一途。
「繰り返す。繰り返す」
一人の青年が目の前の巨大な都市を見渡して、その言葉を繰り返す。
この星の生命力が異常に高いのには理由がある。
今、この都市の研究者が熱心に研究中のモノだ。しかし、憐れながら、何時も謎を解く前に解を得る前に星中の生命は全滅するが。
答えは簡単だ。
何度も焼かれ、全部全部、滅びたから。
何度も何度も、何度も、 何度もな。
「俺が滅ぼすから」
年齢不詳。
黒いフードの青年はくくっと微笑んだ。
俺は終わりだ。簡単に言えば、死神さ。
何度も何度も無になり、無に還り、無から芽吹き、諦めない人間は一体何なんだ?
「無様なのにな」
青年は口角を吊り上げた。
俺を生むな。
世界を終わらせるこの俺を。
「二度と」
「一途は霊獣憑きじゃ。いずれは『霊獣憑き』の真髄の霊装を纏い、開拓者共の人間の大きな光となり、里を、……『トワ』を導いてくれる」
一人の老人が窓の外の遠くに見えるトワの巨大な町並み、建物に目を細め言葉を紡いだ。
ここは、永遠の大陸。
人間の住まうこの小規模な大陸はトワと呼ばれ、存在した。
力のある人間開拓者が厳しい自然の猛威と戦い、人間の存在出来る居場所、トワを開拓した。
大陸の外は荒れ狂う天候。
未知の人間を喰う植物。
人間を文明を憎む『霊獣』が蔓延り、人間は存在出来ないのだ。
故に、この世界の人間はあまりにも少ない。
「『桔梗紋』?」
老人はトワを創った開拓者の先人。トワの傍らに造られた開拓者の集落『狛犬の里』を導き、仕切る、「狛犬様」と讃えられる長の位の開拓者随一の実力者。
老人は目の前の一人の桔梗紋なる青年に青い瞳を向けた。
「はァ」
淡い褐色の片目が応じた。
右目には一文字の刻み込まれ、その瞼が開くことは決してない。
何処か気だるい雰囲気の青年だ。
青年の服は開拓者の実力者のみが纏うことを許される、「黒い狩衣」。
狛犬は続けた。
「人工霊獣、霊獣憑き。……10年前の惨劇の唯一の生き残り。左の瞳が見出した人間の希望の子。一途を頼むわ」
「……10年」
「ふふ、悲しいな。目には目を。歯には歯を、霊獣には霊獣を」
10年経とうとしているのだ。
『い、い、嫌ぁぁ!! 先生!! 死にたくないいぃぃ!!!!』
脳裏に刻まれた子供達の声。
悲痛な断末魔。
「トワの人間は非力に有らず。特に科学者共は酷く、狡猾、利己的、残酷じゃ。無垢な子供が何人、何十人。トワの為に必要な犠牲だと、将来のある子供を霊獣憑きにしたか」
人類は天敵の霊獣に抗う為、人工の霊獣。
霊獣憑きの人間を創り、生みだしたのだ。
「ん……」
狛犬の里の桔梗紋の借家の屋根の上だった。
「ぐー」
この世界の命運を握る、一人の小娘は欠伸を噛み殺した。
『一途』
霊獣憑きと言われる、人工霊獣に造り変えられた人間。
霊獣憑きの子供達を世界に馴染めるように教え、育む、巨大な「人工霊獣施設」。
何百人かの未来のある子供が「人間の為」「トワの為」と人工霊獣にされ、危険な霊獣との戦闘に駆り出され、人間を守った。
これが世界の常識。
しかし何百人存在する霊獣憑きの子供の中、一人力の片鱗を全く引き出せない落ちこぼれがいた。
それが10年前の人工霊獣施設の惨劇の生き残り。
一途。