表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/34

練5

わたしと鈴木さんはやっと駅前交番に到着した。

その道中にはたった男一人だけだったが、それだけなのにかなりの時間をとってしまった。


「「失礼します」」


わたしと鈴木さんは交番に入った。

交番の中はどこにでもあるような交番で、特に変わったものはない。

強いて言うなら先客がいたぐらいだ。


先客の女の子は見たところ高校生のようで、交番に置かれた長椅子に座っていた。


「あの、枝裁 梨緒さんはいらっしゃいますか?」


カウンターの向こうには誰もいないので、わたしはその女の子に問いかけた。


「枝裁さん……? あっ……お巡りさんですか? お巡りさんでしたら、先ほど日課の見回りに出かけられましたよ……?」


「いつ頃に帰るか分かりますか?」


「そうですね……多分、2時間後くらいだと思いますよ……」


「そうですか。ありがとうございます。では2時間後にまた」


わたしは女の子にお辞儀をして交番の外に出た。


2時間後か……

2時間後というとお昼も回る頃になるだろう。


「鈴木さん、お昼を食べてからに――」


と、振り向くと鈴木さんはまだ交番の中にいた。

交番の中で女の子をじっと見つめていた。


「鈴木さん、行きますよ」


声をかけると、鈴木さんは「あっ」と声をあげて、頭を掻きながら交番の外に出た。


「すいません」


「どうしたんですか? ぼーっとしてましたけど?」


「あ、いや……何でもないですよ! さあ、早く行きましょう! お昼ですよね? 瀬野さんは何が良いですか? 僕はラーメンが好きなんですよ!」


そう慌てて話題をそらそうとする鈴木さんを見て、わたしはひやかすことではないと思い、あえて何も言わなかった。




その後、わたしたちは昼食にラーメンを食べてから軽く街を見回って、2時間後に再び交番に向かった。


しかし、交番に戻ると、またも女の子が座っているだけだった。


「あの、まだ帰ってきてないんですか?」

 わたしは女の子にまた訊ねた。


「いえ……一度、帰ってこられましたが、またどこかへ……」


この短時間の間にまた?


まるでわたしたちが来るのにあわせてわざと出かけているように思う。


「そう、ですか……ところで今度もいつ帰ってくるか分かりますか?」


すると、女の子は首を横に振った。


「じゃあ、いつ仕事が終わるか分かりますか?」


仕事終わりの頃なら必ずいるだろう。


「多分、9時だと思いますよ……たしか、あそこの紙に……」


女の子は交番のカウンターの上に置いて注意書きのかかれた電話機を指差した。




・注意書き


私の勤務時間は午前7時から午後9時です。


その時間外、または私が見回り等、外出時に何かご用のある方はこちらの受話器をあげると私の携帯電話に繋がるようになっておりますのでお使いください。


※電源を切っているか電波の届かないところに私がいる場合は繋がりません。御了承ください。


「あっ、その……今は出られない……と思いますよ……多分……」


わたしが電話の受話器を上げようとすると女の子は慌ててそれを止めた。


「どうしてですか?」


「えっと……その……お巡りさんがですね……あの……今はかけないでほしいとおっしゃっていたので……」


「かけないでほしい? ここに注意書きとしてご用の方はこれを使えと書いてあるのに?」


「その……ですが……大切な用事で……」


「しかし、こちらもですね、大切な用なんですよ」


「その……お巡りさんにご用でしたら……私が直接伝えておきましょうか……?」


女の子はどうしてもわたしに受話器を取らせたくないのかそう提案してきた。


「その提案はありがたいのですが、わたしたちは彼と直接お話がしたいのです」


「では……お巡りさんが帰ってこられたら直接お話がしたい方々が訪ねてきた……と伝えておきます。それではいけませんか……?」


すると女の子は目を潤ませ懇願するかのように上目遣いでそう提案してきた。


「しかし……」




「(あの、瀬野さん。やっぱり仕事終わりの時にまた来ましょうよ。何か大切な用事があるなら仕方ないですし、ちょっとかわいそうですし……)」


どうしようかと思っていると鈴木さんが耳打ちした。


「(そうですが、今回の事件に関係しているかもしれない重要な人物なんですよ?)」


「(でも、この子が今は出られないと言っているんですから大人しく引き下がりましょうよ。それにチャンスは仕事終わりでも明日でも明後日でもあるんですから)」


確かに今にこだわる必要はない。

明日も明後日もいつでも話をする機会はあるし、わたしたちが訪ねたことで逃げれば犯人である線も濃厚になる。


「(すみません。ちょっと焦りすぎましたね)」


「(いえ、謝らないでください。僕はただ、そういう考えもあるということを言っただけですので)」


「(それでも焦りすぎたのは事実ですから)」


そう自分にも言い聞かせるように言った。

すると自然と気持ちが落ち着いたように感じた。


「……分かりました。仕事の終わり頃にまた来ますので彼に伝えておいてください。お願いします」


わたしは女の子にそう言って深く礼をした。

女の子はそれに丁寧な礼を返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ