クルツ死す
まさかの展開、どうしてこうなった……
僕は隠し通路を歩いている。
王族専用って言われるだけあって、所々に
豪華な装飾が施されていた。
当然僕はそれを回収しながら
奥へ進んでるんだけど……
「お、重い……」
……欲張りすぎちゃった。
重くて全然前に進めないよ……
お宝を捨てれば問題は無いんだけど、
勿体無くて捨てられない。
……どうしよう?
「……」
リオニールを逃がした後、私は石像に寄りかかり
地面に座っていた。
私が裏切ったことに気付くのに
それほど時間はかかるまい。
それまでの間、少しでも身体を休めておきたかった。
リオニール。あいつは、私がかつて愛し合っていたが
数年前に生き別れてしまった女性、フェリシアと
よく似た容姿と雰囲気を持っていた。
最も内面は欠片も似ていなかったが……
それでもそんなリオニールと話していると、
フェリシアと話しているような穏やかな
それでいて懐かしい気分になることが出来た。
だからこそ公開処刑が決まった時、私は決意した。
フェリシア似たこの少女を死なせはしないと……
もっとも、リオニールが私達を気絶させて
脱走した時点で、私の決意は無駄になってしまったが。
自分が無様に気絶させられたことを
思い出し、苦笑いする。
その時複数の足音が聞こえてきた。
「……来たか」
私は隣に立て掛けてある剣を取り、立ち上がった。
その直後、兵士達が私を取り囲む。
そして壮年の男が前に出てきた。
カーメル・ナディル。
私の上司で、守衛部隊の隊長である。
「何故だ……何故罪人を逃がすような真似をした!?
国の……王への裏切りは死に繋がることを
知らぬわけではあるまい!?」
「……」
知らぬわけがない。
何度も目の前で王を裏切った者の末路は見てきたのだ。
だが……
「今からならまだ間に合うかもしれん!!
直ぐに奴の追跡を--」
「断る。私はあいつを追うつもりはない」
「クルツ!!」
「先輩!」
隊長が声を荒げた瞬間、ライザーが
話に割り込んできた。
「何であんな奴に手を貸したんですか!?
あいつは獣人ですよ!?」
「……何故獣人には手を貸してはいけないんだ?」
「奴等が俺達人類の敵だからですよ!」
「何故獣人が……異種族の民が人類の敵なんだ?
数年前までは互いに争うことなく
共存出来ていたではないか」
「それは……国王陛下がそう定められたから……」
「そうだ。アリセリイウス六世が異種族の民は
人類の敵と定めて異種族殲滅令を発令し、
異種族の民を大量に虐殺した。
……彼等が我々人間を信頼してくれていたにも
関わらず、我々はその信頼を裏切ったのだ」
彼等には虐げられる理由は無い。
にも関わらず、アリセリイウスは
異種族の民を虐げ、虐殺した。
そして……私もフェリシアとの仲を
引き裂かれてしまった。
「アリセリイウスが言ったことは全て正しいのか?
先に裏切ったのは我々人間だと言うのに
自分達が正義だと言うことが出来るのか?」
「……それでも罪人を逃がして
良い理由にはなりません!」
「だが、あいつのおかげで
多くの人間が命を救われていることもまた事実だ」
我が国の民は軍拡による重税によって苦しんでいる。
中には税を払うことが出来ず、
死んでしまう者も居る。
リオニールはそんな者達に金をやったり、
安全な住み家を提供しているらしい。
おかげで民衆からはヒーローのような
扱いを受けているようだ。
重税で何時死ぬことになるか分からないからな。
少しでも心の支えになる物が欲しいのだろう。
「確かにリオニールは罪人だ。
法に則り、直ぐにでも裁かれねばならぬだろう。
だが、あいつの存在は民衆にとってかなり大きい。
もしリオニールが処刑されるようなことがあれば、
心の支えを失った民衆は暴徒と化すぞ」
「そんなことが「だからどうした?」え?」
その瞬間、風の切る音が聞こえ、私の心臓に
深々と槍が突き刺さった。
私は歯を食い縛って痛みを堪え、後ろに倒れそうになる
身体を脚で踏ん張って耐える。
だが、耐えきれずにたたらを踏み、地面に膝を突く。
そして大量の血を吐き出した。
「ガハァ!?ゲフッゴフッ!!」
「刃向かってくるなら力で押さえ込めば良い。
そうすることで民衆は我に刃向かう無意味さを
思い知り、再び我に頭を垂れて服従を誓う」
ガシャリと漆黒の鎧を鳴らしながら、
かなり大柄な男が現れた。
アリセリイウス・アースカルダ・スウェンヒルド・
トランバーダ六世。
我が国の王であり、異種族の民の
虐殺を指示した男だ。
「裏切る者居らば、直ぐに殺せと命じたはず……
一体何をしている?」
「へ、陛下!?何故このような場所へ?」
「貴様らがいつまでもグズグズしておるから、
我自らが裏切り者を裁きに来たのよ」
「アリセリイウス……」
「我を裏切る者など、我が国には不要……
ましてや貴様のように汚らわしき異種族の者共に
与する者など、存在することすら許されん」
アリセリイウスは酷く冷めた目で私を見下し、
鞘から剣を抜いて首筋に突き付けた。
「……」
「ほぅ……我に剣を向けられて動じぬか……
死ぬ覚悟が出来たようだな」
「まさか……私はまだ死ぬつもりはない!!」
無理矢理笑みを浮かべ、心臓に刺さった槍を掴む。
そして--
「ヌァァァァ!!!」
咆哮を上げ、槍を思い切り引き抜いた。
胸から血が噴き出すが、構うことなく
アリセリイウスへ突き出す。
「フン……」
アリセリイウスは難なく槍を掴み、投げ捨てる。
それを想定していた私は残っている
地面に落とした剣を掴み、
全ての力を使って立ち上がり、斬りかかる。
だが、その一撃も剣によって防がれてしまった。
「あくまで我に刃向かうか。……愚かな!」
アリセリイウスが私の剣を弾き飛ばす。
そして--
「死ぬが良い!!」
その言葉と共に、私の身体は剣に斬り裂かれた。
私は重力に従い、仰向けに地面に倒れる。
身体を起こそうと全身に力を込めるが、
身体はピクリとも動かない。
どうやら身体に限界が来たようだ。
心臓を突き刺されてこれだけ動くことが
出来たのは奇跡と言っても過言ではないだろう。
「我を裏切った己の愚かさを呪いながら死ぬが良い」
アリセリイウスの言葉を最後に視界が暗くなり、
意識が遠退いていく。
そして……私は永遠に意識を手放した。
当初はクルツは死ぬ予定はなかったんです。
主人公のようにカッコ良く活躍していく筈だったんですが、
書いていく内に殺されることに……どうしてこうなった?