屋敷の結界
屋敷の結界
「さて、あの屋敷の結界をどうするか……」
「派手にいきますか?」
無邪気な顔で楽しそうに笑う。
「ばかを言え。昔から俺たちは影に隠れて行動してきたんだろ」
「ばかだなんて失礼ですねー」
「実際、俺らは大砲なんて持っていないし、儀式魔術だって使えないんだから」
むくれたように頬を膨らませる小都音をよそに、戦略を考える。
ガントレットをつかって魔力そのものを掴むことができる。
魔力自体を握りつぶしたり、引き剥がすことができる。
門や扉といった入り口に結界を張り、概念的に侵入者を拒絶するタイプならば、大きさにもよるが排除可能……。
とはいえ、ドーム状に屋敷全体を覆っているタイプでは、掴むも何もないから、俺にはどうにもできない。
「寝静まった頃を狙って出るぞ。――屋敷の守りを見ておきたい。もし可能なら、そのまま潜入する」
「了解。じゃあ、時間までおやすみしましょう……」
部屋の明かりを落として、目を閉じる。
鏡のことを考える。
俺たちが奪いにくることをすでに予知しているかもしれない。
それなら、何かしら対応を取っているはずだ。
怖いのは、”罠”。
アレクシスが侵入を予知していないと楽観視するのはプロとして不合格。
それに用心するに越したことはない。
***
深夜3時――。
黒いローブを身に纏い、木の影からアレクシスの屋敷を覗き見る。
高い塀が屋敷をぐるりと囲っている。
「屋敷というより、お城……ですね」
「大きいな」
塀の奥に佇む城は見上げねば視界におさまらない。
だが、結界は門の部分にのみ……規模も大きくない。
むしろ厄介なのは、門の上に取り付けられた監視カメラの方だ。
左右にゆっくりと動いている。
暗い中でも稼働しているということは、暗視カメラか赤外線カメラ。
俺たちの姿を記録されたくないな。
左右に動いているということは、つまり死角があるということだ。
固定したまま全てが視界に入るのなら動かす必要がない……。
周りをさっと見渡し、タイミングを見計らってすばやく門に近づく。
右手を伸ばしてガントレットで門に張られた結界に触れる。
「ふむ……。やっぱりか。土地柄からしてもしかすると、とは思っていたけれど」
「なにかわかりました?」
「結界の術式とその土地の宗教は、どうしてか似る傾向がある」
「つまり、……ということですね。これ、いけそうですか?」
結界に侵入口を開けられるか、と聞いてくる。
宗教上、攻撃型の結界ではない。
「余裕だ」
規模からいって、大した術者も雇っていないのだろう。
壊すまでもない。
ガントレットで障壁を掴み、ドアを開けるように引く。
「入るぞ」
「はい。――相変わらず反則的ですね」
「まあな」
結界の中に入り、今度は閉じるように内側から引く。
これで結界は元通りだ。
並みの術者では感知もできまい。
門から城の扉まで庭木が並んでいる。
姿を隠すため、すぐに木の影に隠れる。
「理靖、あれ」
小都音がちらりと目を向けた先には幹が太く背の高い木。
「よし」と頷き返す。
木に登り、太い枝の上に立つ。
遅れて小都音も俺の隣に来る。
視線を城の扉の前に落とす。
ガードマンの武器はサブマシンガン……。
ということは、魔術師ではない。
それなら不可視のルーンは効き目があるか?
いや、待て。
扉の前にもカメラがついている。
現代では当たり前のセキュリティだが……。
人間の目は魔術で誤魔化せても機械の目は困ったな。
「正面から堂々とってわけにもいきませんね」
「ああ。窓から忍び込むか」
「入れそうなところ、あります?」
懐から双眼鏡を取り出し、窓を通して屋敷の中を見る。
「小都音、辺りの警戒を頼む」
「了解」
双眼鏡を使っていると自ずと視野は狭くなるため、まわりに鈍感になってしまう。
さて、できるだけ人とは会いたくない。
手合いする人数が最小限になるように、警備の弱いところを探す。
部屋数は多い。
順番に窓際の部屋を覗いていく。
「侵入できそうですか?」
「ああ。ただ、……候補がありすぎかな。――どこも手薄だ」
「そんなに? 外の警備が頑丈だからでしょうか」
「もしくは罠か」
罠の可能性が頭をよぎる。
だが、ここからでは罠の存在は分からないし、鏡を手に入れなければならないことにかわりないから、行くしかない。
こうなると侵入すべきもっともよい場所はどこか、という問いが生まれる。
カーテンが閉まっている部屋、レースだけを閉めている部屋。
レースのカーテンから蛍光灯の光がもれている。
窓際には、クマやキリンのぬいぐるみ。
子ども部屋か。――小さな影が動いている。
明かりのついている部屋は人がいると見てよい。
カーテンが閉まっている部屋はどうだろうか。
遮光性が高く、中の様子はまるでわからない。
カーテンが閉まっていなく、明かりのついていない部屋から忍び込むべきか……。




