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最後の英雄譚2  作者: 陽無陰
第一楽章 それぞれの在り方
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1-1 今後の方針

 シヴァとセレナは、彼らがいつもしているように二人で稽古をしていた。

 観客はフラウとサティの二人のみ。フラウは腹を空かせるであろう二人に昼食を用意して、二人の稽古が終わる時を待った。

 鋭い剣閃が舞い、火花が散る様は暴力的ではあったが、剣を振るう二人の力量もあってか、芸術的な舞を踊っているかのようであった。

 シヴァは単独で戦い抜き、生命を刈ることに特化した殺戮の剣。

 セレナは護衛を前提とした、殺戮の守護剣。

 誰にも頼らず一人で戦い抜く者、そして誰かを背にして戦う者。

異なるようでいて、似通っている二人の剣筋は何処までも澄み渡っており、何処か聖者の様な悟りの境地に至った者の迷いなき剣だった。


 稽古を終え、例の如くフラウに世話をして貰いながら、美味しそうに食事を取るシヴァは、実は味はあまり分かっていなかった。正確に言うならば、フラウ達の作ったもの以外は、味覚はあまり感じないのだ。

 それというのも、彼は旅の途中での毒殺などを防ぐために、幼少の頃から一日三食欠かさず、致死量ギリギリの毒が入った食事を取っていた。

そのせいか、毒には免疫がついたものの、普段摂る食事には味覚を感じることはあまりなかった。

フラウ達が作ったと分かる食事ならば味も分かることから、肉体的なものではなく精神的なものかもしれない。

それは、セレナも同じことだったが。


「兄様、お味はどうですか?」


「美味しいんじゃないか?」


「もう! なんで疑問形なのですか!?」


「比較対象は、フラウが作った食事だけだからな。俺としてはこれ以上答えようがない」


 それを聞いて、フラウとしては複雑なものがあった。自分の味以外を知らない事は独占しているようで嬉しくもあったが、それに至った経緯を知っているとなると悲しくなるのだ。

 彼女はそのような訓練をシヴァほどは受けてはいない。どちらかが無事ならば、彼女達は無事なのだ。だから、一方だけにこの訓練は施された。もっとも、これも彼らを縛る鎖となった事は言うまでもないが。


「ならば、また食べ歩きをしようではないか! シヴァもいつかは味覚が戻るかもしれんし」


 涎を垂らしそうなサティに三人は苦笑を禁じ得なかったが、反対することはなかった。


「褒賞として金銭はいくらか貰っているけど、無駄遣いはどうかと思うわよ?」


「仕方がないではないか! 我らはここのところ観光以外にすることがなくて暇なのだからな」


 サティの言葉の通りであった。ここ一月ばかり、シヴァ達は暇を持て余している。


 シヴァ達は未だにフレイス王国に滞在している。

 というのも、コロニーの攻略が困難だというわけではない。

 規模の方は、西方のコロニーの方が上なのだ。攻略難易度からすれば、南方の方が遥かに容易だった。

それなのに攻略が進まないのは、ひとえにフレイス軍に原因があった。

 フレイス軍は西方の攻略において、壊滅とはいかなくても、穢魔の親玉である厭魔――ジェヴォーダンのせいで相当の被害を被った。

 それ自体は元より無傷では済まないと事前に想定していたので、再編成も然程滞りなく進んだ。

問題となっているのは、フレイス軍の士気だ。

『勇者』のおかげで西方のコロニーは攻略できたものの、厭戦の雰囲気が兵の中で漂っており、南方は全て『勇者』に任せようと、兵士達の中にその思いが蔓延っているのだ。

 それは、西方の攻略に参加した兵達に多い傾向があり、その兵士達のまた聞きで、首都で待機していた兵士達にも蔓延してきているのだ。

 それに頭を痛めた軍上層部は、暫くの間シヴァ達の参戦を封じ、南方は自分達だけで穢魔を間引きするから、厭魔だけは退治してきてほしいと依頼したのだ。

 シヴァ達としてはフレイス軍の思惑などどうでもよかったが、下手に逆らうのは面倒を呼び寄せる事になりかねないので、こうして一月ばかり首都に缶詰めになっている。

 ちなみに、『勇者』のお供であるアタル達は参戦を許可されており、間引き作戦に参加させてもらっているのだ。



「俺としてはさっさと攻略して、次の国へと向かいたいのだがな」


「偶にはよいではないか! こうして時間が空いたのだ。我らにかまうがよい!」


「そうですよ、兄様。私はもっと兄様に甘えたいのですから」


「私としてもこういった時間は貴重だからね」


 シヴァには趣味などない。空いた時間は訓練か、休息にあてる。というか、それしか知らないのだ。

 だから、三人はこうしてシヴァを振り回している。


「さぁ、覚悟するがよい! まだまだこれからだぞ!」


 シヴァの振り回される時間はまだまだ続くのであった。


 ** *


「《炎槍(フレイムランス)》」


 形を成したアタルの炎槍は空を貪り、地を駆ける駆竜種を焼き貫く。

 駆竜種が消滅していくのを確認すると、次の敵を見定める。

 空域を支配している鳥獣種はアーブの矢に撃ち抜かれ、墜落している。


「彼の者に無双なる力を《豪力強壮(パワーブースト)》!」


「よし! 集い、溶解し、形を成せ! 《錬金の理(アルケミー)》」


 レイアはマーテルに強化してもらった腕力で、デュナミスで出した鋼鉄のハンマーを振り回し、屍骨種を纏めて粉砕している。

 レイアは錬金のエイドスに適性があったらしく、それを使っての攻撃手段を増やしている。

 錬金といっても、永続的なものではない。術者の手元から離れてしまえばすぐに霧散してしまうので、一時的な錬金だ。

 故に、錬金のエイドスを操るものは武器の扱いに長けている方が良い。このように鋼鉄のハンマーを出したり、他の武器を自在に出したりできるので、武器の形状変化による攻撃がメインとなっている。

 とはいえ、本当に金属でできている訳ではない。あくまでエイドスが金属の形を取っているだけなので、他のエイドスとぶつかれば武器が小さくなるか、消滅してしまう。

水棲種が地を這うように向かってきているので、アタルはそれを迎撃することにした。

 水棲種はゲル状の人型の様なものをしており、物理攻撃はあまり効果がない。

 故に、エイドスで水棲種の核を攻撃するのが一般的だ。

 下手に接近して攻撃すると、あの中に取り込まれてしまい、溶かされてしまうからだ。

 アタルは貫通力に特化した炎弾を出し、水棲種を消滅させる。

 戦場を確認するように辺りを見渡すと、もう穢魔はいないことが確認できる。


「大丈夫ですか?」


「ああ……ありがとう、助かったよ」


 アタル達は窮地に陥っていた兵士達を助け回る役目を果たしている。

 今回の攻略の趣旨はわかっているので、あまりでしゃばらないようにしているのだ。


「ふう」


 かれこれ、一月ばかりこのような事をしている。

 自分は前に進んでいるのか、不安になる事がある。

 シヴァにああ宣言したものの、どうすれば『勇者』になれるかはわからない。

だから、今は少しでもいいから力をつけている。

 幸い、力をつけるには今の状況は悪くない。

 しかも、兵士達を助ける事がアタル達に課せられた任務の一つになっているので、誰かの助けになっているという実感がある。

 だけど、シヴァに追い付くにはまだ足りない。

 ならば、師であるエリオスにその事を相談してみるのも一つの手か。

 今後の指針を定め、アタルは兵士達を助けるべく、移動を開始した。


  ** *


 エリオスは他の兵士達と共に、厭魔が出てこないかを監視する斥候の任務に就いていた。

 ここの厭魔は西方のコロニーと同種らしいので、対策は練る事が出来るが、実行するには厳しいという意見が出ている。

 通常、厭魔は一定数の穢魔が減り、尚且つコロニーに人間が一定距離まで近づかないと出てこない。

 とはいえ、出てきてしまえば自分達には対処ができないので、こうして監視をし、厭魔が出てくればすぐに退陣できるよう知らせるのがエリオス達の役目だ。

 エリオスは弟子達についてはあまり心配していない。

 ここのところ実力をつけてきており、ここの穢魔程度では後れを取ることはないと判断しているからだ。

 だが、別の所で心配している。

 アタルからシヴァとあった衝突について聞いている。やはりかと思ったが、そういった衝突も弟子達の成長に繋がるので、口を挿むことはしていない。

 だから、そのことで心配しているのではない。

 意識しすぎて、無茶をしないかと心配しているのだ。身近にその目標がいれば、どうしてもその目標と自分を比べてしまい、無茶を行う可能性が出てくる。

 出来れば、そうなる前には相談してきてほしいと思う。

(さて、あいつらはこれからどういう選択をするか……)

 彼らのいう『勇者』になることは難しくはある。

 だが、エリオスに彼らを止める意思はない。それは、彼らが考える事だからだ。


「エリオス殿、交代の時間です」


「ああ、わかった」


 どうやら見張りの交代の時間のようなので、拠点に戻り、一休みする事にしよう。

 そして、彼らの戦闘はどうだったのかを確かめよう。

 エリオスは少し固まった筋肉を解しながら、拠点に戻った。


  ** *


 夜の帳が降り、明日への活力を得るために拠点で身体を休め、夕食を取っていた時、アタルはエリオス達に相談事を話すべく食事の手を止めた。


「先生、僕達の手で厭魔を倒すことはできないのでしょうか?」


 それはアタルが気にしていた事柄。アタルは『勇者』になるためには力が必要だと思っている。その力をつけたという目印が、厭魔の討伐だと目をつけたのだ。


「……実際、厳しいと言わざるを得んな。今回は前回と違い、敵の能力は判明しているため、対策は立てやすい。だが、問題としているのは奴の第二段階に達した時に、弱者である俺達が対抗できるかということだ」


 エリオスが言っているのは、ジェヴォーダンの光の狼の事だ。彼らは、ジェヴォーダンが光の狼を出すまでは善戦していた。

 しかし、光の狼を出されてからは一方的だった。


「それに、奴自身のスピードに俺達が追いつけるかだ。さらに、奴の動きを何とかしたとしても、奴自身の防御力を越えられる攻撃力が必要となる」


 前回止めを刺したのはジャンだが、彼は防御力を無視し、攻撃だけに力を一点させていたからこそ、首を刎ね飛ばす事ができたともエリオスは思っている。彼ほどの実力を兼ね備えた人物が全身全霊を賭してこそ、初めて勝利への道筋が見えるのだ。


「つまり、必要なのは三点。光の狼を何とかすること、動きを止めること、そして攻撃力、以上の三点が必要という事ですか?」


 アーブはエリオスの言葉を要約し、ジェヴォーダンを倒すために必要なものを挙げる。


「ああ、その通りだ」


「皆の力を合わせれば何とかなるのではないですか?」


「そうだな。あたしもそう思う」


 マーテルの言葉にレイアは賛同するが、エリオスは首肯しなかった。


「あくまで、それは上手くいった場合だ」


「でも、先生! やってみなくては分からないと思います!」


「…………」


 エリオスはその言葉に賛成はしていない。『やってみなくては分からない』というのは、愚者の言葉である。戦いに望む場合、勝利への布石のために、情報を集め、お互いの戦力を分析し、勝率が低ければ戦わないのも立派な選択でもある。

 この場合、エリオスの見立てでは、勝率は低いと見立てている。万に一つあるかどうかといったほどだ。だから、本来ならば反対すべきだろう。

 だが、エリオスは反対しなかった。弟子達の成長に必要な事だとも思ったからだ。とはいえ、保険を打つ必要があるとも考えている。


「……わかった。ただし、もしもの時のためにシヴァに待機して貰う。倒せるのは、シヴァが最も可能性が高いからな」


「――わかりました」


 アタルは若干不服な様子ではあったが、エリオスの言うことも尤もだと思ったので、反対はしなかった。

 その後、師から許可を貰えたアタル達は、ジェヴォーダンを倒すべく対策を練り合った。


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