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女帝

「陛下!お待ちください」


大声で叫ぶ初老の男性、黒の執事服に身を包み大理石の通路を早足で歩く。

彼の前には黒髪の長い髪を無造作に遊ばしている赤いマントを着た少女らしき人物が笑いながら執事に追い付かれまいと前を進む。


ここは中央エリアの城。

日本では見慣れない西洋建築で造られた巨大な城、現女帝の居城である。


すべての始まりがここに有り、日本の総てがここに集まる。

中央エリアは他の5エリアと比べると総面積は狭く東京都しかエリアに入れてはいない。

それでもこの場所が日本の中核なのを誰も否定ができない。


そこのトップの少女が無造作に城の中を歩く姿は端から見ると心配の種でしかない。


「陛下、もう……………皆様がお待ちなのです………」


「だから?いつ会議をはじめるかは私が決める!皆にはそう伝えよ」


執事の言葉に立ち止まり振り向きざま言い捨てる。

少女は再び歩きはじめると立ち止まった初老執事の顔には深い皺が幾重にも浮かんだ。


城の中央に位置する巨大会議室には5大エリアの実務担当者達と女帝の座る椅子の脇に5大総督が顔を揃えていた。

総勢100人以上が集まった会議室はいつも熱気が溢れている。


年一回開かれるこの会議には、今の日本を取り仕切る要人達が一同にかいす。


各エリアの代表者達が今か今かと待ちわびている女帝の姿は会議開始の予定時刻を大幅に過ぎている。


「陛下はいかがした?」


「まだなのか?」


「予定の時刻を過ぎているじゃないのか?」


会議室には予定の時刻を過ぎている為にざわめきが大きくなる。

その声に耳を傾けつつも5大エリアの総督達は一言も発せずにその場で静かに時を待っていた。

「あは!待たせたね。会議をはじめようか」


少女が颯爽と深紅の鎧にマントをなびかせて女帝の座るべき椅子に腰を下ろす。

その瞬間、会議室中の人間が立ち上がり静まりかえった室内で全員が女帝に頭を下げる。


誰も頭を上げる事なくその場で固まっていると。


「うん、やろうか」


少女のその声で会議室中の人間が頭を上げ席に座ると遥か先に座る少女を見上げるように真っ直ぐと見つめる。


「でわ、会議を始めさせて頂きます。進行は陛下より承った近衛兵団隊長のミギワがつとめますので宜しくお願いします」


壁際でマイク握る背の高い女性が頭を下げる。

脇役に徹する為か近衛兵の鎧などは着こんでおらずにスーツ姿で進行をする女性は堂々とした姿で、やや早口で会議を進行する。


「以上が5大エリアの食料事情です。資料を拝見しますと全エリアで100%の食料普及率を達成しておりますので、陛下からのお言葉がなければ次の産業部門に話しを移しますがよろしいでしょうか?」


ここまでで、約2時間。

誰ひとり言葉を発せずに各エリアの資料をチェックしている。

無言の肯定で次の議題にいこうとミギワが口を開きかけた時に少女の声がそれを遮る。


「各総督に尋ねる。資料の3枚目、去年と今年の対比を見ると今年は10~15%も落ち込んでるが理由は?」


少女の指摘により5大エリア総督の1人、銀髪の総督が立ち上がる。


「お答えします陛下」


40代半ばの壮年総督が少女を真っ直ぐに見つめ頷いたのを確認してから答える。


「今年の初め、新年の儀にて我が第1エリアでは大規模な編成にて食料調達部隊を異世界に派遣しました。ご存じの通り5級以上の資格を持つ者には特別な料理を振る舞う習わし、その狩りにて予想外の損害を部隊が負い、急遽の部隊増員を行いなんとか目標値まで達成したしだいです」


「ふ~ん、そんな報告は受けてないんだけど?」


「報告はしてませんので、陛下が知らないのも当然かと」


「そう?」


少女の視線が厳しさを増す。

その視線を受けてなお銀髪の総督は平然とした顔で女帝を見つめる。

会議室全体を張りつめた空気が支配する中、銀髪の総督が口を開く。


「総ては我が一存に任されているはずでわ?」


「そうね♪。無能なら排除するだけだし、最低ラインは突破してるから生かしてあげる、だけど来年も同水準なら……………わかるわよね♪」


少女はそう言うと銀髪の総督から視線を外す、銀髪の総督は冷たい汗が背中を伝う感覚を肌で感じながら無言で席に座った。


その他、第2、第4エリアの総督の話しを聞き終えて少女はため息混じりで呟く。


「もう、歳なのかしら……………交代時期なのかも……………」


その呟きは静まり返った会議室でも聞き取れた者は5大総督達しかいなかった。

各エリアの食料事情から話しは工業問題、産業へと会議は進む。


こちらの方はスムーズに会議は進み特に女帝からの口出しもなかった。


「でわ、会議がはじまり7時間が経過しておりますので、小休止を提案いたします」


進行役のミギワが会議の進み具合を見て進言した。


「うん!3時間程、休憩しよか。今日は寝かさないよ♪」


少女が席から立ち上がり、そう宣言すると足早に会議室を出る。


「次の会議は3時間後にはじめます、軽く食事の準備もしてありますので、隣の部屋へどうぞ」


ミギワがそう告げると会議室中の者達が動き出す。

先程の会議で出た問題点の改善や対策で右往左往する人達を横目にミギワは会議室を出て自分の主たる少女の元へと向かう。


城の主が消え残された者達が、疲労を滲ませつつも課題に取り組んでる中で5大総督達は次々に処理されていく書類に目を通し指示をだす、先程の女帝の言葉ではないが無能者は排斥されるか死を賜るかしかないので手は抜けない。


完全実力主義の現在の日本で生きていく為にはトップといえど気を抜けないのである。

あきらかに休憩モードではない会議室を後にして少女は階段をかけあがる、最上階の自室に戻るとフカフカのベットにダイブして感触を楽しんでいると。

ドアをノックする音が部屋に響く。


「開いてるよ、入ってきなさい」


失礼しますとドアからミギワが顔を覗かせる。


「早く入ってきなさい、鍵はかけないでね?」


「かけません!陛下……………」


「なによ?」


部屋に入りベットの上でゴロゴロと動いている少女を見てミギワが固まる。


「えっと、マントや鎧は脱いだ方がいいのでは?」


「めんどい!」


「そういう問題ですか?」


「そうよ!それに見た目ほど窮屈じゃないのよコレ」


ベットの上から自分の鎧を指差しミギワに触ってもいいのよ?といいながら手招きをする少女に慌てて首を振り結構ですと告げるミギワ。


「そっ、そんなことより陛下。5大総督を排斥するのは本気ですか?」


「なに?興味津々?」


「そーですね……………興味有りです」


「そう、でも立場をわきまえなさい」


少女の顔から統治者の顔を見せた瞬間、ミギワは絨毯をしいてある床に土下座をした。


「はっ!申し訳ありません」


少女は満足気に頷きミギワを立たせる。


「敬語は不要と言ったけど節度は保ちなさい」


「はい」


「うん。で、ミギワはどのエリアが欲しいの?」


「へ?」


「そういう事でしょ?」


少女の発した言葉の意味をミギワは本当に理解していなかったが、徐々に理解の色を瞳に宿す。


「いやいやいや、私には無理です!陛下の近衛長になれただけで十分ですから!」


本気で嫌がるミギワを見て少女はため息を吐く。


「はぁ、ミギワ。興味本意で虎の尾を踏むのは止めなさい、貴女の悪い癖です」


「はい。……………で、どうなんでしょ?」


ショボくれた顔をしたミギワが少女の忠告を無視して虎の尾を踏みに行く。


「はぁ~、まあいいわ。ミギワに節度を期待した私が悪かったのよね。」


それを聞いたミギワの瞳が輝きだす。

それを見て少女は22歳の女が色恋よりゴシップとはミギワの春は遠いなと内心で思う。


「ミギワには残念だけど、総督達はあのままね。よほどの失点がなければ交代させられないわ、そうじゃないと私の主義に反するもの」


ミギワはあきらかに残念な表情をつくる。


「なぁに?そんなに戦いたかったの?」


「はい!総督クラスの相手には中々出会えないです、ただでさえ暇な近衛隊ですし、平和すぎてつまらないですよ」


「最年少天才少女ミギワですものね」


「ひぃ~、やめて下さい。恥ずかしいですから」


両手をパタパタと振っているミギワの頬は赤くなっていた。

それを少女はベットの上で眺める。


「ミギワ、外はどうなの?」


不意に少女はベットから外を見てミギワに問う。


「?、いつもと変わらないと思いますけど?」


「そう」


「はい!いつも通りですよ、海域の結界の穴から入り込もうと他国から潜水艦やら工作挺など飽きもせずに資源の無駄使いをしてますよ」


「そう」


「陛下?なにか気になるのですか?」


「人間って、馬鹿ね」


「?」


何気なく呟いた少女の一言にミギワは訳がわからず沈黙する。


「それでミギワ、我が国の土を踏めた者はいたの?」


「え~、いるわけないですよ。国土の7割は神獣や幻獣、亜獣や竜など陛下が持ち込み放し飼いにしているのですから、上陸前に殺られちゃてますよきっと」


にこやかに言うミギワ、少女は夕暮れに染まる外を眺め続けている。


「彼等にはこの土地から出ないでいてくれれば良いと言ってあるだけよ?」


「攻撃されれば反撃しますよ、見た目が恐いですもの。海岸線に天使でも放します?」


「貴方は神を信じるの?」


「さぁ?見たことないですし。ですが陛下が実は神様だったというなら信じますよ」


「ふふふ、ミギワは面白いよね。私は殺戮女帝よ?」


「でも……………誰も殺してないじゃないですか?」


演技をしているように微笑む少女にミギワは首を傾げて言う。


「直接的にはね、間接的にはわからないわよ。私を恨んでいる人は星の数だけいるもの」


「はぁ?よくわかりませんが陛下の計画通りなのでしょ?、陛下が虐殺したと嘘の情報を流したのも」


「ふふふ、それに気づいている人がこの日本に多くはいないのよ」



「はぁ?私にはわかりかねます。私はシンプルが良いですから、目の前に立ち塞がるのが陛下の敵か味方かだけで考えるのは十分ですから」


ミギワは右手を自身の持つ剣に触れて少女に意思を示す。


「そう、ならミギワには色々と頑張ってもらうわね。まずは会議の後半戦をお願い♪」


ガク!と項垂れるミギワを可笑しそうに見る少女。

ミギワは気を取り直して少女に向かう。


「もうそんな時間ですか?、では会議室に向かいましょうか卑弥呼ひみこ様」

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