白の暴風
直斗の思った通り、見事に午後の授業は遅刻扱いになってしまった。
ちゃんと授業の始まる鐘が鳴る前に教室には着いたのだが、教室の中に入って教壇を見るとニヤリと笑う先生と目が合った。
どうやら自分が教室に戻った最後の1人だったらしい。
理不尽に思えてもこれがこの教室でのルールなので直斗は肩を落としながらも席に着く。
「よし、授業を始めるよ」
直斗が席に着いたの確認して先生が授業を始めた。
シーンと静まり返る教室に先生が黒板に書く音だけが響く。
今の時代、わざわざ黒板に文字を書く必要などない。だけど五堂 茜は古い文化を好んで使う。
まだ3ヶ月しか授業を受けてないが、このクラスの者は身に染みて五堂教師のやり方を教えられた。
「よ~し全員、黒板に注目!この3ヶ月、皆は基礎体力と異世界の知識を私が教えた訳だが、これからは実戦で学んでもらう」
五堂教師の言葉を聞き、幾人かの生徒の表情が変わる。
落ち着きなくソワソワする者や笑みを浮かべる者など様々だ。
そんな中で直斗は面倒くさそうにあくびを甘噛みして眠気と闘う。
本当は寝てしまいたいが、五堂教師のおこしがた半端なくヤバい、授業の初日に眠気に負け寝そうになった時に殺気込みで斬りかかられた。
幸い反射的に身を引いたから助かったが、寝ていた頭の位置に刀が机に突き刺さっていた。
それから直斗は五堂教師に目をつけられたように感じた。
「はい!注目して、この3ヶ月でパーティは組み終わってるはずよね。そのメンバーで最初の依頼を受けなさい」
五堂教師の言葉を聞いて、このクラスでパーティを組んでいる者の視線が交わる。
そんな中で直斗が面倒くさそうに手をあげる。
「なに?直斗君。私の言う意味がわからなかったの?」
こいつ殺す!と五堂教師の目が言っているが、直斗は構わず質問をした。
「いえ。他のクラスにパーティのメンバーがいる場合はどうすれば?」
直斗は聞いておかねば後々やっかい事が自分に降りかかるので面倒でも質問した。
「あぁ、君の場合はそうだね。他の者のいずれはそういう状況になるか………」
意味ありげに納得され、直斗は項垂れる。
「直斗君の質問に答えようか、全員が入学の時に選んだ携帯機には選んだ依頼を誰とやったかを自動的に記録して私の元に情報が転送されるから、心配は無用よ」
直斗は手元のスマホに視線をやる。
入学するときに使いなれた物をただ選んだだけなのだが、かなりの高性能らしい。
他にも時計やら指輪など様々な物があった。
「他に聞きたいことがある人は?」
五堂教師の呼び掛けに直斗に続いて手をあげる人はいなかった。
それに満足して五堂教師が黒板に書かれたレッスン2を読み上げる。
「じゃあ次ね!、依頼を受けたら書かれた内容をよく読んで実行すること。契約違反は厳罰だから!」
厳罰と聞いてあちらこちらからざわめきが聞こえる。
「うるさいよ、厳罰といったらコレしかないでしょ」
と五堂教師は右親指を立てて自分の喉の辺りを斬る仕草をみせた。
それを見て静まるクラスメート、直斗は興味なさそうにスマホを弄る。
「だからリーダーになる人は責任重大よ、馬鹿を選べば一蓮托生だもの。アハハハハハ」
心底、可笑しそうに笑う五堂教師の声が教室に響く。
「そうそう、依頼を選んだら私に報告する必要は無いよ。各自で予定を決めて狩りに行きなさい。結果さえだせば文句はないよ」
「先生」
「ん?何かな委員長」
1番前に座るこのクラスの委員長が手をあげるて五堂教師に質問をする。
「はい、依頼は何処に張り出されているんですか?」
「ああ!依頼は教室の後ろに貼っておくよ直斗君が」
「へ?」
突然指名されて直斗はキョトンと五堂教師を見つめる。
「ば・つ・げ・ー・む!」
明らかに面白がっている五堂教師の顔を苦い表情で見つめる直斗、そこに委員長から声が五堂教師に質問が飛ぶ。
「彼にこれから任せるのですか?」
「ん?なに委員長は不満なの?」
「不満というか……………不公平ではないか………と思うんですけど………」
五堂教師に睨みつけられて、だんだんと声が小さくなる委員長。
「あー!依頼内容を最初に直斗君が見て有利な依頼を彼が選ぶと委員長は言いたいのか」
直斗は五堂教師の声を聞き、勘弁してほしいと心底おもった。やりたくもない事を進んでやる訳がないのだが、他人からしたら直斗の事情など知った事ではないので、わざわざ反論はしないが。
「委員長は体も小さいけど心も小さいのね。なら交代でやりましょ、パーティが何グループかできるでしょから代表が取りに来なさい。依頼は毎週水曜日に更新されるから昼休みに取りに来ること」
五堂教師から小心者の扱いをされた委員長は顔をふせている。
彼女の仲間が心配そうに委員長をみているが授業が終わっていないので近寄ることもできない。
「じゃ次ね!依頼は配られた携帯機に登録されるまではいいわね!登録したらパーティの間で携帯機をリンクして異動、それで異世界にいけるわ」
「先生!依頼は最初に選んだパーティが独占ですか!」
「いいえ、早い者勝ちよ。詳しく言えば止めをさした者の勝ちよ。その判定は携帯機がするから異議は認めない、わかった!」
クラスのほとんどが頷くのを見て満足そうに五堂教師が頷く。
「あっ!言い忘れてたわ、向こうに着いたらあっちの法律に従うように!それも携帯機に入っているからリーダーは目を通しなさい」
「はい!」
返事をしたのを確認して五堂教師が次に向かう。
「じゃあ、これが最後。武器や防具は持ち込みでも、あっちで買ってもいい、ただし向こうで手に入れた物は装備品でも装飾品でも道具類でも1回の依頼で此方に持ち込めるのは1つだけだからよく選びなさい」
「先生、それは1人に1つですか?パーティで1つですか?」
「パーティで1つよ。だからよく相談なさい、貴重なアイテムを手にして喧嘩別れしたパーティが無数にあるから」
「へ~、俺達は大丈夫だよなっ、なっ!」
直斗の後ろの席でそんな声が聞こえ、周りの人が頷く。
五堂教師はそれを冷ややかな目で見ていたのを直斗は見た。
(まぁ、先生の思ってい事はわかる。人間、貴重なアイテムが手に入ったら間違いなく揉める、それが今の自分のランクをあげられる程の物なら尚更)
今、現在の直斗のランクは5級。
6級から下は多少ましな程度だけで大差の扱いだが、5級からはある程度の本人の希望が反映される。
依頼をだせるのは2級からで、自分の理想の生活の要求を出せるのは1級。
この学園にいる人間は2級以上を目指している。
異世界には若返りの薬や不老不死など稀に手にいれるパーティーがいるので、その手の依頼も常に張り出されている。勿論、この学園ではなく他の学園の話しだが。
「ああそうそう、向こうで使う貨幣は円というのは教えたよね、ちゃんとお金を貰えるバイトをしないと向こうではなにもできないから気を付けるようにと、これで今日は終わりかな。直斗はさっき言ったように私の部屋に依頼の紙を取りに来て貼るように、来週からは委員長が決めた人が取りに来て!」
最後にそれだけ告げると五堂教師は教室を出て行く。
直斗は机の上に上半身を投げ出し脱力する。
(やっぱり覚えていたか、罰ゲームなんていつの時代の話しだよ。面倒くさい……………でも……………あの先生に逆らうと後が怖いからなぁ、はぁ~)
直斗が机の上で脱力していると顔に影が差す。
うん?、と直斗が顔を上げると机の横に委員長が無表情で立っている。
「なに?」
「光羽君、早く五堂先生の所にいってくれないかな?」
「あ~、悪い委員長。面倒くさいから変わりに行ってくれてもいいよ?」
何かと思ったら依頼の紙を取りに行けということらしい、直斗が力なく言うと委員長の目がつり上がる。
「私だってそうしたいわよ!だけどあの先生が許すわけないじゃない!」
大声ではないが、迫力のはる声が直斗に降りかかる。
周りで見ていた者も委員長に便乗して直斗を責める。
「おい!光羽!早く行けよ」
「そうよ、あなたみたいな人に私達の未来を邪魔してほしくはいわ!」
クラスの人間の声を受けて、満足そうに微笑む委員長を見て直斗はため息を吐き席を立つ。
「はいはい、行ってくるよ」
直斗は付き合いきれないとばかりに重い足取りで教室を出る。
それは直斗が教室を出て直ぐの事だった。
全ての授業が終わり、後は直斗が持ってくる依頼を見て、今後の方針を決めようと直斗のクラスの全員が教室にいると廊下から叫び声に似た奇声が聞こえてきた。
教室のドアがバタンと大きな音をたてて開く。
「直斗はいるか?」
クラス中が大きな音をさせた人物を見る。
入ってくるなり、直斗の机に向かいドガッ!と机に腰を落とす。
クラス中がその人物を見て驚きの表情をうかべた。まず目についたのは金色の長い髪に意思が強そうな金色の瞳。
それと学年最強のAクラスの生徒の証の白い制服。
直斗はCクラスに配属され5クラスある中で強くもなくされど弱くもない位置にいる。
「ん?聞こえなかったのか、直斗は何処だ?」
シーンと静まりかえり、視線だけを浴びる彼女は?と首を傾げるともう一度まわりの人に聞く。
「はっ、はい。光羽君なら五堂教師の元に行っています」
クラスを代表して委員長が彼女に答える。
「ほう、直斗がなぁ」
彼女は意味ありげに頷くと直斗の机から腰をあげて立ち上がる。
「あの~、光羽君とは知り合いですか?」
ここでの用事がなくなったので、彼女はここから立ち去ろうとすると小柄な少女が話しかけてきた。
怯えも見える少女に相手をする必要があるかと一瞬考える。
彼女は口端だけ笑みを見せて、委員長の問いに答えずに教室を出ようと歩き始めようとした時に彼女の後ろから話し声が聞こえた。
「おい、あいつ北方エリア総督の娘じゃないか?」
「へ!あの混ざりもの」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の金髪が靡いたの同時に後ろにいた男2人が吹き飛ぶ。
「痛ってなぁ、なにするだよ!」
「ひっっ!」
初めはなにがおきたのか理解できずにボーと自分達がいた場所にいる金髪の女を見ていたが、段々となにをされたのか理解すると男の1人が怒りを露に怒鳴る。
それを冷たい眼差しで睨みかえす、その無言の圧力に1人が怯え、もう1人も視線をそらす。
「言いたいことがあるなら、正面から言いなさい。後ろでこそこそとみっともない。あなたたち想像通り私は北方エリア総督の娘、白亜氷依よ」
腰に手をあて、豊かな胸を張り氷依が男2人を見下ろす。
「あっ、あの~困ります。2人が何を言ったかは知りませんが騒ぎ起こさないで下さい、お願いします」
委員長である少女が騒動の中に割ってはいる。
氷依に向かい頭を下げるところから、男がなにを言ったかを聞いていたのだろうと氷依は推察した。
「花!」
突如、氷依が言葉を発する。
「はっ!」
誰もいない空間に女性の声がしてクラス中が驚きを示す中で、氷依の背後から背の高い女性のが現れる。
「花、彼が言った言葉を彼女に聞かせてやって」
後ろを振り返りもせずに氷依は花と呼んだ女性に指示をだす。
花と呼ばれた女性は氷依と同じ制服を着ている。
年齢は彼女の方が上に見えた。
花と呼ばれた女性は内ポケットからなにか機械を取り出すとボタンを押した。
「おい、あいつ北方エリアの総督の娘じゃないか?」
「へ!あの混ざりもの」
花の手にしている機械から、先程の男達の会話が再生されてクラス中に会話の内容が流れる。
吹き飛ばされた男達は顔を下に向け、委員長は目を見開き驚く。
まさか会話が録音されているとは思わなかったよだ。
「で、言いたいことは」
委員長に向かい氷依は冷めた視線を向けた。