逃走
姿が変わったドラゴン少女に直斗は何が起こったのかカヤに問うように見る。
転がりながら自分を見る直斗の問いにはカヤは答えられなかった。
(なにアレは?あんな姿、私は知らない?)
闇が小さい竜の姿を形作っている。
竜の顔に翼、胴体に尻尾と揃っていた。
その全てが影のように黒く染まり鱗や爪などは見えないがドラゴン少女と同じ金色に光る目を直斗に向けていた。
それを見た直斗はカヤが言うように逃げ出したいが、闇竜は直斗の姿を追うように常にその視線を動かす。
目的の物はてにいれたが、そのオマケが凄すぎる。
ドラゴン少女以上にその姿は威圧感があった。
闇竜のブレスをかわした直斗は立ち上がる。
闇竜のブレスは一直線に伸び雪のあった箇所の地面を剥き出しにしていた。
立ち上がる直斗を見て闇竜は翼を羽ばたかせる。
1回、2回とだんだんと強く翼を動かすとその体が空中に浮く。
直斗の目の高さまで浮いた闇竜が何をするのかと警戒して構えていたのだが、一瞬で直斗の目の前に現れて体当たりをしてきた。
(グッ!)
それを体を曲げてかわす直斗。
その背後を弾丸のように飛び闇竜が大きく旋回すると再び直斗に迫る。
直斗はそれを地面に伏せてやり過ごす、闇竜も二度、三度と旋回しては同じ攻撃を繰り返す。
時には尻尾を使い直斗のいた地面を削っていった。
闇竜の狙いは直斗だけのようで、カヤや魅沙には興味を示さず攻撃はしなかった。
「魅沙、絶対に手をだしてはダメよ」
その闇竜の動きを見てカヤは魅沙に注意をする。
「だけど直斗さんが………」
魅沙が見るに、直斗よく闇竜の攻撃をかわしている。
徐々に小さく鋭く飛行する闇竜は浅い傷をいくつか直斗につくっていた。
「私達が動けば直斗も危険よ!」
危ういバランスでこの場はなりたっている。
下手に動けば、なんとか攻撃をかわしている直斗を危険にさらす事になりかねないとカヤは思った。
「今は我慢して魅沙」
「………わかった」
渋々ながらも魅沙はカヤの言うことに頷く。
直斗は必死に闇竜の攻撃を避けている、その注意力を削ぐ行動をとることはできない。
だから魅沙はもしもの時に備えて準備をしておこうと魔力をためる。
(クッ、段々と動きが速くなっている。なんとか地面に落とさないと)
カヤが直斗に張った障壁が多少は闇竜の攻撃を防いでいる。
直撃をされればどうしようもないが、今みたいに掠する程度なら防いでくれることもあった。
なにか状況を打開できるてはないかと直斗は脳を働かす。
今のところ、闇竜は空中からブレスを吐かない。
何か制約があるのかもしれないし、単に直接攻撃をするのに頭が一杯なのかもしれない。
そこに付け入る隙があるのではと思うが、どうすればよいかまでは考えが及ばない。
戦ってみてわかる。直斗の実力ではこの闇竜は倒せない。
魅沙やカヤと共闘しても今は勝てないだろう、それだけ闇竜は強いと感じる。
なら今の直斗のうてる手は一つだけだ。
直斗は闇竜が大きく弧を描き空中から攻撃をする為に姿勢を僅かだが崩した時に直斗は闇竜に背を向けて走り出した。
「直斗さん?」
突如、駆け出した直斗を見て魅沙は驚く。
隣にいるカヤもどうしたらいいか迷っているようだ。
ピロン!
「え?」
自分のスマホが鳴ったのを聞いて魅沙は訝しげに手に取ると直斗からのメールだった。
開いて中を見る。
ー逃げる、山を下りろ。氷依と合流して帰ー
メールは途中で切れていたが、魅沙は直斗の言いたいことは理解した。
「カヤ、山を下ります。案内をして」
直斗から預かった防寒具をギフトにしまい、魅沙は姿の見えなくなった直斗の方向を心配そうに見つめる。
いきなりそう言われてカヤはポカーンと不思議そうな顔をした。
「え、山を下りるの?直斗はどうするの?」
それに答える時間も惜しいのか、魅沙は歩きながら話すと言ってカヤを急かす。
直斗も闇竜も居なくなった事で魅沙達は急いで山を下りていった。
「ハア、ハアハア」
荒い息を吐きながら直斗は一目散に逃げる。
上か下かなどは考えないで、ひたすら走る。
できるだけ雪の少ない道をとは思ったが、それでは闇竜に追い付かれる。
だから直斗はあえて雪の多い場所に飛び込み姿を隠すようにした。
魅沙にはメールでなんとか、こちらの考えた事は伝わったと思うが安心はできない。
幸い闇竜は空を飛んで追ってきているが、やはりブレスによる攻撃を直斗にしてこなかった。
闇竜がどのように直斗の後を追っているのかは知らないが、今のところは無事に闇竜をやり過ごす事ができるところまで逃げだせたようだった。
積雪のある雪の中に逃げ込みジッと動かずに闇竜をやり過ごす。
ときおり、直斗の隠れている雪の中の近くに攻撃をするが場所が判明しているわけではなく闇竜は何となくあたりをつけて攻撃をしていると思われた。
その証拠に単発で攻撃が終わる事が多い。
(できればアレを撒いて山を下りて町に戻りたいが……魅沙さんからの連絡待ちだな)
上空を旋回しているらしい影を感じながら直斗はジッと身を潜ます。
いつ切れるかわからないカヤの障壁が寒さを緩和してくれるので、そのありがたみを感じながら直斗は陽が落ちるまで雪の中で身を潜ます。
あい変わらず闇竜は直斗を探して空中にいるが、辺りは陽が落ちて真っ暗になっている。
少しずつ雪を掘り場所を移動する直斗の耳には闇竜の羽ばたきが微かに聞こえる。
この暗闇でも見えるのかは知らないが、試してみるつもりもない。
直斗はある程度、雪の中を移動をすると雪の中から這い出して顔を出す。
(アレかな?)
闇竜の姿は見えないが、翼を羽ばたかせる音が遠くで聞こえる。
それを背中で聞きながら直斗は雪の上を這って進んで行った。
山の上に向かっているのか下に下っているのかわからないが、直斗はひたすら進んで行く。
朝からの逃走の為、かなりの体力の消耗と空腹を感じながら直斗は夢中で闇竜から離れるように逃げていった。
真っ暗な暗闇の中で直斗は水が流れる音をきいた。
(みっ、水………どっちだ?)
疲労で意識がハッキリとしないなかで直斗は水を求めてさ迷う。
気がつけば直斗は細長い穴の中にいた。
(………どこだ、ここは?)
近くに闇竜の気配が無い、直斗はスマホを取り出すとライトをつけて辺りを探る。
照らした場所を確認すると、何かの巣穴らしい。
奥は行き止まりで、直斗が中腰で移動できるぐらいの広さがあった。
よく見ると食べかけの何かがあるが匂いはしない。
凍っている状況から、ずいぶんと長く使われていない感じがした。
(今………何時だ?)
ようやく頭が働いてきた、直斗はスマホの時計を確認すると午前4時。
直斗が目覚めた事でお腹が凄い勢いで鳴る。
(………何かあったかな?)
火はおこせないので、ギフトに入れている食料の中でお菓子を取り出して食べる。
闇竜が匂いに敏感ではないことを祈りつつ貪る。
お腹一杯にはならないが、空腹感は多少おさまった。
(はあ、とりあえず外の様子を確認しないと)
行き止まりにいるので、向きをかえて細穴を進む。
いい加減、ドラゴン少女の意識が戻っていると助かるのだがと慎重に明かりをつけずに行くと細穴の中の空気が変わった。
(外が近い。だけどアレもいるな)
生温い空気から冷ややかな冷気を含んだ空気に変わり、その先に闇竜の気配を感じる。
直斗は細穴から顔だけを出すと視線の先に闇竜の金色の瞳が光っていた。
(………………気づかれている?)
顔を出した直斗に気づいていないかのように動かない闇竜。
どうすべきかと悩む直斗にめがけて闇竜はいきなりブレスを直斗に向けて吐いた。
(えっ?)
闇竜の口元が微かに光、真っ暗な山に黒いブレスがはしる。
それは直斗のいた細穴を飲み込み生きている者に死を運んだ。
細穴が闇竜のブレスで広がり、そこには誰も居なかった。
それを見届けて闇竜は何処かへと飛び去った。




