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城塞都市

城塞都市



 夜。

 辺りは静まり返っていた。

 門に登った俺は辺りを見回して様子を伺う。

 風が駆け抜ける音と黒いローブのはためく音しか聞こえてこない。


 遠くを見ると、魔力を持った何かが近づいてくるのがわかった。


 悠長にしている時間はない。


 右手にはめたガントレット(ヤールングレイプル)で、門の中央にある盾の形をした魔女払いの紋章に触れる。

 そして魔力の集中する場所を探り、握りつぶすように掴んで、ひき(はが)す。


 ヤールングレイプルは北欧の伝承のとおり、掴む(、、)ことに長けている。

 その対象は物でも霊でも魔力そのものでも構わない。


 パチンと何かがはじけた感触。

 それと同時に紋章の効力が失われていく。


 すぐに門の上から飛び降りる。


 小都音(ことね)が手を伸ばし、門の外と内の間になんら障害がないことを確認する。


理靖(りせい)、行きましょう」と言って姿を消す。

 不可視の魔術だ。


「気をつけろよ」と応え、俺も姿を消した。


 靴が石畳を打つ音が木霊する。

 探索のルーンを放つ。意識の中にルーンを通して見える別の視点が加わる。


 旧市街の店は全て締まり、少ない電灯の明かりが申し訳なさそうに辺りを照している。


「来ます!」


 小都音(ことね)は上に目を向けながら止まり、鞘から刀を抜き水平に構えた。


「捕らえろォォォォ!」


 野蛮な声とともに甲冑(かっちゅう)が降ってきた。


 ガァン


 上から飛び降りてきた騎士甲冑が振るった幅の広い剣を刀で受け止める。


「く、重い」


 剣に魔力が通っているのがわかる。

 あれには注意が必要だ。

 普通の剣と違い、俺もダメージを負う。


 続けて2体、3体と降ってくる。計4体。

 くすんだ銀色の甲冑がガチャンガチャンときしんだ音をたてて西洋の剣を持ち上げる。


 小都音は体の軸をずらし、受けていた剣を流して、すぐさま自分を囲う甲冑の胴に刀を振るった。


 ギン、ギン、ギンと3度金属が鈍く鳴く。刃は甲冑の中まで通っていない。


 最後の一撃のあと、素早く騎士の間を縫って囲いから(のが)れる。 


 4体の騎士甲冑が小都音(ことね)に身体を向ける。


「あら、堅いんですね。でも残念……」


「見えてないだろ?」


 俺は小都音のセリフに続け、背後から氷結のルーンを甲冑に刻み付けた。


「な……に……」


 4体の騎士が凍りついて動きを止めた。


 魔術による不可視に加えて死者としての俺の特性を合わせれば、並みの術者では俺という存在を認識(、、)することすらできない。


 小都音は刀を鞘に納め、


「刀から伝わった感触、単なる鉄ではないように感じました」


「ここは元々、騎士団が巣食っていた場所だからな。騎士の甲冑にはこの土地の加護(、、、、、)が働いているんだろう」


 立ったまま動かなくなった甲冑を前蹴りし、地面に倒す。

 ガチャンと音を立てて兜が転がる。

 兜に隠れていた男の顔は西洋人のものだ。


「なるほど。中世の騎士の霊を呼び出しているのかと懸念していたんだが、中身は生きた人間だ」


 もしも騎士の霊だったならさぞや強かったことだろう。

 この地に眠る騎士はオスマン帝国との戦いの中で生きていた。

 彼らにとって生きることは戦うことと同じだったに違いないから。




 ゆるやかにカーブを描く坂道を進む。


 進むに連れて甲冑を身につけた敵と遭遇する数が増えてくる。

 凍らせるか燃やすか斬るかの違いはあっても、死体の山を築いていくことに変わりはない。


 広場に出た。

 背の低い建物が4つ、ベランダのある3階建ての建物、そして教会。


「や!」


 小都音が前に出て一閃。

 ほんの一瞬遅れてチュン、と消音した銃声が聞こえ、2つに分かれた銃弾が背後の壁にあたった。


 ベランダと教会の屋根を逡巡する。


 居た!


 協会の十字架の影にライフルを持った男。

 顔には刃物でえぐられたような深い傷がついていた。


 刀で相手をするには距離がある。


 小都音は刀の振りで術式を発動させる魔術も得意としている。

 この距離からでも届く(じゅつ)はあるが()めが長く銃相手では扱いが難しい。


「俺がいく」 


 小さく告げて男の背後を取るために移動する。


「女、空港にいたもう一人の男はどうした?」


 狙撃銃のスコープから目を離し、聞こえるように大きな声で問いかける。


「あら、あのときの。ふふ、どこでしょうね?」


 このスナイパーにも俺の姿は見えていないようだ。


「ふん、逃げたか。懸命な判断だ。お前もここから去れ。我々に関わるな」 


 ライフルの銃口を小都音(ことね)に向ける。


「関わるな、と申されましても、関わってきたのはそちらでしょう? 私たちの紫水晶、返していただけませんと」


「たわごとを。それこそこちらのセリフだ。あれは我々が騎士団を組むより以前からの宝物(ほうもつ)だ」


「あら、あなた、ひょっとして詳しいお方? もしそうだとして、どのような経緯で水晶があの人の村に移ったかは存じませんが、それでもわたしたちにとって大切なものに違いありません。ですから――」


 男が引き金に指をかけたところで、小都音(ことね)は刀を正眼に構えて応じてみせる。

 空気がはりつめる。

 男の人差し指が動き、引き金が引かれた。

 構えた刀をわずかに右にずらす。

 キン、と音がして二つに分かれた銃弾が石畳を打った。


理靖(りせい)、殺してはだめよ」


「わかってる」


 小都音(ことね)と男が話をしている隙に、俺はこいつの背後を取っていた。


「なに!?」


 右手のガントレットで驚愕する男の障壁を剥ぎ取り、顔面をぶん殴る。

 気絶した男の頭を鷲掴(わしづか)み、知識のルーンで男の脳内情報にアクセスを開始する。




 

 

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