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霊獣憑き協奏曲  作者: オトギ コガレ
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狛犬の情報。

「王獣。7体の恐るべき霊獣の王達。小さな一途の体の中に王獣が憑いていようとはのォ。トワの上層部は大喜びじゃ」

 

 狛犬は苦く言葉を吐き、目の前に片膝を付く桔梗紋を見詰めた。

 桔梗紋の脳裏に灼け付く10年前の惨劇の夜。


『一途!!』

 人工霊獣施設の霊獣憑きの実力者だった紅芭(くれは)と一途の言葉が今日も木霊していた。


『何をする。一途貴様!?』

『紅芭ァァ! お前が居なければ…、』

 

「一途は10年前の『共喰い』事件、唯一の生き残り。王獣が憑いてても不思議はないわ」

「は」

 狛犬は桔梗紋の声が僅かに震えているのに気付き、頷いた。

 桔梗紋も逃れられぬ十字架を背負っている。


「桔梗紋。トワの上層部と人工霊獣施設を創設した学者共に不穏な噂がある。その神経を研ぎ澄ませろ」

「噂?」

 桔梗紋は目を見開いた。

 開拓者達の情報網を駆使してトワから抜き取る情報なのだ。

 9割間違いは無い。


「人間を無差別に使う霊獣の大量生産計画じゃ」

「な、」

 

 その突飛も無い恐怖の噂に桔梗紋は目を剥いた。



「同じ過ちなんだよ。結局、今回もループするのかな」

 その時、誰かが静かに囁いた。



「一途。トワの病院、嫌い!」

 霊獣憑きの霊装を生まれて初めて纏った戦いから約半月が経過した。一途はトワの病院に押し込まれ、検査続きの日々を送っている。

 

 一途はトワの病院が大嫌いだ。

 一途を霊獣憑きを危険物としか見てくれないから。

 病棟は一途一人の為に隔離され、実験動物のよう。


 一途は意気消沈してベットの中に潜り込んだ。


「……」

 

 自分の足を見ると『霊装』の青い靴。

 不思議なことにこの青い靴。一途に脱ごうと言う意識が無いと脱げないようなのだ。一途を霊獣扱いする医者達が無理に靴を脱がせずにおろおろする様は正直傑作だ。

 

 トワは平和そのもの。

 

「霊獣の侵略も無い。一途の出番は無いわけで開拓者の仲間、何より桔梗紋先生に逢えないぃ!」

 一途は大袈裟に嘆いて見せた。

 

 わーん、(さみ)しいよ!!


「桔梗紋先生のお腹の怪我、大丈夫かなァ」

 

 一途はぽわわんと頬を染めた。

 大怪我をしても尚、笑いかけてくれた先生。正直格好よかったな。

 寂しいな。


「桔梗紋先生」

「何?」


 声が帰って来た。


「ひゃ」

 一途は飛び上がって驚いた。


「へ、返事が帰って来るとは思わなかった。ああ、驚いた驚いた!!」

 

 見ると若草色の着物に着替えた桔梗紋がベッドの横の椅子に座り、いい笑顔を一途に向けている。

 恐るべし。流石『抜き足』の達人!!

 泥棒も真っ青だね!


「って、桔梗紋先生。怪我は!?」


「怪我?」


「犬にずばばっとやられたお腹の怪我ァ!!」


 すりすりすりすり……。

 一途は無遠慮に桔梗紋の体を確かめた。

「はは、(ふさ)がったよ。丈夫だからね。一途くすぐったい」


「ん? わ、近い近い、近い!」

 一途は桔梗紋の言葉にはっと我に返るとば離れた。

 半分桔梗紋に抱き付くような体勢だった。

 

 ――ぎゅ。

 しかし、離れる一途の腕を桔梗紋の手が掴まえた。予想外の相手の行為に一途はぴしっと固まる。


「検査入院ご苦労様。よーし、バザールに行くか!」


「は??」

 

 桔梗紋は一途をそのまま引き摺って行く。

 

「にゅ、入院終わるの? 何、待って。バザール!?」

「『一途が霊装を纏えたら俺と一日バザールでデート』ほらほら、約束」


 一途は目を丸くした。

 

「やや、やったぁ!! 桔梗紋先生とデート。デート!!」

 一途の万歳に桔梗紋はニッと笑った。

「んじゃ『俺は一途の恋人』……いいな?」

 

 ぼん!!

 一途が沸騰した。

 桔梗紋先生が一日、一途の、一途の、ここ、恋人ォォ!

 今日一日、一途の心臓は耐えきれるのだろうか。


「は、はい!!」

 と、一途は応じたのだった。

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