いざ異世界へ
無事に魅砂のパーティー入りが決まり、すぐさま明日の依頼の内容を氷依が魅砂に話す。
さすがに急な展開に驚きの顔をした魅砂だったが、驚くほど簡単に首を縦に頷く。
魅砂が最後にパーティー名を氷依に聞いていたが、明日のお楽しみということで今日は解散となった。
各々、明日の用意をするようにと氷依に言われ集合してすぐ別れる形となった。
帰り際に魅砂に頭の上の猫耳が千切れて曲がっているよと教えると、アタフタして頭に手を伸ばし硬直、涙目になりながら直斗を見上げると鞄からハンカチを取りだしたかと思うと頭にハンカチを当てて脱兎のごとく廊下を走り去っていった。
残された直斗は吹き出しそうになったが自重すると帰宅の徒についた。
次の日の朝、直斗は例の氷依の部屋にいた。
依頼の通知は学園に送ってあるので、依頼期間中は授業は免除である。
実践で学ぶ方が授業を受けるより有意義であるとの学園の方針で来年の2月までに進級に必要なポイントさえ取れば問題なしで進級できる、もちろんパーティーでやるからにはポイントは人数分にわけられる。
直斗のパーティーは現在の4人。直斗、氷依、魅砂、花さんだ。
直斗は今回の学園の入学にあたりすべての事を氷依に任せてきた。
幼馴染みの氷依の要望?(脅迫)でこの学園入学する事と一緒のパーティーに入る事が条件で他は氷依に全て任せるで合意がなされているからだ。
「直斗、魅砂はまだ?」
今、部屋には3人だけだ。
魅砂に告げてある集合時間にはまだ間がある。
「さあ?時間にはまだ余裕がある、遅れそうなら連絡が来るはずだから大丈夫だろ?」
「そう、昨日はやりすぎちゃったから悪いことしたと思って………」
「お嬢様、ご心配なら私が魅砂様をお向かいにまいりますが?」
少し沈んだ表情の氷依を気遣い花さんがそう進言する。
「いいわ、あの程度で臆するなら狩りは無理よ。その時は3人で行くわよ」
「はい」
「………」
直斗は答えずに自身のスマホを取りだし弄る。
約束の時間まであと10分、出会って間もないが直斗は彼女が逃げるとは思っていない。
昨日の程度で逃げるなら学園にあのコスプレで登校しないだろうと直斗は思う。
そんな事を思っていると部屋のドアが凄い勢いで叩かれる。
「キャー、開けて下さい!遅れてスミマセン!」
花さんがドアに歩みより中に魅砂を入れてあげる。
開けられたドアから魅砂が倒れそうになりながら入室してくる。
「はぁはぁ、遅れました~、スミマセン」
「?」「?」
「魅砂様、大丈夫ですよ。集合時間には間に合ってますので」
一生懸命に走って来たのだろう、汗だくになりながら激しく動く肩を上下にしている魅砂を気遣わせに花さんが見る。
「へ?」
花さんの声が聞こえたのだろう魅砂が腕時計を見る。
「え?だって、これ……………」
右腕に着けている腕時計を花さんに見せるようにもっていくと花さんの表情が緩む。
「時間が早くなっているのかと思います魅砂様、その腕時計をあと5分ほど遅れさせれば良いかと」
はあ~とその場で座り込む魅砂を花さんが立たせてソファーの方へ連れていき水を差し入れる。
その水を美味しそうに飲み、一息ついた魅砂が氷依を見て
慌てて立ち上がり頭を下げる。
「スミマセン。お騒がせしました」
「……………プッ!」
「?」
一連の騒動が氷依のツボをついたようだ、頭を下げる魅砂を見つめていた氷依が思わず吹き出す。
それを不思議そうに魅砂が見ている。
今、気づいたが今日の魅砂は狐耳を着けている。
案外それが氷依のツボをついたかも?と直斗は思った。
「いえ、謝る事はないわ城江さん。時間には間に合ってますもの」
「あっ!白亜さん、私の事は魅砂と呼び捨てでいいです。あと………メイド?さんも」
「そう、なら私の事も氷依でいいわよ」
「魅砂さま。私の事は花とお呼び下さい」
「氷依さんと花さんですね!………えっと」
嬉しそうに2人の名前を口ずさみ魅砂が直斗をチラチラと見る。
その視線に気づき直斗はコホンと咳をしてから魅砂に向き直り普段より丁寧な口調で言う。
「僕は光羽直斗。どっちでも好きに呼んで」
「えっと……………光羽君?」
「あははは、そいつは直斗で良いよ魅砂。パーティーを組むのだから遠慮は無しだ」
恐る恐る声に出した魅砂を氷依が可笑しそうにそう訂正した。
これで全員が部屋に集まり、椅子に座る氷依に視線が集まる。
「うむ、全員揃ったな。今からパーティー登録をする。皆、ギフトを出せ」
氷依が全員の目を見てから告げるとギフトのスマホを取り出す。
他の全員が同じようにギフトを取りだす。
そうすると氷依が直斗に向け何かを送信。
直斗が送られてきた内容に愕然とする。
「ちょっと待て!」
「なによ?」
「なによじゃないだろ!なんでパーティーリーダー俺なんだ?」
スマホの画面にはパーティー設定の画像が送られてきてパーティー名に、リーダー欄には直斗の名前があった。
「なによ。全部、私に任せると約束したじゃない。さっさと了解のボタンを押して花か魅砂に送りなさいよ」
「……………」
直斗はなにも言えずに画面の了解ボタンを押して魅砂に送る。
魅砂から花へ、氷依と戻りこれでパーティーメンバーと認められた。
(くっそ、嵌められた!……………)
おもいっきり落ち込む直斗を魅砂がハラハラとした表情で見る。
氷依と花は当然とばかりに感情は見受けられない。
「あっ!パーティー名はトルネードですか?」
魅砂が場の雰囲気を変えようと明るく言う。
「そうよ!言葉の意味は全てを巻き上げるよ!私達は異世界で全てを掴みとるのよ!」
ドヤ顔で宣言する氷依を直斗は冷ややかな目で見る。
おおかた何かの本や映像を見て気に入ったのだろうと辺りをつける。
「トルネード、呪文みたいですね」
と魅砂が言うと氷依が素早く顔を背ける。
(おい!まさか当たりなのか?)
「まあ~、良い名ではないですか、問題がありますか?直斗様」
花さんがパンと手を叩き直斗を見る。
その視線がお嬢様に恥をかかせたらわかってますよね?という表情だったので直斗は慌てて頷く。
直斗はどこでこんなに花さんに嫌われたのか本気で聞いてみたかった。
幼少の頃は可愛がってもらった記憶がある。
だとすると4年ぐらい前のあの出来事だろうか?
直斗がそんな考えに思考が沈みこんでいくと、氷依の直斗を呼ぶ声で我にかえる。
「直斗!ぼーとしてないでこの荷物を持ちなさい」
「なにそれ?」
「家にあったガラクタよ」
大きい袋が2個、目の前にある。
直斗が中を覗き見ると防具類が入っている。
「なにこれ?」
「向こうでこれを売って貨幣を得る」
兜や手甲など様々な物が詰まった袋を直斗が持ち上げてみるが重くて動かない。
「どうやって持ったきた!」
「ギフトの中だけど」
「あぁ、確かにありましたねそんな機能」
こちらのやり取りを黙って聞いていた魅砂が納得顔で頷く。
「金?そういえばあちらでは金が必要だったけ、よく家の人が許可したね?」
「?、お父様は今は中央よ」
「黙って持ってきたの?」
「こんなのガラクタよ。家の庭の物置小屋に捨てられいるもの。兄たちもこれを売って面倒くさいアルバイトなんてパスしてたもの問題ないわ」
さすがは総督家、代々受け継がれただけはあるのか?と直斗は思った。
こんなを溜め込んでいるなんて余程の道楽かとも思う。
「これは先代様達の装備です。戦いで破損したのを小屋に放り投げたのが溜まっていたのです」
花さんの追加情報を聞き納得する。
異世界から持ち込めるのは1つ、こちらでも戦闘用の装備は貰えるし製造もしている、もちろん高ランクの者にかぎるが、こちらから持ち込む分にはいくつでもいいが低ランクの場合は対価が必要になるよくある物々交換だ。
そのために代々、狩りをしている家はそれなりに蓄えがあり貴重なのだが。
氷依の家ではそうでもないらしい。
「なによ、今回だけよサービスは。毎回これだと修練にならないでしょ」
直斗があまりにも深刻な顔をしていたのを見たのか、氷依がやや慌てたように付け足す。
「ですよね、私もちょっとないな~と思いますし」
「そ、そうよね。魅砂も直斗もよくわかってるじゃない」
そう言うと氷依は袋の1個にギフトをかざしてそそくさと中にしまう。
直斗もスマホを取りだしアイテムボックスを開いて袋を携帯機に入れた。
ひとつのギフトに入るスペース10個、ひとつに纏めれば1個で済む。
レベルが上がれば入れる数も増えるという。
改めて氷依がお嬢様だと直斗は思った。もちろん口にだして言わないが。
「じゃあ行きましょうか!」
微妙な空気を振り払うように氷依がひときわ大きな声で直斗に言う。
「はぁ~……………行こうか。みんな集まって」
色々と考えたがすでに詰んでいる、直斗は心から納得した訳ではないがもはや言っても仕方がない。
内心で氷依に悪態をつきながら異世界に跳ぶため皆を集める。
「えっと、目標火の国マズウェルのギルドへ送信」
直斗はスマホ画面にでている依頼の最後にある目的地の決定ボタンを押す。
送信された内容にしたが異世界に跳ぶ力が直斗達の足元から沸き出でる。
全員を包む精霊陣が形成され光が強く溢れると直斗達の姿は部屋から消えた。