城江 魅砂
いつもと同じ放課後。
私のクラスBクラスでは浮いている存在であるとは思っている。
日本人にも異世界人にも距離を取られているのが今の私の立ち位置。
理由はわかっている、この耳のせいだと。
だけど、好きなものはしょうがないじゃない~。
私、魅砂は今年15歳になった。
身長は低いがスタイルは良い方だと思う。
視力が悪く眼鏡をかけているが、気に入っているので治そうとも思わない。
そんなボッチ学生の私にも密かな楽しみもできた。
両親の願いからこの豊穣学園の試験をうけたのだけど、予想以上にあっさりと入学できてしまった。
その為、自分の趣味の時間が削られ仕方なく人気の無い中庭の自然豊かな庭に隠れるように趣味に没頭していたある日、1人の男子学生を見かけた。
最初は気にも止めずに、ただ1人になりたくて中庭に来ているのだろうと思い、すぐ意識からはずした。
しかし、次の日もまた次の日も同じ時間に同じベンチに座りスマホを操作しているのを見て、私は彼も同じではないのかと思うようになり、だんだんと意識するようになった。
豊穣学園は3年制の学校だ、3年後には全員卒業して本格的に各地に狩りに出る。
卒業までの成績によって、選べる隊が決まる。
6~10級までの食糧を確保する部隊。
1~5級までの高水準の食材を確保する部隊。
そして、人気No.1の依頼を受けて食材を狩りに行くハンターにわかれる。
ハンターが何故1番人気なのか、それは自由度が高く報酬が良いことだろう。
それ以上に良い事もあるのだろうが魅砂にはまだ想像ができなかった。
両親の願いのまま豊穣学園にはいったが、孤立する自分と将来の不安感が魅砂を苛む。
そんな中で見つけた、自分に似ている人。
いつか声をかけたいと魅砂は考えるようになったのに時間はかからなかった。
そして今日、魅砂は彼に声をかけようと思い木の影に隠れ彼を待ち伏せした。
深呼吸をして彼が来るのを待つ。
日課の異世界人コスプレの裁縫をそこそこに魅砂は彼が通るであろう道の近くの木の影でドキドキしながら待っていると彼の足音が近づいてくる。
今更ながら魅砂はどう彼に声をかけようか考えていない事に気づいた。
ソワソワしながら木の影にいると彼が通りすぎようとしている、思わず1歩足が進むと片足が躓き目の前の藪の中に突っ込む。
彼がその音に気づき不信に思ったのか、魅砂がいる方へと近づいてくるのがわかった。
魅砂はアワアワと四つん這いで逃げようと藪から出る所で彼と目が合った。
ジーと彼を見つめたが耐えきれなくなりギュッ、と目を瞑る魅砂。
しかし、声がかかる気配がない。
魅砂は恐る恐る目を開ける、ちょうど彼が来た方に木があり魅砂を微妙に隠している。
魅砂は急いで木にかけより彼を見つめる。
彼が魅砂を見つけるのに時間はかからなかった。
お互い見つめ合う奇妙な時間がすぎる、魅砂は予想もしない事に言葉がでない。
そうすると、彼が来た道を帰ろうとするのを魅砂は見た。
「あぁ、待って下さい」
とっさにでた言葉に彼は立ち止まってくれた。
それから魅砂は自分でもよくわからない言葉遣いで彼と会話をした。
なけなしの勇気を振り絞り、彼とメール交換ができた魅砂は彼と別れたそのあと、その場で座り込んでしまったほどだった。
それが今日のお昼の話し。
魅砂は放課後の教室で自分のスマホを凝視する。
そこには昼休みにメアド交換をした光羽 直斗からのメールだった。
魅砂は全身が固まったかのよにスマホを凝視する。
両親以外では数少ない女友達ぐらいしかメールをしない魅砂は自分から声をかけたとはいえ、男性からのメールに少し萎縮してしまった。
(なんでしょ?胸がドキドキします)
クラスの皆さんが何故か騒がしいですが、今は気にしている場合ではないですねと魅砂は震える手で直斗からのメールを見る。
(はぁ、そうですよね。まさかでした。……………………でも、パーティーへのお誘いですか?……………ああ!確かにそんなことを口走った気がします)
はっきり言って魅砂にあの後の記憶は曖昧である。
まさかメル友になれるとは思ってもなかったことに魅砂は有頂天でそれ以外は記憶が曖昧であった。
(会って話しがしたいので、明日の放課後に会いましょうですか………くふふ)
口元がニヤとしてしまう程、魅砂は内心嬉しく思う。
しかし、直ぐに魅砂のテンションが下がる。
(ハッ!どうしよう。パーティーのお誘いということは、光羽君のパーティーのリーダーの人に会うのよね?今の私でいいのかしら?)
魅砂は頭に手をあて、自前の猫耳に触る。しかし、いまさらながら自分の見た目を変えるのには抵抗がある。
それに直ぐにそれができるのなら、今の自分はいないだろうと魅砂は思う。
(やっぱり、このままでいいわ。この私を受け入れてくれないと意味がないもの、はぁ)
あきらめ混じりで、ため息を吐く。
ようやく魅砂は落ち着きを取り戻してきた。
普通に思考も動きだした。
そうしてようやく魅砂はざわめく教室を見渡す。
「あぁ!今日から依頼が受けられるだった。私にはほぼ無関係だと考えていたから忘れていたわ」
そう言うと魅砂はスマホから依頼情報を探り目的の箇所を見つけて中を見る。ランクわけされている依頼内容から最低ランクの依頼を魅砂は見てみる。
数十ある依頼から単独で、できる依頼を検索し魅砂はため息を吐く。
(はぁ、やっぱり攻撃スキルがないと厳しわ~。私、防御とか回復系のスキルしかないし)
魅砂は依頼内容から自身の持つスマホに目をやる。
入学試験の時に数ある携帯機からスマホ型を選び手にもったらスマホが光り合格が決まった。
聞けば相性があり、適正がないとどの学園にも入学はできないとのことだった。
それだけで魅砂にすればラッキーなのだが、携帯機との相性も高かった。
豊穣学園に入学した者には無償で配られる、精霊の贈り物〈エレメントギフト〉と言うらしい。
大抵の人はギフトか携帯機と呼んでいる。
魅砂はギフトと言うと恥ずかしい気持ちになるので携帯機と呼んでいる。
その携帯機の初期設定で魅砂のもつポイントがおもいのほか多かったのだが、スキルが防御と回復のみだった。
その為に人見知りの魅砂は更に他者とのかかわりを避けていった。
もし、魅砂の見た目を気にしないクラスメートがいたら魅砂は貴重な存在だと教えてもらえただろう。
それだけに魅砂にとってもクラスメートにとっても残念な3ヶ月だった。
魅砂は直斗に明日はよろしくお願いしますと返事を返して一息つく、魅砂はいまだ騒がしいクラスメート達には目もくれずに教室から出ると自宅に帰っていった。