VS緋犬。~~決着。
(……)
「一途?」
桔梗紋の声に応じないまま一途は瞼を閉じると靴のかかとを高らかに鳴らす。
それが戦いの合図だと言うように。
音の余韻が鳴り響く中、羽根の飾られた籠手が装着されて白い花の模様がぐるぐると両脚に巻き付いた。
「……」
瞼を開き、『霊装』のその名前を宣言した。
「霊獣憑き……。霊礼装束『霊風ノ守』!!!!」
これが『霊装』。霊風ノ守なる、霊装だと。
神々しいその衣裳に桔梗紋は瞬いた。
これで一途は霊獣だ。
『貴様その霊力……!!?』
ボス犬が無感情な一途の瞳を見ると唖然と漏らした。
『リ、リリーフィア、様?』
桔梗紋が腹を抱え、疑問符を浮かべる。
今の名前、確か覚えがあるような。出血のせいかボケたのか思い出せない。しかし、 「え!?」と開拓者仲間の一人が声を上げた。
その言葉に続けるように、
『王獣リリーフィア様ァァ!!?』
「お、」
「王獣の霊獣憑き!!?」
王獣は霊獣のを束ねる7体の獣のことだ―――。
神話の類の、噂だけの存在だった。
その霊獣がまさか落ちこぼれの一途に憑きっぱなしだったと言うのか。
その王獣の霊力に精神を潰されているのか、霊装の覚醒に意識を奪われているのか一途は何も喋らない。
何も視ない。
桔梗紋の脳裏に過ぎる10年前の惨劇。
霊獣憑きの子供達。
「待て!!」
桔梗紋は一途の腕を掴むと、
「一途、一途!!」
懸命に声を上げた。
一途は少しの間を置き桔梗紋をふり返り、
「……。桔梗紋先生?」
目を覚ました。
ん? 一途は何をしていたの?
腕を組んで一途は記憶を手繰り寄せた。すると「桔梗紋先生危機一髪」に行き付く。先生が焼かれると思った時、先生を守るはずが逆に抱き締められて、って。
は、恥ずかしい。
何か、ひらひらするし? 服変わってるしィ!!?
多分、桔梗紋先生に抱く恋心の自覚が霊獣の覚醒に繋がったんだ。
わァ青春恐るべし。
『王獣が人間に憑くわけがないィィ!!』
苦しそうにボス犬が咆えた。火を噴き、荒れ狂う。
丸焦げにされる!!
「この犬」
一途は拳を握ると、しぱしぱと瞬いた。
おお! 力が湧いて来る。
今こそ桔梗紋先生の、開拓者仲間達の力になれそうな気がする!!
一途は空を飛んだ! 宙を蹴り付け、瞬神のような速度で空へ駆け上る!
「高い」
思わず声を上げてしまう。自分も驚きだ。
驚くべきは一途の桁外れの脚力!!
「よし花!!」
開拓者達、緋犬達は足を止めた。
霊力により実体化して宙に舞う花達。
美しい桃色や赤い花が溢れて一途を見失ってしまう。
ボス犬が、群れが焦った。
「見ろ上!!」 「上…、 一途!?」
皆が一斉に空を仰ぎ声を上げた。
天高く、空に舞った一途が隕石のように一直線に急降下し、
「かかと落とし!!」
拳がトワの地面を粉砕し衝撃波が華麗に舞い上がる。
緋犬の群れは容赦なく吹き飛ばされて行った。
結果。
人間も霊獣も死者を出さない一途の完全勝利だった。
『霊獣を総べる7の王よ。人間の子の憑き物になり果てていようとは』
「……」
ボス犬は一途の前に首を垂れ、地面をかきむしった。
「さんきゅ」
一途は小さく零した。
「一途の、……相棒の為にさ。正直、羨ましいよ」
ダッテ、一途ハ。10年前、皆ヲ。
「一途!!?」
霊装の疲れが出たようで一途は後ろにひっくり返った。
脳裏に甦る10年前の友の声。
『一途、一途!! 君を絶対許さないィ! 何時か霊獣が君を裁く!! く、くく……。ははははははははははははは!!』
『霊獣に一途が裁けるかァァ!!』
すると、桔梗紋の声が一途を引き戻す。
「一途、一途」
「ん、先生?」
見ると、一途は『霊装』が解け、桔梗紋に抱かれ……。
抱かれ!!?
一途は真っ赤になり辺りを見回すとトワを襲った彼等が帰って行くところだった。
「ごめんな。吹き飛ばしちゃって」
一途は律儀に言葉を投げた。
すると、
『俺は霊獣。人間とは相容れぬ。が、何時か救われる日を祈っててやる」
驚いたことに一途の言葉が届いた。
一途はボス犬の言葉に瞬くと、
「あ、ああ!」
呆気にとられた。
救われる日。
一途には救われる資格なんか無い。
一途は胸の痛みを苦笑で噛み殺した。