時には諦めも肝心
今回は一応戦闘描写がありますが……
「ハッ!ハッ!ハッ!」
僕は屋敷から盗み出した壺を脇に抱えて
街の中を走っていた。
「逃がすなっ!回り込め!」
「っとにしつこいな!」
後ろから兵士が追ってくる。
僕は走る速度を上げて、一気に距離を離した。
(クソッ!まさか僕がこんな無様な目に遭うなんて!!)
今回は完璧だった。
誰にも見付かることなく壺を手に入れることが出来たし、
ミスは一つも無かった。
……そう思ってたのがそもそもの間違いだった。
最初から全部仕組まれていた。
注意していれば気づけたはずなんだ。
それなのに僕はっ!
「見付けたぞ盗賊め!このカーメル・ナディルが
貴様を捕らえて--」
「邪魔!」
「オブッ!?」
「「「た、隊長ぉぉぉぉ!?」」」
目の前に立ち塞がったおじさんを
膝蹴りで気絶させて、周りの兵士が動揺してる間に
一気に駆け抜ける。
なんか言ってた気がするけど……
ま、気のせいでしょ。
「ここを抜ければ……」
僕は走り続けて広場に辿り着いていた。
この広場を抜ければ、街から出られるはず……
もう少しで逃げ切れる。
そう思った時だった。
「そこまでだ」
「……!!」
格好いい顔をしたお兄さんが、僕の前に立ち塞がった。
うわぁ……すごい強そう……
「え~っとなにか用かな?色男さん?」
「言わずとも分かっているだろう?
大人しく壺を渡し、渡しに捕まってもらおう」
色男さんが剣を抜きこっちに向けてきた。
やっぱり見逃してはくれなさそうだ。
僕、荒事って苦手なんだけどなぁ……
僕は溜め息をつきながら、脇に抱えている
壺を地面に下ろし、背中に背負っている
刃が錆びてしまっている大鎌を構えた。
「抵抗するつもりか?」
「まぁ、こっちにも意地があるからさ。
悪いけど……倒させてもらうよ!!」
そう言った瞬間、僕は色男さんに向かって駆け出した。
それに反応して色男さんが剣を振るってくる。
僕はそれを跳んで避け、そのまま大鎌を振り下ろした。
色男さんは難なく大鎌を防いだ。
「ありゃ?防がれちった」
「この程度、誰でも防げる。……手を抜くのは止めろ」
いや、ぜんぜん手なんて抜いてないんだけど……
やっぱり僕じゃ相手にならないか。
僕は後ろに跳んで距離を取る。
そして色男さんに向けて笑みを浮かべて--
「こーさん♪」
そう言って大鎌を投げ捨てて、両手を上げた。
「……なに?」
色男さんが困惑した表情を浮かべる。
「だから降参だってば。どうやっても
勝ち目がないんだもん」
そう言って地面に座る。
「さぁ!煮るなり焼くなり好きにしろぃ!」
「……」
「ん?どうしたの?早く捕まえなよ」
「あ、あぁ……」
色男さんが微妙な顔をしながら歩み寄ってきた。
どうしたんだろ?
私には彼女の考えが理解できない。
何故こうも簡単に抵抗を止める?
捕まってしまえば、待っているのは死だというのに……
彼女は生きたくないのか?
駄目だ、やはり理解できない。
彼女は、一体……
貴族や豪商から数々の財宝や金品を盗んだ
今話題の盗賊(本人は義賊だと言い張っていたが)
リオニールが捕らえられたことは、シャルニア王国
全土に広がり、彼女が獣人であることも
知られることとなった。
リオニールはあまり強くありません。
全力を出したらもう少しましになりますが……