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現代日本の食料事情1

ミナホさんの後ろ姿を視界にいれつつ、歩きやすく整備された洞窟の内部をキョロキョロと見ながらミナトさんに着いて歩いていく。

大人が四人並んでも歩けるぐらいの幅がある道に幻想的な白黄光が通路を照らす為に眩しくはなく目に優しい感じがする。


ミナホさんは何か考え事をしているのか、やや遅れ気味になっている僕には気づかずに黙々と歩いている。

あの光繭から出て10分程経っただろうか、下に向かって進んでいたミナホさんの歩みが止まり目的地であろう広いドーム状の空間がある広い場所に僕達は着いた。


人が歩く地面は綺麗に平らに整備されていて上を見上げると洞窟そのままの自然が残りデコボコの岩の天井がみえる。

十分な灯りが周囲を照らしその中央には更に強い光を放つ物があり、洞窟内部に在るには不釣り合いな感じがした。


この空間の中央付近にある物に僕は目を向ける。

そこには地下には不似合いな大木が1本あり、不思議な光を放ちながら洞窟内部を照らしていた。


どこか温かい光を放つ大木、僕はミナホさんの許可を得てその大木に近づいた。

ここに来るまでの道中でも思ったが陽の光とはまるで違う優しい灯り、それがこの洞窟の内部のあちらこちらで照明替わりに照らしている灯りの発生源があの大木だと感じた。


その不思議な大木に気をとられて見つめていたが、ふと周りを見てみると遠目に人影が何人も見える。

何をしているかまではわからないが、身長からして大人や子供数人が何かの作業をしているようだった。あの人達も気にはなるが先ずはこの大木だ。


「これは?」


やはり一番に気になるのはあの大木だ。

優しいだけではなく近くにいると強い力も感じる。


「ああ、亜弥音ね神木よ。とても綺麗でしょう。私達の味方なの!」


「味方?」


「ええ、卑弥呼に影響されなかった数少ない味方なのよ。私達はその力を借りて卑弥呼から隠れてここで生活をしていられるのよ」


ミナホの瞳や表情に神木に対する信頼を強く感じた。

僕は神木の真下まで歩き見上げる、その大きさと神木の内から溢れでる光の美しさに感嘆のため息がでた。


光が入らない洞窟内で葉や太い幹が元気に育っている。

神木の近くで感じる清浄な空気をその身で受けると確かに神木と呼ばれるだけはあるなと思った。


心地よい神木を無心で見上げていると、背後から僕を呼ぶ男の声がした。


「君が直斗君か?目覚めるのが早くはないか茜?」


「それのどこに問題がある隼人」


振り返るとそこにあの部屋で最後に見た姿で五堂教師がいた。それとその隣に初めて見る男がいた。

年は五堂教師より上に見える。

焼けた肌に黒い髪を短髪にし鋭い目付き、よく肉体を鍛えているようで大柄な体に金属の防具を身に纏っているために更に大きく見える。


「う、いやお前が大丈夫だと判断したのならいいんだ」

五堂教師に睨まれて隼人と呼ばれた男は慌てた様に訂正したていうか旦那さんですか………。

見知らぬ男に声をかけられたことで思わず体が身構えてしまったが、五堂教師に睨まれて大きい体を小さくした旦那さんを見て少しだけ緊張を解くことができた。


「直斗、改めて紹介しよう。こいつは隼人、私の旦那だ」


「えっと………………先生は結婚をしてたんですね」


「フフ、もう先生ではないがお前の好きに呼べばいい直斗。それに私が結婚をしていたのがそれほど驚くことか?」


先生の隣でおとなしく小さくなっている旦那さんを横目に激しく首を縦に振る。

そんな自分を見て微笑む先生はあの部屋で会った時と同じ黒のスーツを着ていた。「そうか、まぁ人妻に見られないように振る舞っていたからな。そんな事より直斗、あの時の続きの話をしようか」


そう言うと先生は場所を変えようかと言って歩き出した。

その跡を隼人とミナホに挟まれる形で僕はおとなしくついていった。


先生は神木の反対側にまわると神木と同化している扉に手をかけ開く。

驚いて神木の中を覗くと木で出来た螺旋階段があった。

人が並んで2人分ぐらいの幅の階段を先生を筆頭に黙々と神木の中にある螺旋階段を上へと進む。


上を見れば遥か彼方まで続いていると思われるほど終わりが見えない。

いったい何処まで階段を上がるのかと不安に思っていると後ろで隼人さんとミナホの話し声が耳に届いた。

「なぁ、いつものように行かないのか?」


「………何を言ってるんですか、直斗君の為にこの中を通っているんですよ。知ってるでしょ?」


(………僕の為?)


「知ってるけどよ、疲れるんだよな………」


「これだからオジサンは………」


「はあ!ミナホ、言うようになったな。それに32歳はオジサンではない!なっ、直斗君よ」


後ろの話し声は聞こえていたが、まさかこっちに振られるとは思っていなかった。

階段を上がるだけだが、直ぐに足が重くなったような感じがする。そんな中で隼人にどう答えようか。


「えっと、隼人さんでいいてすか?」


「直斗君、おじさんでいいよ。いろいろと口煩いし」


「うるさいぞ!ミナホ。で、どう思う直斗くん」


「そうですね、とても若く見えますよ。としか言えません。あまり大人の男の人を見てませんから」


僕の答えに隼人さんはどうだ!とばかりにミナホさんに向けて胸を張る。

そのドヤ顔をミナホさんは素早く顔を反らして見ないようにしている。


向こうでの生活を思い出しながら答えたが、第一エリアと呼ばれたあの場所での生活でも大人との接点が少なかったように感じる。


今思えばだがそれはすごく不自然な事なのだけど、なんの疑問を抱かずに僕はあの世界で生活をしていた。

あの世界での大人といえば真っ先に目の前で階段を進む先生しか思い浮かばない。


学園に通っていた時も先生以外の大人もいたはずなのに記憶に残ってはいない。

異世界の国に行った時に会った人達はなんとなくだが覚えているんだけど………。


「おい、着いたぞ」


ボンヤリと先生の後ろ姿を見ながら階段を上がっていると隼人さんの声で我にかえった。


「ここは?」


いつのまにか立ち止まった先生が振り返り僕を見る。その視線は僕の内側を見るような不思議な視線だった。

あれだけ長かった螺旋階段が突如終わっていたのにはまったく気づかなかったので驚いた。そして目の前にはまた木のドアがある事に気づく。


「お前の準備が出来たから時間を短縮した」


「僕の準備ですか?」


「そうだ、お前は物心つく前にあの繭に入れて育てた。例えるなら無菌室みたいな物だな。だからこの神木の中を通らせてその身に亜弥音の加護の力を直斗の体に浸透させた。 それによりこの世界でも自由に動けるぞ」


先生の言っている意味がまだよく解らないが、1つだけ気づいたことがある。


「この螺旋階段を歩かせた意味はなんとなくですが感じました。………僕はずっとあの繭の中で育ったんですね?」


後ろの二人はウンウンと頷いている。

その衝撃的な事実に思考はついていけずに停止した。


固まった僕を見ても先生は構わずに話を続けた。


「あれを使えるのは才能がある者だけだ。お前の他にも子供は絶対にあの繭の中に入れるのが普通だ。だが直斗以外は途中で成長限界をむかえるために数年で限界に達っする事が多い」


「そうそう、だいだい3歳ぐらいまでは外で育ててそれから繭の中に入れて8歳ぐらいで限界がくるのよね。茜もそうだし私もだよ。おじさんは10歳ぐらいまでいったんでしたっけ?」


「ふん、おじさんじゃないぞミナホ。それより凄いのは直斗だろう。確か1歳ぐらいの時に繭に入れて今は15歳か、それを過ぎてもまだ限界がきてないとはなそっちの方が驚きだ」


本気で隼人さんは驚きの表情を浮かべていた。

それを見てなんとなく心に余裕ができた。

固まった思考が動きだし目の前の扉を開けて外の様子を早く確認しなければならないと頭の何処かで囁く声を聞いたような気がした。


「直斗、覚悟を決めろよ」


先生が木の扉を外側に開ける。解放された扉から生暖かい風が僕の頬を撫でた。


「………何処?」


色々と想像はしていた、自分の住んでいた灰色の世界。異世界で見た美しい景色などをだ。………だがここはなんだ?今見ている外の様子に僕は絶句する。


「これが現在の日本だよ直斗。あの女が犯した罪の姿だ」


淡々と語る先生に表情はない。

後ろにいた二人は遠慮したのか外に出てこなかった。


見渡す限りの荒野、草や木などの緑は無く土や岩などがむき出しになっている。

空に目をやれば昼の時間なのに暗く灰色の雲が厚く日本をおおっているかのように見渡す限り広がっていた。


「こんな場所で………人は生きていけるの?」


「地上にはもう人間は住んではいない。卑弥呼が住む東京には緑や建物が存在しているらしいが、それ以外の地は異世界から連れてきた神や精霊王、それに竜が住む世界にかわった。この荒野となった地には私達のように隠れ住んでいる人間がいるという話だ」


「どのくらいの人間がまだ生きているんですか?」


「全ては把握できてはいない。私達が住んでいるここは2百人弱、他のコミュニティも同じくらいだと聞いているが真実かどうかは確かめてはいない」


「………何故?」


「………昔はひとつになり卑弥呼に対抗しようという構想もあったらしいのだが、地上を歩いての移動は奴等に襲われるので合流ができないそれで計画は流れたらしい」


淡々と語りながら遠くを見つめる先生の表情が微かだが歪んだのを僕は見逃さなかった。


「もういいでしょ?中に入りましょうよ」


そわそわと辺りを気にするミナホが声をかけてきた。

その声に頷くと暗雲が広がる空に背を向けて先生と僕は下に戻っていった。

行きと違い、一瞬で神木の下の扉まで戻ってきた。

物凄く警戒心を顕にしていたミナホと隼人さんには驚いたが、それ以上に外に出る扉が締まると同時に下の扉に移動していたのにはビックリした。これはどんな現象なのかと考えていると先生が教えてくれた。


「直斗、階段を昇っている時に今の日本に適応できるように亜弥音が力を与えたのは教えたな、そのお陰で亜弥音を通せば地上まで楽に移動できるようになったというわけだ。まぁ、亜弥音の力が満ちるここでしか使えないがな」


今ここには得意気に説明する先生しかいない。隼人さんとミナホはこの場から離れている。

下に着いたときにもっと落ち着いた場所にて話をしようという事になりその準備に向かったのだ。

準備ができるまで先生と二人で待機となった。


「上でのミナホさん様子がおかしかったですよね?」


「ミナホ?………ああ、外の様子は話したな。地上は奴らの狩り場なんだよ」


「狩り場?」


そうだと頷いて先生は顔をしかめる。

その表情を見るに良い話ではないと察した。

先生の話だとここ一帯は冥竜神ヴァルサスの支配地域なのだそうだ。話を聞くとこの日本には7体の神が存在しているらしい。


神木のおかげで地下にいる限り見つかりはしないらしいが、地上に出ているのを見つかると攻撃される。

圧倒的な力をもつそれをミナホは恐れていると先生が語った。


「倒せないんですか?」


見つからないというがどうも胡散臭いとは思う。

でもそれがルールなのかと思い単純な事を聞いてみた。


「………無理だった」


悔しそうに絞り出すその声にこれ以上の説明はいらないなと悟る。

そこで重い沈黙が二人の間に流れた


「準備ができたよ」


遠くから二人を呼ぶミナホの声にホッと息を吐く。

重い空気が消えて二人は目をあわすと頷く。


「わかった。では行こうか直斗。くわしい話はその時にな」


「はい」


これからどうなるのか想像がつかないが、再び歩き始めることになるだろう。

全ては夢のようで現実だったあの日々を思い起こしては先生の後を早足で着いていった。

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