小刀
小刀
等間隔に置かれた松明の頼りない明かりが通路の奥まで影を伸ばす。
天井の背は低い。
歩を進めるたびに剥き出しの岩肌に足音が反響する。
奥に進むにつれて遠くの喚き声が大きくなってくる。
「彼らここまで侵入されるとは考えていなかったのでしょうね」
「そうだろうな。ここの守りはなかなか堅い。普通のやり方じゃここまで来れない」
地下に潜る前に見つけた扉まで早足で向かう。
目的はここを潰すことではなく、紫水晶を取り返すことだ。
もう水晶とともに行方をくらまされるのは勘弁だ。
この広い世界で宝石ひとつを見つけ出すことは容易なことではない。
***
小都音の握る小刀に目をやる。
刃渡りはだいたい30センチメートルだ。
天井は低く幅も狭いため、いつもの刀では振りあげや袈裟切りといった立ち回りがしにくい。
ここでは小刀のほうが動きやすい。
ただ俺には、小都音が小刀を使っていた記憶はほとんどない。
「そいつの名は?」
興味本位に聞いてみた。
「中秋名月。秋の待宵と十六夜の間の満月のことです」
「へえ。綺麗な名前だ」
「でしょう。私もそう思います。あまり出番はないんですけど、お気に入りなんですよ」
鍔のない白い木でできた柄の刀だ。
雑談交じりに奥へ進む。
途中まで順調に進んでいけたが、やはり白いローブと出くわすことになった。
相手は2人。
手には木でできた杖がある。
まるで仙人の杖のようだ。
何か言いながら、杖をかかげ障壁を発生させ道を塞いでいる。
「障壁、あなたには通用しないことがわからないのかしら?」
「ふつうの魔術師はあれ以外の手段を知らないんだよ」
「かわいそうに……」
立ちはだかるローブの2人が展開する障壁に鉄製のガントレットの爪を食い込ませて掴み、放り投げてやった。
それだけで障壁は無惨に消滅する。
フードに隠れた顔は見えないが彼らは何が起きたか理解もできていないだろう。
さらに小都音は相手に理解するための時間も与える気がないようだ。
「ほんとう、かわいそう」
いいながら鞘から小刀を抜く。
逆手に持ち、下から上に切り上げる。
前に出ていたローブの男のフードの前が切れて顔があらわになる。
そして、小刀を胸の位置にもっていき、右手に握った刀の柄の頭に左手を添えて突きのように押し出す。
容赦なく胸に突き刺さった。
刺さった刃を胸から抜くと、どす黒い血が一緒に出てきて小都音を汚した。
男が崩れるように跪く。
「どう? 死にかけた感想は?」
小都音がそう口にした途端、黒い血がなくなった。
白いローブの男の胸にも傷はない。
そもそもフードも切れていない。
なんだ今のは……。
幻覚だったのか?
「立ちなさい」
胸倉を掴んで壁に叩きつけるように立たせ、今度は本当に小刀を抜き、ぴたりと男の首筋に刃を押し当てる。
肉に食い込み赤い線ができ血がにじみ出るようにして流れた。
「選びなさい。死にますか? もし生きていたいなら……、そうですね。10秒、瞬きをがまんなさい」
怖い女だ。
それにしても弱い。
反撃どころか反応することもままならない。
体をがくがくと振るわせ、引きつった表情で目を閉じるのを耐えている。
後ろの男も何もできず、何も言えずにただ杖を両手でもって構えているだけだ。
もし高度な術者なら高速の詠唱でもって反撃にでも出ればよい。
もちろん命はないかもしれないが。
彼らは死を恐れない天使や騎士とは決定的に違う。
10秒が経って、首筋から刀を離す。
杖が手から滑り落ち、からんと音を立てて転がる。
そしてぺたんと床に膝が落ちた。
二人とも動けないままだ。
「いくぞ、小都音」
「はい」
小刀を鞘に納めるのを確認して、俺たちは先を急いだ。
「さっきの、その刀の能力なのか?」
「そうですよ。名月は本当なら幸せな未来を見せる方が得意なんですけどね。やさしい子ですから」




