表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/44

小刀

小刀



 等間隔に置かれた松明の頼りない明かりが通路の奥まで影を伸ばす。

 天井の背は低い。

 歩を進めるたびに剥き出しの岩肌に足音が反響する。


 奥に進むにつれて遠くの(わめ)き声が大きくなってくる。


「彼らここまで侵入されるとは考えていなかったのでしょうね」


「そうだろうな。ここの守りはなかなか堅い。普通のやり方じゃここまで来れない」


 地下に(もぐ)る前に見つけた扉まで早足で向かう。

 目的はここを(つぶ)すことではなく、紫水晶を取り返すことだ。

 もう水晶とともに行方(ゆくえ)をくらまされるのは勘弁だ。

 この広い世界で宝石ひとつを見つけ出すことは容易なことではない。




***




 小都音(ことね)の握る小刀に目をやる。

 刃渡りはだいたい30センチメートルだ。

 天井は低く幅も狭いため、いつもの刀では振りあげや袈裟切りといった立ち回りがしにくい。

 ここでは小刀のほうが動きやすい。

 ただ俺には、小都音(ことね)が小刀を使っていた記憶はほとんどない。


「そいつの名は?」


 興味本位に聞いてみた。


中秋名月(ちゅうしょうめいげつ)。秋の待宵(まちよい)十六夜(いざよい)の間の満月のことです」


「へえ。綺麗な名前だ」


「でしょう。私もそう思います。あまり出番はないんですけど、お気に入りなんですよ」


 (つば)のない白い木でできた(つか)の刀だ。


 雑談交じりに奥へ進む。

 途中まで順調に進んでいけたが、やはり白いローブと出くわすことになった。


 相手は2人。

 手には木でできた杖がある。

 まるで仙人の杖のようだ。

 何か言いながら、杖をかかげ障壁を発生させ道を塞いでいる。


障壁(あれ)、あなたには通用しないことがわからないのかしら?」


「ふつうの魔術師はあれ以外の手段を知らないんだよ」


「かわいそうに……」


 立ちはだかるローブの2人が展開する障壁に鉄製のガントレットの爪を食い込ませて掴み、放り投げてやった。

 それだけで障壁は無惨に消滅する。


 フードに隠れた顔は見えないが彼らは何が起きたか理解もできていないだろう。

 さらに小都音(ことね)は相手に理解するための時間も与える気がないようだ。


「ほんとう、かわいそう」


 いいながら(さや)から小刀を抜く。


 逆手(さかて)に持ち、下から上に切り上げる。

 前に出ていたローブの男のフードの前が切れて顔があらわになる。

 そして、小刀を胸の位置にもっていき、右手に握った刀の(つか)(かしら)に左手を添えて突きのように押し出す。

 容赦なく胸に突き刺さった。


 刺さった刃を胸から抜くと、どす黒い血が一緒に出てきて小都音(ことね)を汚した。


 男が崩れるように(ひざまず)く。


「どう? 死にかけた感想は?」


 小都音(ことね)がそう口にした途端、黒い血がなくなった。

 白いローブの男の胸にも傷はない。

 そもそもフードも切れていない。


 なんだ今のは……。

 幻覚だったのか?


「立ちなさい」


 胸倉を掴んで壁に叩きつけるように立たせ、今度は本当に小刀を抜き、ぴたりと男の首筋に刃を押し当てる。

 肉に食い込み赤い線ができ血がにじみ出るようにして流れた。


「選びなさい。死にますか? もし生きていたいなら……、そうですね。10秒、(まばた)きをがまんなさい」


 怖い女だ。


 それにしても弱い。

 反撃どころか反応することもままならない。

 体をがくがくと振るわせ、引きつった表情で目を閉じるのを耐えている。


 後ろの男も何もできず、何も言えずにただ杖を両手でもって構えているだけだ。


 もし高度な術者なら高速の詠唱でもって反撃にでも出ればよい。

 もちろん命はないかもしれないが。

 彼らは死を恐れない天使や騎士とは決定的に違う。



 10秒が経って、首筋から刀を離す。

 杖が手から滑り落ち、からんと音を立てて転がる。

 そしてぺたんと床に膝が落ちた。


 二人とも動けないままだ。


「いくぞ、小都音(ことね)


「はい」


 小刀を鞘に納めるのを確認して、俺たちは先を急いだ。


「さっきの、その刀の能力なのか?」


「そうですよ。名月(めいげつ)は本当なら幸せな未来を見せる方が得意なんですけどね。やさしい子ですから」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ