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音楽祭の終わり

音楽祭の終わり



 舞台では、モーツァルト、皇帝ティートの慈悲のオペラが進行している。

 鋭く、そして緩やかな楽器の音色。

 舞台に立つオペラ歌手の歌声が空気を震わせる。


「いいですね、こういうの」


「ああ。けど、目的も忘れるなよ」


「もちろん」


「顔を向けないようにな。目を向けられることには慣れた連中だろうが、同時に危険に敏感な奴が多い」


 ターゲットの男に意識を向けながらも、部隊の演奏を楽しんだ。


 演目の全てを終え、客たちは感嘆の声をあげながら外へ出ていく。

 それでもまだ半分ほどの客が残っている。

 それも次第にはけていく。


 また半分ほどが減り、残っているのは、タキシード姿の男たちにドレスで飾った女たち、そして親と同様の恰好をした子供たち。


 いつの間にか、上流階級の人間だけがいることを許された場所のようになった。

 いや、むしろそれが正解なのかもしれない。

 テレビや雑誌、新聞の中で見たことのある顔ばかりだ。


 音楽祭に求められるドレスコードは、ある程度フォーマルというほどであるが、こうなることを見越して、俺はタキシード、小都音(ことね)もドレスを着ている。

 一応、この場では目立たないはずだ……。


 2人組みの初老の男を視界の端に捉える。


「やれやれだな。音楽祭も終わる。また仕事に戻らねば、だ」


「まったくだ。だが我々が手を休めれば国の民が飢えてしまう」


「ははは、違いない」


 俺たちは静かに談笑を交わしながら、2人の男が外へ出るのを待った。


「ターゲットは眼鏡をかけた髭の男だな」


「名はアレクシス・ディーター。政界に強い影響力をもっているようですね」


「しばらくつけるか」


「はい」


 小都音(ことね)と腕を組み、追跡を開始する。

 劇場の外はライトアップされており明るいが、しかし角を曲ると途端に薄暗くなる。

 そこで不可視のルーンにより姿を消す。


 途中で通った広場では、まだ騒がしく祭りの余韻を残している。

 皆、好き好きに楽器を演奏している。

 さすがモーツァルトの生家があるだけのこともあり、どれもきちんとした音楽となっている。


 アレクシスは人の群れから離れたところで、駐めてあった黒い車の後部座席に乗り込んだ。

 その車が高級車であることは一目で分かった。

 すぐにアレクシスを乗せた車は低いエンジン音とともに角を曲がっていってしまった。

 アレクシスは自身の屋敷へと帰るはずだ。


「どうします? 追えないこともないですけれど……」


「いや、ここからはルーンにまかせる。ホテルに戻ろう」


「わかりました。――感知されないように気をつけて」


「ああ。距離は十分に保つよ」


 今も昔もかわらず、権力者は魔術や妖術に対しても抜かりなく対策を敷いている。


 俺たちはそのまま、ホテルのスイートルームへと戻った。

 タキシードを脱ぎ、部屋着に着替える。

 小都音もドレスを脱いでいつもの格好になった。


「コーヒー、淹れましょうか?」


「頼む」


 小都音(ことね)がキッチンへ向かう。

 リビングの椅子に腰掛け、ルーンから流れてくる視界に視点を合わせる。


 アレクシスを乗せた車は街を抜けると、整備された山道を登っていく。

 見えてきた屋敷はゴシック調の造型をした、屋敷と言うより城といってよい代物だった。

 黒色の高級車は闇に紛れながら屋敷の中へと入っていった。


 彼の屋敷には結界がしいてあるに違いない。

 結界を警戒し遠くからぎりぎり見える距離でルーンによる追跡を()めた。

 放ったルーンが結界に引っかかれば、逆探知されかねない。

 以前、俺自身がこちらの組織に忍び込んだ術者に対して行なったことでもある。

 あのときは、ルーンではなくカメレオンの姿を模した使い魔だったが……。


 アレクシスが《未来を見る鏡》を持っている、という情報が入ったのはひと月前のことだった。

 その鏡は、遥か昔、小都音(ことね)の村に祀られていたものだ。

 未来を映し出す鏡を欲した当時の帝の手に渡り、時代と共に宣教師、オランダ貿易商と経て、そして欧州へと流れ、近年では幾度か競売にかけられ持ち主を転々としていたそうだ。

 最後の落札記録から、15年前にアレクシス・ディーターの手に渡ったことが推察された。


 記録とは言っても競売自体が密かに行なわれたものであるため、情報の確度が高いとは言えなかった。


 しかし資本を動かし株式市場ではやり手と言われるようになった時期を考えると、あながち間違いともいえない。

 もちろん、未来予知の能力に長けた占い師を雇った可能性も否定はできない。

 しかし、それはありえない……。

 こと、金銭に関わることに対して、魔術や占術はあまり効果を示さない。

 その手の魔術は、世界の経済バランスを崩しかねないため、ある種の加護が働いており、普通なら実行すらできない。


 そういった加護(ルール)の外で、金銭に係る魔術を実行するには、金銭という概念が希薄な時代に造られたモノが必要だ。

 つまり、貨幣史を紐とけば、金銭の概念が曖昧だった紀元前30世紀よりも以前に造られたモノなら、金銭に関わる魔術も行使できる可能性がある。


 《未来を見る鏡》はそのひとつだ……。

 







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