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独2

さて、見知らぬ青年に同行を許可してしまったと言えばあまりよろしくない状況だが、協力な助っ人を得たという点ではすごく助かってはいる。


今も隣で「ケイタイ」と呼ばれる薄い箱の表面を指で押したりなぞったりしている。


私には何をしているかさっぱり分からなかったので、それについて訊ねてみると驚かれたが、親切に詳しく教えてもらった。


どうやら「ケイタイ」というのは現代社会には必要不可欠な代物で、なんと、こんなにも小さいのに遠く離れた人に情報を送れるらしい。

まことに便利な世の中である。


それさえあれば迷子のあの子を探さずとも済んだのに……


と、今はそんなことを後悔しても仕方ない。隣にいるさわやか青年の「ケイタイ」から入る私の友人の目撃情報に託すしかないのだ。


「そういえば自己紹介がまだでしたっすね。僕の名前は桑原くわばら 哲男てつおっす。お姉さんの名前は?」


「私の名前はリーシア・タオゼントよ」


そう名乗るとさわやか青年こと桑原君は「あれ?」と不思議そうな顔になった。


「ホントに外国人だったんですね。日本語が上手いから、てっきり日本人だと思ってましたよ」


「その理論だと日本語が上手い外国人はみんな日本人になっちゃうわよ」


日本語は日本人だけが会得していると思う人も少なくない。それは日本以外に公用語が日本語である国がないためである。


だから日本人が「日本語がお上手ですね」と外国人に言うことがあるが、そう言われると少し軽蔑されているように感じるらしい。

私もそうだし、私だって頑張って日本語を覚えたのよ!


「リーシアさんは面白いことを言いますね。確かに、そうですね」


「うーん、面白いことを言ったつもりはないけど……」


「世の中、そういうもんっすよ。そのつもりはないのに、そうなってしまう」


私はそこでふと、迷子になったつもりはないのに迷子になってしまっている私に気付く。


ミイラとりがミイラになる、ゾンビハンターがゾンビになる? とはこのことか……


と、思いながら、私はさながらゾンビのようにうつむいて歩いていた。




しばらく、そのままとぼとぼ歩いていると「あ!」と桑原君の声らしき声が聞こえたので顔をあげた。


「どうやら、ある情報屋の人がその女の子を烏丸公園で見かけたらしいっす!」


桑原君は私に「ケイタイ」の画面を見せた。


『その子やったら烏丸公園で見かけたで?』

『なんちゅうかさ、おとぎ話から出てきたみたいな雰囲気でね』

『それにその子、めっさええ乳しとるよな?』

『めっさエロくて可愛かったわ~』


画面の向こうの情報屋は奇妙な日本語を使っていた。

それと感想は不要だ。あの世行きにするぞテメェ。


「ところで、その烏丸公園っていうのは?」


「このすぐ近くっす! さあ、行きましょう!」


桑原君は私の手を引き走り出した。


桑原君はどこかで鍛えているのかけっこう走るのが速かった。


そのため烏丸公園まではほんの数分でたどり着いてしまった。


烏丸公園。

それは大都市のオアシス、憩いの場と言わんばかりに植樹された緑が生い茂る場所だった。

これがせめてもの温暖化対策なのだろう。これだけではまったく効果がないだろうと思うのだが、コンクリートの砂漠よりは涼しく感じた。


まだ昼にもなっていないのに公園のベンチは全て占領され、芝生の上も様々な人が羽を休めている。


その中にひときわ異色な人間……


糸目に長めの黒髪、八重歯で白衣を着ていてママチャリと呼ばれる自転車で蛇行運転をしながら走っている人がいた。



「あれが、情報屋かな……? ブログに書いてる特徴のまんまだし……」


桑原君が呟く。


すると、その変な人はこちらに気付いて蛇行運転をしながら近づいてきた。

そして、道半ばで派手に転倒した。




私と桑原君は慌てて変な人に駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫や。なれとるしな」


笑いながら変な人は立ち上がり、パンパンと服についた汚れを払い落とした。


「どうも、わしが情報屋や。よろしく頼んます」


本当にいろいろ大丈夫かこの人……?


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