見上げる。
太陽は天頂から少しいったあたり。
あの位置だと、昼過ぎってところか……。
ざっくり、ホテルを出て9時間も過ぎている。




