初心者講習会 実技
部屋には直斗達だけとなり、皆は椅子から立ち上がり背筋や腰をほぐす。
「やっぱり魅砂の裁縫技術は凄いわね、見慣れているミナホが作り物とわからなかったものね」
「はい、魅砂様は素敵です」
「……えっと、恥ずかしいです。でも嬉しいです、えへ!」
魅砂は嬉しそうに笑顔で3人と話している、直斗はそれを離れた位置でボーと眺めていた。
「直斗!シャキッとしなさい!ずっと座ってたのだから楽でしょ!」
「だらしない」
「えっと、もっと優しく言った方が……………」
魅砂だけが直斗を気遣う。
他の2人は予想通りなので直斗はハイハイと適当に返事を返した。
時間通りにミナホが戻ってきた。
全員が揃っているの確認して、講習会がはじまった。
「では実技の講習をはじめますよ。実際にお金を使ってみましょ」
直斗達の目の前にミナホがお金を置いていく。
氷依や魅砂は目を輝かせながら見つめているし、花さんも興味がありそうだ。
「皆さん前にあるのが先程見せたお金です。この世界にはお金を入れる財布という物が存在しますので、ある程度の現金を入れとくといいでしょ。また銀行というお金を預ける施設もありますので旨く活用して下さい」
「銀行?どんなメリットがあるのよ」
氷依がお札を手に持ちながら不思議そうに聞いた。
「そうですね、依頼を成功させればお金が発生します。あなた方の世界ではポイント、こちらではそのポイントがお金に変わります。数多く依頼をこなせば多額の金額になるでしょ、ギフトに入れて持ち運ぶのも手ですが、箱にお金をしまうのですか?見てわかる通りそれだと面倒くさいでしょ」
そうミナホは直斗達に問いかける。
直斗は目の前のお金を見つめ、箱一杯になったお金を想像する。
「確かにそれは面倒くさい、目の前にある程度なら問題ないけど箱一杯となると……………」
「でしょ!そこで銀行の出番です。お金を預ければギフトにも残高が表示できます、ギフトから直接お金を精算することも可能ですので便利な物は活用してみてください」
ミナホの説明に全員が頷く。
「ではお金の使い方を実践してみましょう」
ミナホは値段を書いた紙を机の上に並べて直斗達に丁寧にお金の使い方と財布の用途を説明していく。
実際にお金のやり取りをして直斗達は金銭的感覚を学んでいった。
「ふ~ん、だいぶわかってきたわ。私達の国とは全然違うのね」
氷依は感心したように呟く。
それを眺めミナホは次の段階に行くことにした。
「では次は皆さんを守る装備品の話しをします」
直斗達の机にあったお金を片付けてミナホは自分のギフトを取りだして直斗達に見せる。
「自らの防具や武器については基本の知識は教えられているはずですね?」
「えぇ、問題ないわ」
「私も大丈夫です」
「問題ありません」
「はい」
4人の回答に満足してミナホは先を続ける。
「それではギフトの中の戦闘項目から装備を選んで下さい。ギフトの中にいる精霊とその精霊が具現化できる装備品が記載されているはずですね?」
全員が言われたとおりにギフトを操作すると精霊と装備品が載っている。
精霊は画面の中で嬉しそうに動き回っている。
「へぇ、この子が私の精霊なのね」
氷依が画面を嬉しそうに見つめる。
直斗以外の他のメンバーの表情も明るい。
「精霊には武器や防具の具現化が可能です。レベル次第でどんどん強化されますので自身のレベルを上げて精霊を強化しましょう」
「そのレベル上げっていうのはあのレベル上げですか?」
直斗はなにやら面倒くさい単語がでたなと思いミナホに聞いてみた。
「あの、がなにを指すのかわかりませんが皆さんが狩りをした経験値を数字化して身体強化をすることが、この世界では可能です!皆さんが狩った獲物が自動的にギフトに記録され経験値として蓄積、一定以上たまればレベルがあがりますよ」
ミナホの説明で直斗は直ぐにわかった。
直斗が遊んでいるゲームと同じだ、いわゆるロープレだ!それをこれから生身でやるはめになるのかと思うと直斗はげんなりした。
そう思ったのは直斗だけで、他の3人はさして表情も変えずにミナホの説明を聞いている。
「それでは実際に装備品を着用してみましょ。1人づつですよ、まずは白亜さんからです。あなた方の世界では精霊神の力がいまだに不安定でギフトの精霊の能力も抑えられていたはずです、ですから馴れさせす意味でも1人づついきましょう」
ミナホは氷依の側に移動して説明をはじめる、直斗達はそれを黙って見つめる。
「ふふふ、理解したわ。直斗見てなさい」
氷依がチラリと直斗を見てミナホに教えられた通りにギフトを操作した。
その光景は劇的だった。
氷依はギフトから装備品装着を押す。
氷依の制服の上に防具が装着させる。
氷依の銀髪の合わせたかのような白いハーフ鎧にブーツはとてもよく氷依に似合っていた。
腰には剣が差してあり、まるで騎士みたいだった。
「はい結構ですよ白亜さん、さすがA級です。剣も使えるのですね。魔法戦士ですか~、似合ってますよ」
ミナホが絶賛するのを氷依は満足げに聴いている。
次に魅砂が挑戦、彼女の装備は耳付きの赤のローブに白水晶がはまった杖。
花さんは緑色の軽鎧に2本の短刀、身長が高い花さんが着ると絵になる。
最後に直斗の番が回ってきた。
教えられたとおりに直斗はボタンを押す、女性陣たちの顔に期待の色が見えるが直斗はそ知らぬ顔で効果があらわれるのをまった。
直斗の両腕が光り黒色に赤のラインがはいったガントレットのみが装着され光が消えた。
「え?」
ミナホが疑問の声をだす。
「まぁ、こんなとこでしょ?C級ですし」
ミナホの疑問に答えるように直斗が言った。
「えっ?そんなはずは…………」
それでも納得がいかないのかミナホが怪訝な顔をする。
氷依達は何が変なのかがわからずキョトンとしている。
「変ですよ!だってあなた…………………いえ何でもないです……………」
意気込んでミナホは直斗に詰め寄ろうとする。しかし直斗のギフトからのプレッシャーを感じて押し黙ると直斗から離れていった。
「えっと………いま身に付けている装備は精霊の力で具現化している物です。低レベルの装備ですので過信しないでください。あとこの世界でも装備品は売ってます、しかしこの世界でしか使えないのでギフトに入れて使用して下さい」
ここまで言ってミナホは全員を見る。
それぞれが頷く、それを見てミナホは残り時間が僅かなのを確認する。
「最後に各ギルドには様々な情報が集まります、有料のものもありますが活用してみてください。皆さんお疲れさまでした」
ミナホが頭を下げる。
「「「「ありがとうございました」」」」
それに対して直斗達も頭を下げる。
それを笑顔で見つめミナホは部屋を出ようとする直斗に声をかける。
「あっ!光羽さん。ちょっといいかしら?リーダーの人だけに少し話があるから他の人は通路で待っててくれる?」
氷依達は動きを止めたままでいたが、ミナホの言葉で直斗に目配せをして部屋を出ていく。
部屋の中にはミナホと直斗だけ、ミナホは直斗の側までいくと直斗を見つめる。
「?、なんですか?」
「えっと、光羽さんのギフトをもう一度、確認したいんだけど………ダメかな?」
直斗は首を捻りながらも了承した。
「どうぞ、もしかしてそれだけですか?」
「いいえ、あと手合わせも……………」
「必要ですか?」
「えっと……………好奇心です。ごめんなさい」
ここで謝られても困るのだが、直斗はそれも了承した。
美人に頭を下げさせたのが居心地が悪かったので。
「やっぱり、光羽さんの精霊……………A級ですよ。なのにあんな装備なんて……………しかも精霊魔法も無し?」
直斗のステータス表示を見つめるミナホは困惑しながら呟く。
「ふぅ、僕の力不足です」
「へっ?そんな事はないです。力ある精霊は本質を見抜きます、光羽さんは才能がありますよ。先程も感じましたがこの精霊……もしかして闇の精霊……ひっ!」
スマホの画面を見ていたミナホが直斗の精霊に睨み付けられて悲鳴を上げそうになる。
直斗の精霊は黒猫に白い翼が生えた牝猫。
ちなみに氷依は雪だるまで、魅砂は毛が生えているゾウ亀、花さんは3本足の鷹だった。
「あまり睨むなよ。敵ではないのだから」
自分の精霊を嗜めて直斗はミナホからスマホを受けとる。
「手合わせと言ってましたが、どうやるのです?」
「えっ、あぁ~そうでした。この部屋で出来ますよ、一対一でダメージを与えれば勝ちです。どんなに弱くてもね」
パンと手を叩いてミナホは直斗に言う。
「わかりました」
そう言うと直斗は自身の装備を装着する。
ミナホは直斗と距離を取る、狭い部屋なので壁際まで下がって。
「遠慮なくどうぞ、これでも私はレベル20の冒険者です。攻撃はしませんので私の防御を突破してダメージを与えてみてください」
ミナホの回りに数枚の防御壁が展開、それを見て直斗は魅砂が使った防御法を思い浮かべた。
「行きます」
静かに直斗は宣言をしてミナホに向かい歩く。
ミナホは闘志なく向かってくる直斗を見据え防御壁を自身の前に展開する。
(?、どうゆうつもり)
直斗はなんの躊躇もせずにミナホの防御壁を右拳で殴りつけた。
(へっ、殴るだけ?私の盾がその程度で壊れると?)
その瞬間、ミナホの脳に軽い揺さぶりがおこる。
(えっ!)
ガクンと片膝をついたミナホ。
チラリと自身のステータスを見るとダメージを受けたと表示していた。
「そんな……………うっ!」
ミナホは酷い目眩を感じて目を瞑る。
「もういいですか?」
ミナホの防御壁が消え直斗は静かに言った。
「えっ?……………はい。私の敗けです」
ようやく落ち着きを取り戻したミナホは直斗の言葉に自身の負けを認めた。
「そうですか」
感情なく直斗は言うと部屋を出るためにドアへと向かう。
「あっ!待って下さい」
ミナホが慌てて直斗に駆け寄ると、直斗の右腕を抱えこんだ。
「へっ、なっなんですか?」
直斗の右腕を柔らかい物体が包み込む、その破壊力に直斗は動揺する。
「へへ、君つよいね。しかも彼女無しね!、私ね貴方が気に入ったの番号交換しよ。私はやくにたつわよ?」
突然、口調を変えたミナホに戸惑いまた右腕の柔らかい感触に硬直。
直斗はコクコクと頷きミナホと番号とアドレス交換をした。
それを満足そうに見てミナホは直斗にウィンクする。
「この世界に来たら必ず連絡してね、約束よ」