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#08 窘めてみよう



「おい、シカトかよ、いいからこっち向けって、大体お前みたいにビクビクしてる奴に限って淫乱なんだよな」


 そう言いつつ、私たちを囲みこむように近づいてくる男たち、その内の一人がその汚い手で蓮の細腕を掴もうとし、


「い、いやっ!」


「はいっ、捕ま゛ぇ゛ッ!!――」


 ドサリ、その手は空を掴み、男はそのまま地面に崩れ落ちた。



 私は怒っていた。

最初は話し合いで解決しようとも思ったが、何しろ口を挟む暇もない。

あまつさえ私だけならともかく蓮をおとしめるような言葉をペラペラと。


 だから男の一人が蓮に触ろうと手を伸ばしたとき、私が前もって地面に転がしておいた弾丸(ビー玉)をその男のあごを目がけ思いっきり直撃させたとしても仕方のないことだろう。


 それにしても、顎って本当に急所なんだ。

あの人、操り人形みたいに崩れ落ちたけどまさか死んでないよね。


「お、おい、大丈夫か!?」


「き、気を失ってる……」


 男のお仲間さんたちが突然のことにざわざわと騒ぎ始める。

良かった、死んでないっぽい。

だったらこれくらいの力加減で大丈夫か。


「てめ! 何しやがった!?」


「さぁ……なんだろう、ねっ!」


 更に一発、また一発と、仕掛けた爆弾(ビー玉)を次々に起爆させていく。

その度に皆同じように自分の股間を押さえ悶絶。

急所は何も顎だけではないのだ。


更には、今回は相手が人間である以上弾丸(ビー玉)も使い回しが効くため、私の魔力が尽きるまでは永遠と続けられる。

ワンコが異常に硬かっただけで、人間ぐらいだったらビー玉でも十分な致命傷は与えられるのだ。


「ちょ、何だこれ──おぅっ!!」


「は? は? なに!? どうなってん──のぉほぅ!!」


「お、おま、お前──んぅっ!! ここぉぉ……お、俺、二発目……」


「死ぬ、死ぬぅ!」


「ふふふ、ねぇどうする? 素直に謝るんだったら、再起不能にだけはしないであげてもいっかな~と思ってるんだけど。正直、生きるか死ぬかの戦闘の後だとあんたらなんて児戯にも等しいし」


 ある物は地をのた打ち回り、またある物はピョンピョンと不恰好に飛び跳ねている。

皆共通して股間をしっかりと押さえているものだから面白い。

ふと、蓮のほうを見てみると急に奇妙な行動をしだした男達を呆然とした顔で眺めていた。


「く、誰がてめぇに!」


「えいっ」


「んほぅっ!!」



「すみませんでしたっ!!」


 数分後、そこには土下座して謝る不良どもがずらりと陳列した姿があった。

私はそいつらを見下ろすように仁王立ちし、上から不良どもを見下ろしている。

蓮も私の手を握り、恐る恐るひれ伏す不良をうかがっている。


「もうしない?」


「はい、誓ってもうこんなことはしませんっ!!」


「じゃあ、とりあえず蓮に謝って」


「蓮さんっ! 本当にすみませんでしたっ!!」


「ふぇっ? あ、あの……」


「残念……許してもらえないみたい」


 私が再度ビー玉をちらつかせると男達が一斉に青ざめる。


「そ、そんなっ!? ねえさん!」


「姐さん言うなっ!」


「ヒイィィッ!!」


「わー! 凛音ちゃん、もうええよっ、うちはもう気にしてへんよっ?!」


「……そう、分かった、蓮がそう言うならもうしない……良かったね? 蓮の心が広くて。感謝しときなさい」


「蓮さんッ!! ほんっとうにありがとうございましたーーっ!!!」


「あんたらの変わり身の速さにはいっそ感心するわ」


「ありがとうございますっ! 自分ら、強きにおもねり弱きをくじくを信条にしてるッスから!」


「褒めてないから。あと最低ね」


「ありがとうございますっ!!」


「だから、褒めてないっての、なに? ふざけてんの?」


「ヒイィィッ!!」


「ワンパターンか!」


「凛音ちゃんっ落ち着いて!」


 はっ!

いかんいかん、なんかこいつらの雰囲気に乗せられてたわ。


「ごほん、あー、それで? 本当に反省してる?」


「反省してますっ!!」


「そっか……ところでここにあったはずの果物の缶詰なんだけど、どこにあるか知らない?」


「し、知りま──」


「チラリ」


「よく存じ上げておりますっ!」


「だよね。で? あんたら豆嫌いなの? まだいっぱい残ってるけど」


「いえっ! 後で食べようと残しておいただけですっ!! 自分ら、好きなものは最後に取っておく感じッスから。豆、大好きッス!」


「そ。だったら他のものは私たちが貰ってもかまわないよね?」


「どうぞ、好きなだけお持ちくださいっ!!」


 ……はぁ。

まぁ、このくらいで許してやるとするか。

なんか、もうめんどくさいし。


「分かった、じゃあもう顔上げていいよ」


「姐さ──凛姐りんねえさんっ!!」


「だから、誰が姐さんか……まぁいいや、ほら、早く立ちなさい。もう何もしないから」


「────」


「ちょっと聞いてんの?」


「──へ!? あ、いえ……もうちょっとだけこうしていたいかなぁと」


「なに? 足でもしびれれてるの?」


「いえ、その──」


 何こいつら、そんなに土下座が好きなわけ?

さっきからもぞもぞしてるし、挙動不審だし。


と、なんとなく不良たちの視線を追った先には、膝丈のスカートからすらりと伸びた蓮の綺麗な足があった。

スカートはスリット状に破れており、それを一層なまめかしく見せている。

そして不良たちの視点からはその中まで、見えて──。


「キャッ!」


 私よりも、一瞬先に不良たちの視線に気づいた蓮が顔を真っ赤にしてスカートを押さえ、私の背中にしがみついた。

私は自分のこめかみがピクリと動くのを感じる。


「はぁ……全く反省してないみたいだね……お姉さん残念だよ……」


 にっこりと笑いかける。


「ヒイィィッ!! いや、違うんです!! これは、そのっ」


「これは? 何かな?」


「蓮さん!!」


「ふぇ、は、はい……」


「ありがとうございましたっ!!」


 その後、数十分にわたって、彼らの絶叫が響き渡った。

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