地下
地下
50センチメートルくらいの大きな鼠がこちらを見た。
鼠の目が松明のルーンの灯りを反射して揺らめくオレンジに光る。
口元によだれと血が滴っている。
俺たちの方に向けていた目を、目の前の肉に戻し、食事を再開する。
「こいつら、どうする?」
「斬ります。あの食欲……餌に飢えているでしょうから、ここで始末しておかないとどこまでも追いかけてきますよ、きっと」
「それはゴメンだ」
食事を終えた鼠の一匹がキィーと鳴き声をあげた。
それを皮切りに鼠たちが一斉に声をあげ、俺たちに向かってきた。
「俺たちは餌じゃないぞ」
小都音が先頭の一匹を縦に一閃。
すかさず、バックステップ。
「理靖、気を付けて。そこまで堅くはないけれど額辺りに障壁があります」
「了解」
まったく……俺にも小都音のような火力があればな――。
右手のガントレットで鼠の障壁を剥ぎ取り、左手にある松明のルーンを刻んだ小石を親指で弾く。
鼠の体毛に触れた途端に燃え上がる。
――いちいち障壁を剥がないといけないのも面倒なものだ……。
「さあ、どんどん行きますよ」
「おう」
障壁を剥ぎ取りながら、手持ちのルーンを次々に放ち鼠を燃やして炭にしていく。
小都音も次々に鼠を解体していった。
いや、楽しいそうだね。
こいつはこうしているときが一番輝いている……。
「粗方、片付いたか……」
「そのようですね」
「先を急ごう」
ダンジョンの探索を続ける。
カタカタと動く影があった。
「今度はなんでしょう?」
「注意しろよ」
手の中でルーンを刻んだ小石を転がす。
あれは……。
「なんだ? 骸骨?」
「へえ。ここ、面白いですね」
大人の背丈ほどの骸骨が、海賊のようなサーベルを握っている。
「いや、物足りないだろ。あんなんじゃ」
「まあ、役不足といえば確かに……。でも……!」
どうせ首を落としても動くのだろうと判断したのだろう。
小都音の刃が、頭蓋骨から骨盤まで、縦に真っ二つにする。
サーベルを構える暇も与えなかった。
「一体だけか?」
「ふふ、沢山来ますよ。沢山ヤれますね」
変なスイッチが入ったように不気味に笑う。
なんだか怖い……。
角から骸骨の団体がかちゃかちゃと音をたてて襲ってきた。
「やああ!」
小都音がそれに襲いかかる。
一体目に上段から刀を振り下ろし、二体目を返す刃で切り伏せる。
続けて、三体目を袈裟切りにした。
小都音の背にサーベルが襲い掛かる。
「無茶するな」
俺は右手に力を込め、その骸骨の鳩尾から頭蓋骨にかけて、アッパーをきめた。
頭蓋骨が首から外れて、天井に当たって床に落ちた。
「ありがとうございます。背中は任せてますよ」
「おうよ」
小都音が主力で俺がサポート、いつもどおりのやり方で骸骨たちを倒していった。
床には残骸のように骨がばらばらと転がった。
「ここは雑魚ばかりみたいだな」
「そうですね。……でも階段が見当たらないですね」
「このまま彷徨っていても、体力が削られるだけだな……」
「一度、休憩しましょうか?」
丁度手頃な石を見つけて、それに腰を下ろしてマップを広げる。
落とし穴があった場所が右下。
そこから右上に道があり、右上に行くまでに分岐が3つ。
右上の端から左上の端までまたいくつかの分岐。
そして左上の端から左下の端までも同じようになっている。
そこから、右下の端へ進むと、落とし穴を迂回してそこの出口の通路に繋がっている。
つまり振り出しに戻る。
小都音はマップを覗き込んで、
「ダンジョンの外周部はマッピングできてるようですね」
「中央に行こうとすると、外周の通路に戻るようにできている」
「まだ行っていない場所、ここと……ここ。あと、ここも……」
中央に続いていそうな、まだ進んでいない分岐箇所を指差す。
「少ししたら行くか」
ブロックタイプのレーションを取り出し、半分を小都音に渡す。
五大栄養素とカロリーをバランスよく配合した非常食だ。
「ありがとう。……理靖、ルーンの残りは大丈夫ですか?」
「そうだな……」
レーションを口にくわえ、確認する。
攻撃用の松明のルーンと氷結のルーンは残り少ない。
相手の体に指で文字を書くようにルーンを刻みつける方法でも発動できるが、戦闘中にいちいちそんなことをしている余裕はない。
できるだけ節約していかないと……。
10分ほど休憩した後、先ほど小都音が指した分岐を目指した。
3つ外れを引いた後、やっとこの階の中央にたどり着くことができた。
案の定、そこ階段があった。
階段には手すりもなく、螺旋状にぐるぐると回っていて、下の階に繋がっている。
「残念ですね。下ですか」
「上なら屋敷の近くに出るんだろうがな。下ってことは山の麓……街に続いているかもしれない」
ち、脱出できても、完全に振り出しか……。
俺は心の中で悪態をついた。




