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独唱曲

迷子の友人を探す迷い人の物語

私は迷子になった友人を探すため、人であふれかえる大通りを歩いていた。


私よりもひとまわり年下のあの子は生まれつきの超ド天然少女で、その性格から事件や事故に巻き込まれやすい体質を持っている。

それでいて、こんなおばさんみたいな私よりも可愛くて、優しくて、真面目で、純粋なのでよくワルそうな人たちに追われたり、迫られたり、あわや間一髪なんてこともしばしば起こっている。


そんなあの子がこんな迷路のごとき高層ビル立ち並ぶ立体交差と地下道で入り組む日本最大の都市で迷子、と思うと心配でならない。


とりあえず、こうして大通りを見てまわるけれども、それらしい姿は見当たらない。

しかも、いくら必死に探そうが、お昼の時間に近づくにつれ人通りは増える一方で、より探し出すのが難しくなっていった。




それにしても、日本人という人種はよくこれだけ動き回っていられると、いつも感心させられる。

こんなにも皆が皆勤勉な種族は見たことがないと、日本に行ったことのある友人たちが口をそろえて言うぐらい日本人はよく働くのだ。

まあ、そういった働きすぎる日本人に宿る日本人の精神が極東の小さな島国が今まで生き残ってきた理由なのだろう。




高層ビルを見上げながら日本の成長っぷりに感心しながら歩いていたので、前を歩く男性が立ち止まったことに気づかず、ぶつかってしまった。


「申し訳ございません」


先に謝ったのは真面目そうな男性。

深々と頭を下げた。


そういえば、日本に来て一番驚いたのは日本人たちが、とにかく謝ることだ。

私のいた国でも多少の謝罪はあるにせよここまでペコペコと頭を下げるのは本当に驚いた。

たとえ自分に落ち度があろうが、相手に落ち度があろうが、すぐに謝るのは日本人かある北方の民族ぐらいなのだという。


しかし、そんな日本の民族の歴史や文化をちゃんと学ばないヤツらはすぐ片言の「ニホンゴ」で日本人を「サムライ」や「ニンジャ」と呼び、自己犠牲のことを「ハラキリ」などとむやみやたらな使い方をし、「馬鹿」などと書かれたTシャツを好んで着ているという。


まあ、かく言う私も「コトワザ」にハマっているのだけども……




「あの、大丈夫ですか?」


我にかえると男性は心配そうにこちらを見ていた。


「いえ、大丈夫ですよ」


「そうですか? それなら良いのですが……」


男性は「本当に大丈夫なのだろうか?」みたいな不安そうな表情を浮かべている。


「ほ、本当に大丈夫ですよ。このとおり、何ともありませんから」


そう言いながら私は肘や手などを見せた。

ほら、なんともなってない。

ケガ、ナシ、ダイジョウブ‼


すると、その男性はやっと納得したようで、もう一度「申し訳ございません」と深く礼をしてからまた歩き出した。


礼をしたとき一瞬黒いジャケットの下にキャラクターの絵が大きく描かれたTシャツを着ていたのが見えたが、気のせいにしておこう。

うん、私は何も見なかったぞ。




さて、今更なんだが、あの男性に迷子の友人のことをついでに聞いておけばよかったと後悔している。

あれだけ親切ならちょっとは迷子探しに協力……

いや、待てよ。

別にあの男性に限らず親切大国に住む人々ならば、捜索に協力とまではいかないが、情報ぐらいは教えてくれるのではないだろうか?




よし、そうと決まればさっそく行動開始だ。


まずは優しそうな黒いスーツの女性に声をかけてみよう。


「あの、すみません。このあたりで、私の肩ぐらいの身長で制服を着た髪の長い女の子を見ませんでしたか? ちょっと頼りなさそうな顔をした女の子を」


そう訊ねると女性はすこし悩んでから「いえ、見ていませんね」と答えた。


「そうですか……」


その女性は「無事、見つかるといいですね」と言って去っていった。

まあ、最初はこんなもんだって。


次は生真面目そうな丸眼鏡の男性。

先ほどの女性と同じ内容で訊ねてみると、「わたくしは見かけていませんね」と答えた。


しかし、「お力添えできず、申し訳ございません」と謝った。


ここでもきちんと謝るのか……

日本人、恐るべし。


その後、迷子の友人と似たような雰囲気をしている気弱そうなグレーのスーツの男性や私と似たような雰囲気をしている白衣の女性、などに聞いてみたが、全く有力な情報は得られなかった。


そもそもこの大群衆の中、ピンポイントであの子を見ている人がいるわけがないわよね。

逆にそんなやつがいたら真っ先にそいつを問い詰めて、場合によってはノックアウト、最悪あの世行きにさせてやるわよ。




「ねえ、そこのお姉さん」


勝手に復讐に燃える私に向かって青年が不意に声をかけてきたので思わずたじろいだ。


そうか、急に声をかけられたらそりゃあ、驚くわね。

どおりでみんな戸惑ったような顔をしていたわけだわ。


「あ、いや、驚かせるつもりじゃなかったんすよ。実はさっき、友達から『大通りで人探しをしている人がいる』って聞いたから、手伝おうかな、って思って」


長身で細身の青年は白くきれいな歯を見せて笑った。

さわやかそうな好青年だ。


「それにしてもお姉さん、大胆っすね。こんなにたくさんの人がいる前でそんな露出度の高い服を着ているんすから。コスプレにしては長耳とかツノとか、まるで本物みたいっすね。自分で作ったんすか?」


ん? 長耳とツノ……?

そう思いながらふと、窓ガラスに写る自分の姿を見て気付いた。


「あっ!」


私としたことがうっかりしていた。

友人探しに夢中になるあまり、変装が解けていることに気がついていなかった。

まずい。非常にまずい。

こんな姿がばれたらとんでもないことになる。

どうにかして誤魔化さなくては……


「そ、そうでしょう? 私の手にかかれば、これだけリアリティを追求できるってもんよ⁉」


しどろもどろになりながら、慌てて誤魔化す。

確か、こんな感じのことを日本のサブカルチャーにハマった私の夫が女の子の人形を作りながら口走っていたような気がする。

まあ、あいつの場合もっと気持ち悪い言い方だったけどね。


「へえ~、すごいっすね。今度作り方、教えてくださいよ」


「え、ええ、もちろんよ」


よし、なんとか誤魔化せた、かしら……?


私は隣の青年の顔色をうかがった。


「どうしたんすか? 僕の顔に何かついてますか?」


青年は屈託のない笑顔を浮かべた。

よかった。うまく誤魔化せたみたい。


じゃあ、誤魔化せたなら逃げるに越したことはない。

さらばだ。


私はそそくさとその場を離れたかったが、青年はニコニコしながら私を見ていたのでそれができなかった。

まだ何か用でもあるのだろうか?


「じゃあ、行きますか」


「行きますか、ってどこに?」


「何言ってるんすか? 探しに行くんすよ、お姉さんの友達を」


「え? ああ、そうだったっけ?」


「そうっすよ。さあ、行きましょう!」


うーん……

何だか上手く乗せられた気がしたが、一緒に探してくれるのであればこれほど心強いことはないか。

これが渡りに舟、地獄に仏ということね。

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