氷依VS魅砂
直斗は授業が終わるチャイムを聞き席を立つ。
昨日の騒ぎもあったので幾分、警戒しながら今日は登校したのだがクラスメート全員が関わらない事に決めたように直斗を無視した。
(目もあわせないか、まぁいつも通りだな)
直斗はこれまでのと同じと思い、逆に関係を持とうと近づいてくる者より良いと本気で思った。
ただ、委員長だけは直斗が教室を出ていく後ろ姿を見つめていた。
教室を出て直斗は隣のBクラスの前の廊下で魅砂を待つ、昨日のメールでパーティーに入るためにはリーダーに会ってほしいと伝えたところ、会うと返信があったのでここで待ち合わせた。
Aクラスは少し離れた位置にある。
B~Eクラスは並んで教室があるため、合流がしやすい。
十分な時間をみたつもりだったが、魅砂が姿を見せない。
さすがに氷依みたいに他のクラスに入る度胸はない。大勢の生徒が行き交う廊下で直斗は窓から外を見る。
特に注意を引く物は無いが時間を潰すのにはボーと見ているだけでも直斗は平気な方なので、魅砂が出てくるまで外を眺めていようと思った。
「お待たせしました~」
直斗の背後から女性の声がして振り返る。
相変わらず猫耳を着けた魅砂が直斗を見上げている。
若干、魅砂の足が震えているようだが、直斗は気にしない。
「?……………、今日は普通の喋りかたなんですね?」
「!……………、えっと待たせたな?」
「ぷっ!」
魅砂が普通に接したのを直斗はなんとなく、からかい気味に返したのだが予想以上に面白かったので思わず吹き出してしまった。
魅砂は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「いっ行こうか」
こういう反応に馴れていない直斗はどう言えばわからなかったので、魅砂の反応には触れずに今日の目的である氷依に会わせる為に移動する。
「はい」
小声で直斗の問いに答え、直斗の後ろをついていく。
普段、絶対に通らないAクラス専用の廊下を進む直斗と魅砂を奇異の表情で見る白服の人達に魅砂は顔を伏せて直斗の足元だけを頼りに進む。
2人はここまで会話は無し。
直斗も魅砂もお互いなにを話したらいいか思い付かないからだ。
自分達のクラスの安物の扉とは違い、重厚な扉が並んだ廊下の奥に目的の部屋がある。
直斗はノックをして相手が来ているか確かめる、Aクラス専用の部屋なので氷依が中にいなければ入ることができない。
ガチャ、と音がして扉が開くとメイドの花さんが出てきて中に入れてくれた。
相変わらずのポーカーフェイスでニコリともしない。
「待ってたぞ直斗、そちらが件の人か?」
直斗の後ろを見て氷依が聞くので、直斗は頷く。
直斗は氷依が座る机の前までいき魅砂を紹介する。
「昨日の話した城江さんだ」
「!……………城江魅砂です」
直斗の紹介にピクッ!と反応して魅砂は豪華な白い机と椅子に腰かけている女性に自己紹介をして頭を下げる。
「ふむ、異世界人?………猫耳人?いや……………あぁ!夢人か」
魅砂を見つめたまま、長らく考えていた氷依がポンと手を叩くとウンと頷く。
直斗は知らない言葉だったが、そのままの意味だろうと思いまっすぐ氷依を見つめるだけ。
魅砂も氷依の言葉の意味は知らなかったようで首を傾げている。
「ようこそ!我がパーティーへ、歓迎する前に幾つか質問と力を拝見したいのだが?」
氷依は座ったままの姿勢で魅砂を見つめ問いかける。
「はっはい!よろしくお願いいたします」
氷依に見つめられ魅砂は慌てて頭を下げる。
直斗はそんな魅砂を不思議そうに見つめる。
(なんか普通だ、まだキャラ作りが定まってないのか?アレはあれで面白かったのに)
そんな事を考えていた直斗の後ろでクスと笑い声が聴こえたので、直斗は反射的に振り向く。もしかして花さんの笑顔が見れるかもと期待した直斗だったが、そこにはいつもの無表情の花さんが立っているだけだった。
それでも十分に綺麗な人なのだが、直斗は花さんな嫌われているらしく怒った表情と無表情な花さんしか見たことがなかった。
「城江さん、志望のどうきは?」
「はっはい!自分の同類の方と思われる人が中庭にいつもいるのを発見しまして……………友達になれたらなと思いました」
「へえ」
氷依の一声を昔の職業面接かよと内心思っていた直斗は対面する氷依に恥ずかしそうに赤面しながら話す魅砂を眺める。
それを聞いて氷依が意味ありげにチラリと直斗を見るが直ぐに魅砂に視線を合わせる。
「直斗に目をつけるとは中々見所がありそうね、それだけで合格でもいいのだけど……………一応、実力も拝見しようかしら」
「?」
言っている意味がわからなかった魅砂は首を傾げる。
それを見た氷依は笑みを浮かべると魅砂に立ち上がるよう促す。
「城江さん。私の攻撃を耐えるか、かわすかしなさい」
「え?」
いきなり物騒な事を言われた魅砂は反応に困り立ち尽くしていると、氷依は皆の見ている前で右手をつき出す。
「白き精剣ミーディアス!」
氷依の声に応えるかのように右手に白い光りが集まり、1本の白く輝く剣が握られる。
儀礼用のような綺麗な剣だ、直斗はこれを数回みさせられたが何度見ても美しいと思う。
刃の長さは30センチ、柄から握りの部分を入れても45センチぐらいだろう、おおよそ実践向きではない剣を氷依は器用に回転させ魅砂に突きつける。
「アイスブレッド!」
氷依がいきなり魅砂に攻撃呪文を唱える。
魅砂に突きつけている剣先が輝くと氷の弾丸が魅砂に向かって放たれた。
「!、シールド」
魅砂は驚きつつも、氷依の剣が輝いた瞬間に防御呪文を唱える。
パシン!と軽い音が部屋の中で響く、魅砂の作り出したシールドに氷の弾丸が当たり弾けて消える。
氷依の口元が薄笑いを浮かべると続けざまに氷の弾丸を放つ。
「アイスブレット!!!!!!」
大小6発の氷の弾丸が再び魅砂に向かう。
「アイアンシールド!」
魅砂の前にあった半透明の盾が鉄色の盾に替わる。
パシュ!と軽い音から段々と盾に当たる氷の弾丸が重い音にかわる。
最後はドゴ!と鈍い音がしたが、魅砂の作り出した盾は見事に氷依の攻撃を防いだ。
「やるわね城江さん、次が最後よ」
そう言うと氷依は剣に力を注ぐ。
直斗の目にもこの部屋で使うべきではない程の力を注ぐ氷依を止めようか迷う。
「お嬢様、それ以上はダメです」
直斗の後から焦った声の花さんが氷依に叫ぶ。
直斗が改めて花さんを見ると彼女の指輪型ギフトから氷依と魅砂を包み込むように風の防御壁が築かれていた。
直斗はこの花さんの風の防御壁のお陰で、騒ぎ起こるほどの音や被害がでていない事を知った。
その花さんが顔色を変えるほどの力を氷依が使うとすればこの部屋も無事ではすまないのかと直斗は直感的にさとる。
氷依は花さんの声など聞こえていないかのように魅砂を真っ直ぐ見つめる。
その顔に挑戦的な笑みが浮かぶのを見て直斗は確信犯だなと判断する、氷依から魅砂に視線を移すと不思議と魅砂の顔には焦りが無かった、静かに氷依の剣を見つめ力を伺う感じにみえる。
「アイスランス!」
突如、氷依が叫ぶとミーディアスからスイカ程の大きさの氷の槍が魅砂に向かって放たれた。
先程の試しと違い、魅砂を殺す気で放たれた攻撃呪文に魅砂はスマホを目の前に構えて静かに呟く。
「アイアンシールド×7」
魅砂の前に多重盾が連なる。
アイスランスに向かい一直線に並んだ盾に攻撃が当たる。
1、2、3、4、とアイスランスが盾を砕く。
5枚目辺りからアイスランスの威力が落ちているのが直斗にもわかった。
5、6、そして7枚目の盾にアイスランスが届いたところでアイスランスが霧散する。
ふぅ、と安心したように息を吐く魅砂。
パチパチ!と手を叩く氷依は笑顔で魅砂を見つめる。
氷依はもちろん魅砂にも怪我はない。
ただ、魅砂の猫耳は砕け散っていたが。
「凄い、凄い。城江さん是非、私の仲間になってください」
笑顔で魅砂に近づいた氷依が魅砂の手をとり興奮気味に言う。
「えっ…………………ハッハイ!」
氷依に言っている意味に魅砂は遅れながらも理解するとコクコクと頷き返事をかえす。
子供のようにキラキラと笑顔で喜ぶ氷依と戸惑いながらも笑顔を浮かべる魅砂を見つめ直斗はやれやれと頭を振り安堵する。
部屋を破壊して学園で騒ぎになるのを半ば覚悟をしていたのだが、予想以上に魅砂が優秀だったのが救いだ。
この後、氷依が花さんにコッテリと怒られるぐらい構わないだろうと直斗は喜ぶ氷依を見て思った。
「あっ、あの~」
いまだに手を握り振り回す氷依に魅砂が遠慮がちに聞く。
「ん!なに?」
それでも手を離さない氷依。
魅砂は氷依に直斗、花さんと順に見つめ氷依に問う。
「このパーティーの名前はなんですか?」