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霊獣憑き協奏曲  作者: オトギ コガレ
2/15

一途。

「繰り返す。繰り返す」


 一人の青年が目の前の巨大な都市を見渡して、その言葉を繰り返す。

 この星の生命力が異常に高いのには理由がある。

 今、この都市の研究者が熱心に研究中のモノだ。しかし、(あわ)れながら、何時も謎を解く前に解を得る前に星中の生命は全滅するが。

 答えは簡単だ。

 何度も焼かれ、全部全部、滅びたから。

 何度も何度も、何度も、 何度もな。


「俺が滅ぼすから」

 

 年齢不詳。

 黒いフードの青年はくくっと微笑んだ。

 俺は終わりだ。簡単に言えば、死神さ。


 何度も何度も無になり、無に還り、無から芽吹き、諦めない人間は一体何なんだ?

無様(ぶざま)なのにな」

 青年は口角を吊り上げた。

 俺を生むな。

 世界を終わらせるこの俺を。


「二度と」




一途(いちず)は霊獣憑きじゃ。いずれは『霊獣憑き』の真髄(しんずい)霊装(れいそう)を纏い、開拓者共の人間の大きな光となり、里を、……『トワ』を導いてくれる」

 一人の老人が窓の外の遠くに見えるトワの巨大な町並み、建物に目を細め言葉を紡いだ。


 ここは、永遠(トワ)の大陸。

 人間の住まうこの小規模な大陸はトワと呼ばれ、存在した。

 力のある人間開拓者が厳しい自然の猛威と戦い、人間の存在出来る居場所、トワを開拓した。

 大陸の外は荒れ狂う天候。

 未知の人間を喰う植物。

 人間を文明を憎む『霊獣』が蔓延(はびこ)り、人間は存在出来ないのだ。

 故に、この世界の人間はあまりにも少ない。



『桔梗紋』(ききょうもん)?」

 老人はトワを創った開拓者の先人。トワの傍らに造られた開拓者の集落『狛犬の里』を導き、仕切る、「狛犬様」と(たた)えられる長の位の開拓者随一の実力者。

 老人は目の前の一人の桔梗紋なる青年に青い瞳を向けた。

「はァ」

 淡い褐色の片目が応じた。

 右目には一文字の刻み込まれ、その瞼が開くことは決してない。

 

 何処か気だるい雰囲気の青年だ。

 

 青年の服は開拓者の実力者のみが纏うことを許される、「黒い狩衣」。

 狛犬は続けた。

「人工霊獣、霊獣憑き。……10年前の惨劇の唯一の生き残り。左の瞳が見出した人間の希望の子。一途を頼むわ」


「……10年」

 

「ふふ、悲しいな。目には目を。歯には歯を、霊獣には霊獣を」

 

 10年経とうとしているのだ。


『い、い、嫌ぁぁ!! 先生!! 死にたくないいぃぃ!!!!』

 脳裏に刻まれた子供達の声。

 悲痛な断末魔。

「トワの人間は非力に有らず。特に科学者共は酷く、狡猾、利己的、残酷じゃ。無垢な子供が何人、何十人。トワの為に必要な犠牲だと、将来のある子供を霊獣憑きにしたか」


 人類は天敵の霊獣に抗う為、人工の霊獣。

 霊獣憑きの人間を創り、生みだしたのだ。


「ん……」

 狛犬の里の桔梗紋の借家の屋根の上だった。

「ぐー」

 この世界の命運を握る、一人の小娘は欠伸を噛み殺した。


『一途』


 霊獣憑きと言われる、人工霊獣に造り変えられた人間。

 霊獣憑きの子供達を世界に馴染めるように教え、育む、巨大な「人工霊獣施設」。


 何百人かの未来のある子供が「人間の為」「トワの為」と人工霊獣にされ、危険な霊獣との戦闘に駆り出され、人間を守った。

 これが世界の常識。

 しかし何百人存在する霊獣憑きの子供の中、一人力の片鱗を全く引き出せない落ちこぼれがいた。

 

 それが10年前の人工霊獣施設の惨劇の生き残り。


 一途。


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