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夢2

あれから1時間が経った。


一向に彼女の友人とやらは来ない。


いったい、こんなにも可愛い彼女をおいて、どこへ行っているのだろうか。


彼女の顔には若干疲労の色が見えたので、椅子に座らせておいた。


俺はというと、毎日の日課である自転車での見回りをしていた。


一応何かあれば彼女からいつでも連絡できるよう交番の固定電話の使い方を教えてあげた。

使い方は簡単、受話器を上げるだけ。

すると即、俺のこの携帯電話に繋がる。


本当はずっと彼女を見守っていたいのだが、仕事もせずに給料だけ貰うのは気分が良いものではない。


それにしつこくつきまとって嫌われては元も子もない。


さらに、この自転車での見回りは彼女の友人探しも兼ねている。

オペレーション伝書鳩が失敗したのならば、俺が彼女と彼女の友人の伝書鳩になればいいのだ。


しかし、自転車に乗って大通りを走っているが、彼女の友人らしき姿は見えない。


特徴は長身、黒スーツ、黒タイトスカート、赤髪、女性。

年齢は俺と同じらしい。


てっきり、彼女と同世代の10代だと思ってたんだが……


赤髪とか長身とかかなり目立ちやすい要素なのだが、俺の見える範囲にいなければ見つかるわけがない。


いっそ、情報屋に頼みたいが、あいつは金のかわりに新しい情報を求めてくるので厄介だ。


「やはり、地道に探すしかないか……」


俺は時間の許す限り、大通りだけでなく自転車で行ける範囲をさらにくまなく探してみたが、それでも見つからなかった。



俺はいつも自転車での見回りを終える時間に戻ってきた。


「お疲れ様です……」


彼女は俺が帰ってくると出迎えてくれた。


そういえば、こうして出かけていて帰ったときに誰かが待っていてくれるというのはずいぶん久しぶりな感覚だ。


「ところで、まだ、その友人は来ていないのか?」


「は、はい……まだ……」


「そうか、すまないな。力になれなくて」


「そ、そんなことないですよ……私ひとりでは今頃もっと大変なことに……」


はたしてそうだろうか?

なかなかすごいラインナップだったが、一応連絡手段はちゃんとあった。方法はともかく、中には有効な手段もあった。


「俺は君の役に立つことをなんにもしてないよ」


「でも……困ってる私に親切に接してくださいました……」


「それは、警察官として当然のことをしただけですよ。悪を挫き、弱きを助けるのが本来、警察官に与えられた仕事ですからね」


「まるで……そうではないような言い方ですね」


彼女は可笑しそうに笑った。

困った顔より笑った顔の方が可愛い。


「警察官だって人間です。悪を助け、弱きを挫くことだってあります。職業が警察官というだけで、犯罪を起こせば、犯罪者と変わりませんよ。違うところといえば、警察の権力、警察官としての信用をまんまと悪用できることでしょうかね」


「あなたもですか?」


彼女は依然として笑っていた。


「そうかもしれませんね」


そんな彼女を見ていると自然と俺の表情も穏やかなものになっていった。


そのとき、彼女に気を許していたのだと初めて気付いた。


しばらく彼女はそんな俺をじっと見つめていた。


おいおい、そんなに見つめられたら、俺に気があるのかと勘違いしてしまうではないか。


「私にはお巡りさんが悪い人にはみえませんよ……? むしろ……親切で優しい人――」


「それは違う!」俺はいつの間にか叫んでいた。


ああ、そうだとも。

俺は親切でも優しくもない。

彼女を助けようと思ったのはそんな素敵な理由ではない。

ただの下心だ。

そして、俺の嫌いな偽善だよ。


俺はそう思うことでやっと思い出した。

彼女のことで頭がいっぱいだった俺の頭が忘れていたことをはっきりと思い出した。


俺は、信頼とまではいかないにしても、少なくとも信用していた人に裏切られた。

信じていたのに、だ……


そうして俺はいつしか誓ったのだ。

善人、ましてやそいつのように偽善者となるぐらいなら、いっそ悪人になる、と。


それに悪人になり、さげすまれ、忌み嫌われた方がましだ。

賽の河原の石積みのように積み上げたものを崩されるなら、俺は積み上げない。

築いてきた関係も友情も、些細なきっかけで崩れ去る。

ならば俺はもう人を信じないし、人に信じてもらわなくてもいい。

初めから信じていなければ裏切られることなんてなくて済むのだから。


「でも……」


彼女は何か言いたげだったが、すぐ黙って何かに脅えるような目をした。


何故……と思い、ふと交番のガラス扉に目がいった。


そこには制帽を目深に被り、人間がすべきでない光を失った目でいたいけな少女を睨みつける自分の姿が写っていた。


俺は逃げるように交番の奥にある部屋に駆け込んだ。


それは彼女に会わせる顔がなかったわけでも自分の行いを恥じたからでもなく、ただ自分の影が恐ろしく、おぞましく思えたからだ。


ガラス扉に写ったソレは自分とは別のものに思えたからだ。




俺が自分の行いを恥じ、彼女に謝罪をしようと思ったのは、それから数時間も経ってからだった。


他人に心を閉ざしていたはずの俺が何故そう思ったのかはわからない。


本当は失ったはずの心のどこかで誰かに好かれたいと思っていたのだろうか……

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