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中庭での出会い

2114年、日本は1人の女の手により陥落した。


女は聖日本帝国を宣言して女王となる。


それから、30年は女王を打倒しようと自衛隊や警察組織など多くの組織が女王に挑み全員が死亡した。


また、日本国民の中から女王の統治に反対する者が全国から集まり女王に抗議の声をあげた。


女王は実力主義、聖日本帝国の人口減少を掲げ統治に反対する者や犯罪者など即死刑を実行し、聖日本帝国の人口は前日本の人口の半分までたった30年で減少した。


他国、友国はこの機に乗じて事を起こしたが、謎の障壁が日本の領土全域に張られていて侵入できず介入の機会を逸した。


そして、女王は聖日本帝国を6エリアに分けると自身は東京。残りの5エリアを女王が目をつけた5人の部下に好きに使えと与えた。

女王の強引な政策により聖日本帝国の国力は低下するはずだった。


まず、貨幣の廃止。


次に10段階の身分制度。

これにより衣食住は身分により制限があるが食や住む場所に困る人はいなくなった。


働くことをしなくても良いとなると、人は惰眠を貪る人間へと堕ちる。

その当時は引きこもりする人間が大勢いた。

ただ食う寝るだけならこまらないが酒やタバコ、車や国内旅行などしたい場合は5級以上の身分証が必要になり持っている人はその当時、1割も満たなかった。


次に働く者が少なくなると農業や産業が滞る、そこで女王は自身の秘密の一端を披露することになる。


なんと異世界の住人を聖日本帝国の働き手として招いたのである。

異世界人とどのような契約があったかは知られていないが、これにより多くの問題が解決することになった。


あまりの殺伐とした時代だった為に人は忘れていた。

あの当時、何故に普通の暮らしができていたのかを。

エネルギーに食料、服や電化製品に宝飾品など不足した時などなかったことを。

そして、犯罪などは女王関係以外には殆んど起きなかった事実を。


それは知らなかっただけの話しで裏で女王は異世界人の協力の元、その全てを受注していただけの話しである。

それを女王のもとに集いし才能のある者達に任せた。

殺戮と粛清の時代が終わり、新しい時代が聖日本帝国と共に始まる。


青空の広がる良い天気の下で、直斗はスマホで読む過去の記事をボーと見つめながら、学園の中庭のベンチに座っていた。


昼食も食べ終わり、賑わう教室を逃げるように移動した直斗はお決まりの人気のないこの場所に来るのが日課になっている。


ダルい。なにもしたくない。

そう、思いながらこの15年を生きてきたように思う。


階級により全てが決まる世界になり、300年。

理想の社会になっているはずなのに何故????。

直斗は何処で道を間違えたかをいつもこの場所で考える。

そして、決まって幼馴染みの顔が浮かぶ。


「はぁ~」


直斗はため息を吐きベンチにダラリと横たわる。


(あの女)


自分がこの学園に来るハメになった幼馴染みを心の中で呪う。


(くそ!くそ!くそ!……………はぁ~。戻るか)



直斗はベンチから起き上がり、自然豊かな中庭を見ながら校舎に戻るために歩きだす。


人気のないこの場所は直斗の心のオアシス。

学園に通う日は必ずここで鬱憤を晴らす。


なにをするわけでもなく、ボーと過ごすこの1時間が直斗の心を癒す。

今日も無事に残りの授業を受けられそうだと直斗は思っていた。


ガサガサ!


森のように木々の多い中庭を校舎に帰る為に歩いていると直斗の耳に葉のすれる音が聞こえる、こんな場所に来る物好きは自分か、お節介な幼馴染みの氷依ひよりぐらいで直斗はまた氷依が自分を探しに来たのかと身構えた。


しかし、いくら待っても誰も出てこない?

直斗は???を頭に浮かべながら、音のした方へと進む。


氷依なら奇声をあげながら、自分に向かって飛び蹴りをするような女が隠れていられるわけがないと直斗は思い足を踏み入れる。

できるだけ音のしない歩き方をするのはもはや習慣になりつつある。


さすがに気配まで消すのはやり過ぎなので、直斗は足音だけを注意して音のした辺りを見た。


(誰もいない?)


直斗は誰もいない事を確認して首をかしげる。

鳥か?そう思い直斗は来た道を戻ろうとしたとき、木の影から猫耳を生やした頭を見つけた。


ジィーと直斗を見つめる猫耳は自身が直斗に見つかったと思ってはいないようだ。


(え~と、知らないふりして離れた方が良いのかな?……はぁ~、面倒くさい)


敵意は感じないので直斗は見なかった事にしてこの場所を離れようとした。


「あぁー!待って下さい」


木の影にいる猫耳さんから直斗に向けて切羽つまったような女性の声が辺りに響いた。直斗は歩き出そうとしていた足を止めて、声のする木の方へと顔を向けた。


「あー、そこの幸の薄そうな少年よ。ちょっと頼みがあるんですが」


木から顔だけを出した猫耳の少女が直斗を見つめる……………。


「へっ?続きは?」


「あっ!頼まれてくれるのですか?」


「呼んだのはあなたでしょ」


「まぁ、そうなんですが…………。この姿を見たら大抵の日本人は近寄らないので逆に困惑してしまいました」


直斗は猫耳少女の言葉を聞き納得するように頷いた。


「ああ、異世界人否定派ですか。どうでもいいです、くだらない」


直斗は本当にどうでもいい事だと思っている、日本人の中にはこの状況は全てが異世界人のせいだと考える人が非常に多い、今なお生きている女王が異世界人の力で日本を変えたのを良くおもっていないせいである。300年もたって生きている女王のせいでもあるが、いい加減に今を受け入れろと直斗は言いたいが面倒臭いので、日本人純血主義者の馬鹿達に関わらない事を決めている。

もちろん、その反対の異世界人賛成派にも関わりを持ちたくないなのだが、この時の猫耳の少女に直斗は少しばかりの違和感を感じた。


そんな直斗の胸中をよそに猫耳少女は直斗が自分を見ても逃げないのを見て木の影から出てきた。


「ふぅ、やっとまともに話しをしてくれる人を見つけました…………にゃ」


不自然に語尾に、にゃをつけた少女は小柄で華奢な体格で、肩の辺りで揃えた髪型で色は赤茶色。少しツリ目気味の可愛いらしい子で学園の制服を着ている。


ただ、上級者か同学年かはわからない。そんなこともあり直斗は黙って猫耳少女を見ていると、少女が先に話しかけてきた。


「えっと、私の名前は魅砂 (みしゃ)ですにゃ。城江魅砂です、1年生です」


直斗にペコリと頭を下げる魅砂を見つめ直斗はやれやれと内心でため息をつき、今度は直斗が魅砂に自己紹介をする。


「光羽直斗、あんたと同じ1年。見たところケガをしている感じもしないし……何の用?」


直斗の問いかけに、表情を明るくして魅砂は答える。


「えっとですね、直斗さんは何処かのチームに入っていますか?実は私………どこのチームにも入れなくて………お願いします!直斗さんのチームに入れて下さい!」



切羽つまった魅砂の声を聞きながら直斗はいきなり名前で呼ぶ魅砂を馴れ馴れしい奴と思いながら、どう答えようかと悩む。


この学園に入学させられて半年、未だにチームに入れてもらえないのは致命的だ。

この学園、第2エリア管轄の豊穣学園。


聖日本帝国の上級階級用の食糧を狩る者を育成する機関である。

この学園に所属すれば5級カードの市民権が保証される為、かなりの人数がこの学園に在籍している。

はっきり言って5級以下は食う寝るぐらいしかできず、服装も大量生産品しか貰えない。


もちろん、贅沢をしようと考えなければそれだけで直斗は天国だと思っている。直斗は一生をその生活をしようと幼き日より考えていたのに……………。


直斗は自身の思考が暗く暗部に行くのを感じ、慌てて振り払うように頭を振った。


(危ない、また意識を向こうにやるところだった。あっち行くと2時間は思考の殻に籠るから外だと危ないんだよね)


直斗は改めて魅砂を見る。

小柄で猫耳、この学園には異世界人も通っているので魅砂のような人でも問題なく何処かのチームには入れるはずだが?…………と直斗は内心で不思議に思っていると魅砂の猫耳が少しずれているような感覚を直斗は感じた。

直斗がどう答えるかを不安そうに上目遣いで見ている魅砂の頭の猫耳を無造作に直斗は片耳をつまむと猫耳が持ち上がる。

「あっ!」


魅砂は驚いた声をあげ両手で頭を抑えしゃがみこむ。


………………。


2人の間に流れる無言の静寂。



直斗はクルリと魅砂に背を向ける。

その背中が小刻みに揺れているのを魅砂は見て顔を赤くして下を向く。


(くっくっく、なるほど。魅砂のように異世界人のコスプレ?をしている日本人が少数ながらいるらしい事はネットで知ってはいたが………本物は初めて見た。それなら納得もいく、確かにこの学園では受けが悪いだろうな)


と直斗は思った。

チラリと後ろの魅砂を見ると下を向いて表情はわからないが、恥ずかしんだろうなというのは伝わってくる。

流石にいつまでもここにいるわけにはいかないので直斗は魅砂に提案をする。



「今すぐには返事はできない、リーダーに聞いてみてからでいいか?」


「はっ、はい。よろしくお願いします」


スクっと立ち上がり魅砂は直斗に頭を下げた。

別れ際に直斗と魅砂は連絡がとれるようにメール交換をする、直斗のスマホに4人目のアドレスが登録された。

魅砂はニッコリと微笑み直斗に手を振って2人は別れた。


余計な出来事があり教室に戻る時間がいつもより遅くなった、授業が始まるギリギリには戻れるだろうが先に先生がいたら罰ゲームだなと直斗は思った。


理不尽だがこの学園では先生がクラスのルールを決める、直斗は食糧調達科の為に先生は武闘派の先生で理屈より感覚で考える人である。

その先生が決めたルールで先生より早く席に着くことがある。これを破ると罰ゲームとなり、色々と雑用を押し付けられる。

この雑用をやらせる為に先生が早く教室に来ることもあるので直斗は余裕をもっていつも教室に戻るのだが、今日は運が悪かったと直斗は思った。

その運が悪い流れで当然、直斗は先生より早く教室には戻れずに罰ゲームを言い渡された。


この豊穣学園は異世界に高級食材を狩る為に生徒を育成する機関である。

国民全員が同じ食事では階級が上の者のモチベーションが上がらないという名目で建てられた学園である。

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