追跡
ハマスが逃げた先を見つめる白夜に直斗は落ち着けとばかりに頭を撫でる。
「珍しいね、白夜がこんなに敵意をだすのは?」
「………嫌な感じですマスター、野放しにすると危険な感じがするんです」
その目はいまだに森の奥に向いている。
直斗はそれを察して白雪を呼んだ。
「マスター、何を?」
白雪を呼んだ意図を察せず白夜は直斗を見上げる。
ハマスが傷を受けた場所に白雪を連れていき地面に落ちている血の匂いを白雪に嗅がせる。
「あっ、追ってくれるのですか?」
それを見て白夜は直斗の意図を察する。
「それだけ気になるのなら後を追う。白雪行って!」
その声で白雪はハマスを追うために駆けていった。
皆が集まったところで直斗はハマスを追うと告げる。
反対意見はでず、皆も同じ気持ちだった。
「そうと決まれば行きましょう、今度は手加減はしないわ」
「そうですね、何故私を裏切り者と言って憎むのか気になります」
そう言うとエリーナは先頭に立って、白雪を追い始める。
白雪が駆け抜けたと思われる足跡を見つけては先に進んでいく。
「かなり先に進んでいるみたいですね」
エリーナは自身の探索魔法と併用して白雪の痕跡を探していく。
不思議な事にエルフからの攻撃がまったく無いし、味方のダークエルフの気配すら近くに感じない。
そのため、白雪の追跡に集中できるのだが違和感ありまくりで逆に警戒してしまう。
どこまで白雪が行ったのだろうと思っているとひょっこりと白雪が顔を見せた。
「えっ?」
驚きの声をあげるエリーナ、探索の魔法に反応が無かったからだ。
「嘘、どうして?」
信じられない物を見る目でエリーナは白雪を見つめた。
「エリーナさん?」
動きを止めたエリーナに直斗は声をかけた。
「………え、はい。なんですか?」
隣にいた魅沙につつかれてエリーナはようやく呼ばれている事に気づいた。
「大丈夫?顔色が悪いよ」
「え?………あ、はい。大丈夫です。ですが、私の魔法はダメかもしれません」
「?、どういう事よエリーナ」
エリーナの言っている意味が解らなかった氷依が彼女の前に立ち聞く。
白雪は直斗を連れていこう少し離れては振り返る。
それでも直斗はエリーナの言葉を待った。
「どうやら探索魔法に不具合がでているみたいです。先程の白雪さんにも気づきませんでした」
「直らないの?」
「………わかりません。こんなのは初めてです」
泣きそうな顔を見せるエリーナ。
それを見て氷依がエリーナの頭にチョップを当てる。
「へ、………痛いですよ氷依さん」
トン、と軽く当てると氷依はエリーナに言った。
「泣くよりまず、ギフトの精霊を確認しなさい。異常があればギフトの精霊にも変化があるはずよ」
氷依の言葉にエリーナはハッ!として、自分のギフトに手をかける。
精神を集中しているエリーナを皆が見守る。
直斗はその隙に白雪の後を着いていった。
当然ながら白夜も直斗に着いている。
「白雪、こっちに居るのか?」
問いかける直斗を無視して前を歩く白雪に直斗は見つめる。
(何かおかしい?)
ここに来て感情を無くしたような素振りを見せる白雪に疑念を抱く。
それほど仲間達と離れた場所ではない所で白雪が止まった。
「?、どうした白雪?」
直斗が声をかけると白雪の姿がぼやける。
「マスター!幻術です!」
白夜が叫ぶと白雪の姿が霞んで消えた。
「その通りです」
女性の声がしたと思ったら、目の前にハマスを従えた少女が現れた。
「君は………」
その顔に見覚えが直斗にはあった。
クラスメイトでナイトラウンズにいた少女だった。
(マスター、二人です)
ハマスの陰にもう一人いることを白夜が見つける。
(わかった)
完全武装をしている少女の名はなんと言ったか思い出そうとする直斗だが、一回自己紹介を聞いただけなのでまったく思い出せなかった。
「光羽君、エリーナを渡して」
ゾッとするような低い声で少女が言う。
「………断る!」
「そう………」
直斗が断るのをわかっていたように少女は落ち着いている。
「何故?エリーナさんを求める?」
答えは無いだろうと直斗は思ったが。
「私達を騙した償いを受けさせる………」
返答があった事に驚いた直斗。
「………騙した?」
「そう、あれがハーフエルフだなんて………」
「何故それを、それにハーフエルフの何処が悪い………………って言う前に何故ここに居るんだ?」
ナイトラウンズのメンバーは確かエルフの街で保護をされていると聞いたのだが………………。
「私が居るのが不思議ですか?」
「ああ、それに………後ろにいるハマスも気になるな」
まるで従者のように控えるハマスにも不振の目を向ける。
「彼は今、私の操り人形ですから語りかけても無駄ですよ」
その言葉にピクっと反応する白夜。
「なに?、じゃあエルフの街で起きている吸血騒動は………」
「ええ。私達の仕業です」
ここまでずっと無表情の少女が淡々と語る姿に直斗はこんな少女だったかと記憶を探った。
「それで話は終わりか?」
「そうですね、答えをお聞きしても?」
「答えはNOだ。エリーナさんは渡さない!」
そうですか。と呟いて少女は戦闘体勢をとる。
殺気もなく闘志も感じられない少女に直斗は戸惑いつつも構える。
(マスター、私はもう一人を引き摺りだします!)
(わかった。こっちは任せて)
先手必勝とばかりに直斗は少女に向かう。
そういえば、名前を聞いていないなと思いつつ少女に近づくと、ハマスが少女の前に出てきた。
「通さん!」
二刀を目の前に構え直斗に対する。
先程はナイフだったが、今は短剣をもっている。
「死ね!」
ハマスが右短剣を突きだす、鋭さが無い突きを直斗は顔を僅かに横に倒して短剣をかわす。
そのまま、ハマスの右外側に回り込みハマスの右足に直斗は蹴りをみまう。
「ガッ!」
直斗の攻撃で右片膝をつくハマス、頭の位置が下がったのを見て直斗は右脚の蹴りでハマスの頭を狙った。
「舐めるなよ!」
地面に右手をつけている為、ハマスは左手に持っている短剣を直斗の蹴りに刃をたてる。
このままだと直斗の脚が斬られるが、直斗は刃に当たる直前に蹴りの起動を変えてハマスの左手に蹴りを当てた。
「うっ!」
大きく弾き飛ばされた左手から短剣が飛ばされる。
がら空きとなったハマスの体に直斗は後ろ回し蹴りをハマスの胸に当てた。
片膝をついていたハマスだが、直斗の攻撃で後ろに飛ばされる。
ハマスの後ろにいた少女を巻き込んで二人とも地面に転がった。
「そこですか!」
それを見ていた白夜は二人が転がって舞った土煙を見て前に出る。
何もない空間に白夜は右拳を振り抜いた。
「キャ!」
何も無かった空間から少女の悲鳴があがった。
「ステルス?」
突如現れた少女を見て直斗は呟く。
白夜は更に追撃をかけた。
「やっぱり居ましたね。コソコソと何をしていました?」
「………」
「黙りですか?では………」
更に加速して白夜がもう一人の少女の懐に入る。
直斗はすでにハマスを捕らえていた。
ハマスの下に居るはずの少女は消えていて姿が見えない。
逃がした形跡はなかったはずだがと直斗は首を捻る。
すると白夜の横にその少女が現れる。
「なんで?」
直斗が加勢しようとすると、白夜が目で直斗を制す。
白夜はいきなり現れた少女を無視してステルス少女の腹に拳を当てる。
「ガハァ………………」
ステルス少女の口から空気が漏れる。
唾液と涙を流しながらも、ステルス少女の瞳にはまだ光が宿っている。
「白夜!まだ来るぞ」
それを見た直斗はハマスの頭に一発いれる。
ハマスは体から力が抜け、意識を失った。
油断なく白夜はステルス少女を見る、相変わらずもう一人の少女は無視したままだ。
直斗はゆっくりともう一人の少女に近づき触れる、少女の体を直斗の手が通り抜けた。
「!………………幻影。だとすると白夜!もう一人いるぞ!」
直斗の叫びを聞いて苦い顔をするステルス少女、白夜に牽制され動けずにいたが意を決したように動いた。
地面に手をついた状態の少女が素早く白夜に足払いをかける。
それに反応した白夜は空中に身をひるがえした。
その場で上に跳ぶのではなく、ステルス少女の真上に行く軌道を描いている。
「えっ?」
白夜に真上から押し潰されたステルス少女は予想外の出来事に対応できずに顔面を白夜に蹴られた。
顔を押さえて地面を転がるステルス少女に白夜が止めとばかりに更に蹴りあげようとすると、その蹴りをステルス少女から正面の何も無い場所に蹴りあげた。
バギ!
と何かが折れる音が白夜の目の前でした。
白夜の足元に木矢が折れて落ちている。
「誰だ!」
辺りを見渡す直斗。その瞬間、直斗達の真上から無数の木矢が降り注いだ。
「白夜!」
直斗は手を伸ばして白夜を掴むと転がるようにその場を離れる。
直斗が矢が刺さったであろうステルス少女を見ると少女はその場から消えていた。
「やられた!」
「そうみたいですね」
直斗は少女がいた場所に矢が1本だけ刺さっているのを見た。
あれが幻術だとしり悔しさを露にした。
「直斗!」
呼ぶ声の方を見ると氷依達が姿を見せた。
何があったのかを察した氷依は辺りを見渡してから直斗の側に来た。
「収穫は?」
直斗はここで起こった全ての事を皆に話す。
元気が無かったエリーナが、幻術の話を聞いて瞳に力が宿る。
「そう、ですか。幻術ですか………」
「エリーナさん?」
肩を震わしているエリーナを心配そうに直斗は見た。
「はい、大丈夫です。原因もわかりましたから、もう平気です」
何か憑き物が取れたように笑顔を見せるエリーナ。
その表情にホッとしてこれからの事を話そうとしたときに、白雪が直斗のもとに駆け寄ってきた。
「白雪?」
「そうよ、この子の案内でここに来れたのよ」
聞けば、エリーナが自分のギフトを調べているときに直斗達の姿が見えなくなりどうしようかと思っていたら、白雪が現れて氷依達をここに案内したらしい。
直斗は白雪にお礼を言って、少女が消えた場所を指にさす。
「白雪、もう1回頼めるかい?」
ステルス少女が居た所の匂いを嗅いで白雪が駆ける。
「直斗、行くのね」
氷依の問いかけに頷き、直斗達は再び白雪を追って大森林の中を駆け出した。




