関本の決断
意識朦朧の中、関本は自分の所属、氏名を話し、一息つくと
ようやく目を開けれそうになった。
それと同時に、
関本は言葉を失った。
関本が驚いたのは、全身の痛みだけではない。
見たことのない医務室のようなところに閉じ込められた。
赤十字マークのおかげで辛うじて医務室と分かった関本だったが、
いまだに納得がいかない。研究室にでも連れてこられたのだろうか。
見たこともない、医療器具に驚き、不安すら覚えていた。
そんな考えをしていると、扉が空き、体つきのいい将校が現れた。
上官と思しき制服ではあるが、関本には階級章の意味が分からなかった。
「護衛艦ひゅうが、副長、宇野だ。関本氏に聞きたいことがある。」
将校は、風貌に見合った、ぶっきら棒な言葉で話しかけた。
「安心してくれ。我々は日本人だ。あなたと同じ大和民族だ。だが、我々はあなたたちの母国大日本帝国の臣民ではない。21世紀の日本からやってきた。日本国の国民だ。と、言って信じてくれるはずもなかろう。で、、、」
話の途中関本は強引に話に割り込んだ。
「軍艦の副長ともあろう方が、この皇国の危機になんという体たらくか。それでも貴様は帝国軍人か。」
「まぁ、落ち着いてくれ。信じてもらえないのは承知の上だ。」
そういうと、宇野は救助班が関本救助時に撮っていた映像を見せ始めた。
薄い木の板のようなものに映し出されたものは、関本の想像を超えるものだった。
見たこともない速さで飛ぶオートジャイロによって、関本の体がつるされ
徐々に機体の中に入っていった。
顔が映ると同時に関本は腰が抜ける思いがした。
血まみれであるが間違いなく自分の顔である。
そして、時間がたつと、空母と思しきものに垂直にオートジャイロは着艦した。
「こ、これは、なんですかな。」そういうのが精いっぱいの関本に宇野がやさしく答え始めた。
「まぁ、映像技術というものは映画などでもわかることでしょう。
しかしこれは、この世界から70年先の未来から持ち込まれた技術。……………」
宇野の説明は1時間近くにも及び、軍機に触れない範囲でシーホーク、イージス艦、ひゅうがのことも話した。
ようやく納得した関本は、タイムスリップということには驚くことすらなく、
未来の戦闘艦に夢中となっていった。
関本を車いすに乗せ、艦内探索を始めると、宇野はおもむろに口を開いた。
「関本さん。我々はこの世界に来た理由が分からない。しかし、我々だって生きている。
目の前で血を流す、同じ日本人をほおってはおけない。菊水作戦を大和を、日本国民を救いたい。」
関本は半ば待っていましたと言わんばかりの表情で宇野に目を向け、
「ありがとう。」その一言だけを発した。
だが、宇野の言葉には、天皇陛下を救いたいという文言がなかったことに気づいていた関本は、これ以上口をつぐんだ。
続けて宇野が話し出す。
「菊水作戦に参加したい。これは、私だけでなく、ここにいる未来人が選んだ選択だ。」