タイムスリップ
「長官、ただいま報告の通り、乗組員の収容を許可しました。」
艦長岡本が山本に報告する。
「ご苦労。しかし、ゼロ戦に菊水作戦か…。まさかタイムスリップということはなかろうな。」山本は無理に笑いながら嫌味のように言い放った。
「この状況から見るに、そう考えるのも仕方ないかと。雷撃をうけ、何らかの影響でひゅうがとこんごうだけがタイムスリップした。そう考えれば、シーホークまでもがロストした現象が納得できます。」岡本が加える。
会議室はまたしてもざわめいた。しかしそう考える以外辻褄の合う答えはなかった。
「オスプレイを飛ばすぞ。一刻も早くこの状況を理解したい。沖縄まで、オスプレイなら1時間かからんだろ。」
長官はこの事態始まって初めて自ら決断を出した。
『オスプレイ発艦用意』
全艦放送でひゅうがとこんごうに伝えられた。
そして、オスプレイは発令を受け、沖縄偵察へと飛び立つのだった。
ーーー1時間後ーーー
「こちらオスプレイ。報告します。海岸に多数の星条旗を掲げた旧型戦艦など軍艦が停泊しています。沖縄本土が盾になってレーダーには映らなかったものと思われます。今現在、飛行機は皆無。砲撃による掃討作戦が間もなく行われるかと。」
「なんということだ。この報告通りなら今は1945年3月24日ということか。」
「なんにせよ、遅かれ早かれ米軍の戦闘機が上がる。オスプレイではひとたまりもない。今すぐ帰還せよ。」
「オスプレイ、了解」
艦内は絶叫がそこらじゅうで聞かれ、涙するもの、激怒するもの、混乱するもので混沌としていた。
「長官、このままでは、艦内で暴動が起きます。まずは館内放送で、現状を報告しないと。」岡本が具申する。
「全館放送につなげ」山本が指示を出す。
『第一護衛艦隊群、全隊員に次ぐ。司令長官の山本だ。各員様々な思いがあるだろうが、まず、私の話を聞いてくれ。わが艦隊は、先ほどの雷撃により、何らかの衝撃が加わり、1945年3月24日にタイムスリップしたものと思われる。原因がわからない以上、元の世界に戻る方法も、何もわからない。オスプレイからの連絡によれば、沖縄に米軍が上陸しようとしている模様だ。
私はこの状況を鑑み、沖縄に引き返し、沖縄県民の防衛をしたいと思う。
これは、首相から命令された任務とは大きく異なる。また、歴史に触れる以上、何らかの変化が起きる可能性も考慮される。よって、諸君の意見を聞きたい。沖縄救出作戦に賛成か反対か。一人づつ、意思表明をしてもらう。もちろん、諸君が私と違う意見を述べたからと言って、何をするというわけではない。
重大な変化を生みかねない決断だ。民主主義の下、方針を決めたい。
こんごう乗組員はこんごう士官食堂にて、ひゅうがもひゅうが士官食堂にて、
口頭で意見を聞く。一人ずつ入室してもらう。順番は階級順だ。
各員見張りが手薄になることのない様、協力してこの意思表明に参加してくれ。
15分後より開始する。
繰り返すが、これは自由に意見を述べてもらう機会だ。恐れることなく意見を述べてほしい。
以上』
「選挙というわけですか。ここにいる総員がいわば選挙管理委員というわけですな。」
「まぁ、そんなもんです。1人の命でさえも惜しい。迅速に結論を出せるよう、よろしく頼むぞ。くれぐれも、公正に行われるようにしてくれよ。」
「了解です」
こんごうの士官たちはまたこんごうへと戻り、選挙の準備をしていった。
長官の山本は、非常時の判断はぴか一と海自内でも有名な男だったが、
ここまで思い切った決断を下すとはだれが考えたであろうか。
そして、口頭で総員から意見を聞いていくのであった。