宮殿
宮殿
幅の広い坂道を登る。
右側は石のつまれた壁。
左側からは街を見下ろせる。
目指す宮殿はこの都市の最も高いところにある。
話によると、かつての騎士団長の居住地であり、最高審議を執りおこっていた場所でもあるという。
長距離を射程におさめる大砲や航空機による対地爆撃のない時代なら最も安全な場所だったに違いない。
古い2塔の煉瓦造りの砦が見えてきた。
柱の影に隠れて様子をうかがう。
2本の砦の間には門があり、その奥に目指していた宮殿がある。
「あのスナイパーから読み取った情報によるとここで正解らしい。誰かに頭の中を操作されていなければの話だけどな」
「まずはその情報が正しいと信じましょう。まさに、という場所ですし。ただ、相手の正体が見えてきませんね。ここと関連があるとすれば今も現存する有名な騎士団がありますが……。でもここを捨てて500年も経っています。騎士団から派生した別組織とか?」
「どうだろうな。いずれにせよ、中に入るにはどうするか……」
どちらの塔の見張り台にも人影がある。
塔の高さは十数メートルといったところ。
俺たちがこの都市に侵入していることは相手も知っている。
かなり警戒しているはずだ。
さて、どうする?
小都音の刀はもちろん届かない。
姿がみえないであろう俺が回り込んで仕留めるか?
いや、1塔の見張りを倒している間に別の塔のやつが異変に気付く。
やはりルーンを刻んだ石の投石しかない……。
はっきりいって距離がありすぎる。
1塔に2人ずつ。
4つのルーンを同時に投石。
ひとりも外せない。
「そうだな……。あの4人を同時にルーンで仕留める。命中精度をあげるものはあるか?」
「もちろんです。悪魔レラージュの力を借りましょう。手を出して」
言われたとおり右手のガントレットを外して手を差し出す。
人差し指でなぞるように手の甲にレラージュの紋章を描いてくれた。
加えて俺は幸運のルーンも一緒に刻んだ。
4つの石を取り出し、まず2つを握る。
まずは片方の塔を。
次にもう片方だ。
ときおり吹く風が止むタイミングを見計らう。
狙いをつけ、右の塔の見張りに氷結のルーンを投げ付ける。
びきっと見張りが動かなくなったことを確認し、続けて左の見張りに投げ付ける。
同じようにして見張りの2人が動きを止めた。
「さすが」
小都音が、ぱちぱちと小さく拍手。
「よし、いくぞ」
「はい」
***
障壁は全てガントレットで破壊していく。
無事、宮殿の中に入ることができた。
通路の床にはモザイク画が施され、壁には当時を語る絵画が数多くかけられている。
そして通路の両側にはいくつもの扉。
「どこに進むべきかな?」
「やはり奥に、でしょうね。うーん、どれか部屋に入る必要がありますね」
小都音のいうとおり、この通路の突き当たりは行き止まりで左右の部屋のどれかに入る必要がある。
扉のひとつに触れてみる。
幸い、扉には障壁は施されていなかった。
「そうだな。ちょっと待っていろ。ルーンで中を探る」
石をひとつ取り出し放つ。
ざっと見ていくと、人のいる部屋や食事をとるところなのか広いテーブルが置いてある部屋、像が置いてあるだけの無人の部屋があった。
しかしどこが重要な部屋のなのか、紫水晶がどこにあるのかは分からなかった。
「どうです?」
「水晶がどこにあるのかはわからない。けど人の出入りのある部屋がある。できるだけそこを避けて奥を目指そう」
ルーンで探ったとおり、人の来なそうな部屋を選んで奥へ進む。
3つ目の部屋に入った。
その部屋の中央には円柱の柱が2本あった。
壁際には手に剣と蝋燭を持ち、背に黄金の羽を生やした天使の像が等間隔に並んでいる。
この部屋は、何かが変だ。
「ここ……なんだか異様な雰囲気を感じます」
「小都音もか」
周りを見渡す。
突然、天使の像の1体の目に明かり灯った。
それに合わせるように、一辺の壁に2体ずつ、合計8体の天使がごごご、と音をたて動き出す。
手に持つ蝋燭に火が灯る。
「な! 小都音、囲まれる!」
「これ、まずいです」
小都音は鞘から刀を抜き、正眼に構える。
俺も小都音に背をあずけ、右手のガントレットを構え、左手にルーンを握る。
天使は一歩、前に足を踏みだしたかと思うと、黄金の羽をはばたかせ宙に舞う。
天井は高い。空中を踊るように飛び回る天使たちの動きを目で追う。
「天使、ろうそくの火、剣……。小都音、なかなか厄介だ。気をつけろ」
「理靖も。いつもどおりにやりましょう」
天使が一斉に向かってきた。
小都音は俺から距離を取り、俺も小都音の逆に行く。
これまでと同じように小都音が敵を誘い、俺が背後からルーンを刻む。
しかし、予想外に天使の半分が俺に対しても向かってきた。
「ち、こいつらみえてやがる」
さすが天使を象った像だ。
俺の姿が見えているらしい。
勢い良く滑空してくる天使の一体に松明のルーンを刻み、残りの3体の攻撃は体をひねって躱す。
天使は一瞬激しく燃え上がったが、石でできた体にはなんらダメージはないらしい。
黒く煤で汚れただけだった。
がん、と刀が出す音とは思えない音がした。
まるで金属のかなずちで岩を叩くような音だ。
小都音の一太刀も石像の天使には効果が薄いようだ。
次の攻撃に警戒していると、がちゃんがちゃんと部屋の外から音がした。
この音、まずいな……。
「小都音、後ろだ。気をつけろ!」
「え!? この」
廊下から来た騎士甲冑が小都音の後ろから斬りかかった。
ぎりぎりでそれをよける。
俺の方からもか。
部屋には廊下と別の部屋へ続く扉が2つある。
俺は天使が振う剣の一撃を躱し、右後ろに目をやった。
ちょうど、甲冑が入ってきて剣を振り上げているところだった。
右手のガントレットで受け止める。
左手で氷結のルーンを刻む。
――止まらない。
甲冑の中身は人間じゃない!?
「くそ」
甲冑から距離をとる。
部屋には天使が8体、甲冑をつけた騎士が2体。
明らかに不利だ。
騎士は部屋の外へ続く扉を塞ぐように立っていて逃げることも難しい。
この不利を打開するか。
「小都音! ばらばらだと不利だ」
再び部屋の中央に小都音と背をあずけ合う格好を取り、宙を円周状に回る天使と扉を塞ぐ騎士を睨んだ。




