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ハイブリッド デスティニー  作者: iris Gabe
白い肌の踊り子
5/14

5.水の矢

 ジュラは、ドワーフをちらっと一瞥する。

「あれねえ……。してあげられないことはないんだけど、あれすると、うちもすごく疲れちゃうんよね。それに、いくらくれるのかしら?」

「この前と同じ銀貨一枚で……、いや、今度は二枚出す!」

「そうねえ、考えとくわ。いま、うち、忙しいんよ」

「頼むよ。もう我慢ができないんだ。ジュラじゃなければ、おれのあそこは反応しないんだから」

 後ろで会話を盗み聞きしていたメミルとマルスは、思わず顔を見合わせた。

「おい、あれって、なんだ?」

「あれっていったら、あれのことでないでしか?」

「その……、やつがいっていた、おれのあそこって、どこのことだ?」

「おれのあそこ、っていったら、おれのあそこのことではないでしか?」


「馬鹿ねえ。こんなところで、できるわけないでしょ」と、ジュラが軽く突っぱねた。

「それなら、黒猫亭ブラックキャットにいこう。あそこなら、金さえ払えば、お前とたったの二人っきりになれるしな。ふふふっ。なあ、ジュラ、お願いだ!」

 屈強なドワーフは、ジュラの細い肩を両手でムンズッとつかむと、彼女を持ち上げ、強引に身体を自分の方へと向けた。

「ちょっと、なにすんのよ?」

 宙づりになったジュラが、驚いて声を発した。

「つれないぜ、なあ、ジュラ――。

 ほうら、見てみろ。もうおれの立派なものは、お前に興奮しちまって、制御コントロールができねえんだ」

 股間を膨らませた男は、異様な目つきになって、はあはあと気味の悪い息遣いをしている。通行人はみな、彼に恐れをなして、みてみぬふりをしていた。その様子を見かねて、メミルがさっと飛び出した。

「おい、よせよ。嫌がっているじゃないか?」

「あら、メミル?」ジュラは、一瞬、驚きの表情を見せた。

「なんだあ、てめえは?」

 男は、メミルをぐっとにらみつけたが、メミルの異様な迫力にたじろいだ様子で、ジュラをそっと手放した。

「けっ、ヒュームの分際で……。

 じゃあな、ジュラ。今度会った時は、きっとだぜ」

 ひとこと捨て台詞を残すと、男は、すごすごと逃げるように去っていった。


 ジュラは、平然として、答えた。

「ちょうどよかった。うち、あんたを探していたんよ」

「お前、大丈夫か? かなり乱暴につかまれていたようだけど」

「えっ、ディロスちゃんのこと?

 あはは、大丈夫よ。ああ見えて、のみの心臓なんだから」

 ジュラは、楽しそうに笑っている。

「あのげす野郎は、その――、お前になにを強要していたんだ?」

 メミルは、下をうつむきながらも、思い切って訊ねてみた。

「なによ、気になるの? あらー、そうなんだ?」

 ジュラはくすくすと笑いだした。

「話したくなければ、別にいいんだが……」

「ディロスちゃんが自慰行為マスターベーションするのを、逝っちゃうとこまで、じーっと眺めていてあげるのよ」

 素っ気ない口調で、ジュラが答えた。メミルは目を丸くしていった。

「わけがわかんないな。そんなことしてもらって、その――、なにか嬉しいのか?」

「うちの場合は、普通の娘とは違って、リップサービス付きだからね。ふふっ、特別なんよ」

 そういうと、ジュラはメミルの耳元に顔をふっと近づけてきた。彼女のかすかな息遣いが、可愛らしく膨らんだくちびるを通して、ゆっくりと鼓膜に伝わってくる。

「頃合いを見計らってねえ……、こういってあげるの。

『なに汚いものしごいて、喜んでやがるんだよ。このブタ野郎!』――ってね」

 メミルは、しばらくの間、放心状態になっていた。


「ところで、メミル。あんたにピッタリのお仕事があるの。とにかく、ついて来て」

 ジュラは、恋人のようにメミルの右腕を両手でつかむと、嬉しそうにメミルをひっぱっていこうとした。そこへマルスが、すーっとわり込んで来て、かぶっていたフードを取ると、両手を組み直して、頭をぺこりと下げた。

「これは、はじめましてでし」

「誰、こいつ?」

 ジュラの眉が吊り上った。

「ああ、たったいま、知り合いになったばかりのマルスだ。どうやら、魔法使いの見習いらしい」

 メミルが慌てて紹介をした。

「ふーん。魔法使いねえ。じゃあ、なんか魔法見せてよ」

「手品とは違うでしけどな。まあ、美人のお嬢さんのたっての願いとあらば……」

 そういうと、マルスは、後ろに立っている小さなマロニエの木に向かって、指を差し向けた。

「ヴェロス・トウ・ネロウ!」

 マルスの指先から勢いよく水が噴き出して、一番細い枝を、見事に射抜いた。落ちた枝を拾ったジュラが、目を丸くしてはしゃいでいる。

「うわあ、すごい、すごい。切れ目が、こんなにすべすべしてるよ。すごい威力の手品だね?」

「だから、手品じゃなくて、魔法でしって」

「ねね、もう一回やってよ。次はあの枝」

「ええ? あれでしか? ちょっと太過ぎやしないでしかね。あまりみせものじゃないでしが……」

「なによ。どうせ、さっきのはまぐれで当たっただけなんでしょ? うちの信頼を得るためには、もう一度、正確に枝を落としてもらわんとね」

「そうでしか? わかったでし。ならば、今度はフルパワーでいくでし――。

 ヴェロス・トウ・ネロウ!」

 今度は、先ほどとの比ではなかった。発射された棒のような水の固まりが、太い枝を見事に吹っ飛ばした。

「うわあ。面白ーい。あんた、なかなかやるじゃない。あら? マルス。どうしたの?」

 気が付くと、マルスはうつぶせになって倒れていた。その身体からは憔悴しょうすいしきったかのように、湯気が立ちのぼっていた。

「おい、大丈夫か?」

 メミルが駆けつけて、抱き起すと、マルスは苦しそうにいった。

「いまので力尽きたでし。なにか食べ物、いただけないでしか?」

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