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#07 食料を調達しよう


 彼女の名前は白水しらみずれんというらしい。

いい名前だねと言ったら照れながら笑ってた。



「り、凛音ちゃん……」


「ん、どうしたの? 蓮」


 互いに自己紹介をしてからは私たちは名前で呼び合うことになった。

というのも、当初私が白水さんと呼んだときに、彼女自身から名前で呼んでほしいと頼まれたのだ。

それで、だったらということで、私のことも名前でいいよ。と言ったわけだ。

最初は、せんぱいを名前で呼ぶなんて無理ですよ、と言っていたのだが私が懇願すると折れてくれた。


凛音さんとか凛さんとか候補としてはあったのだが、前者はどこか固すぎるし、後者は、なんだか、薬品みたいだし。

なのでいっそのことちゃん付けをしてもらうことにした。

これはこれで新鮮味があっていい感じだ。

まだ私の名前を呼ぶときに少し言葉に詰まるのだが、それはそれでいい感じだ。


「や、やっぱり、あかんよ……」


「大丈夫、大丈夫、ちゃんとお金は払うから」


「せやけど……」


 それと蓮の口調だが、別に私が京都弁萌えなわけではない。いや、否定はしないが強要してるとかじゃない。

私が、せっかくだし敬語も外してみて? とお願いした時必要以上にもごもごとしていたため、なんで? と聞いてみたら、京都育ちなので方言が恥ずかしいとのこと。

京都弁のことでよくない思い出があるのだろうか、少し陰のある笑顔で笑っていた。

なので、蓮の頭をなでなでしながら、話しやすい口調でいいんだよ。と優しく笑いかけながら言ってみた。

決してただ撫でてみたかったからじゃない。

「凛音ちゃん……ありがとぉな」と、少し涙目で言う蓮に理性がちょっと危なかったのは秘密だ。



 ちなみに私は現在、お店にある長持ちしそうな食料を黙々と袋に詰めているところだ。

ワンコと戦った場所から歩いて約二十分程のところにあるそれなりに大きなショッピングモール、その食料品売り場に私たちはいた。電気が止まっているため全体的に薄暗く、やっぱり人の姿も見えない。


道中、何度かバケモノのたぐいに遭遇しそうになったが、なんとか襲われることなくここまでたどり着いた。

電柱におしっこをしていた、私が戦ったやつよりも一回り大きいワンコと目が合ったときは心臓が止まるかとも思ったが、出すものを出すと私たちのことを無視してどこかへ歩いていった。


「え~と、缶詰、缶詰、うわぁ全然ない」


 チョコ類、カップメン類、缶詰類など、日持ちのしそうな食べ物を探しているのだが、なかなか収穫がない。

多分私と同じような考えの人が他にも大勢いたのだろう。

しかし缶詰コーナーに関しては、それなりに残っているほうだった。


え~と、どれどれ。


ひよこ豆、インゲン豆、ソラマメ……お、ミックスビーズってのもある、あ、こっちはグリーンピースだ。


……。


「凛音ちゃん、こ、これはどうやろ」


 私が落ち込んでいると、蓮が私を心配そうに見ながら、缶詰を一つ持ってきた。


──もも缶だった。


「蓮っ!」


 力の限り抱きしめる。


「わ! えっと、だめやった? そこに落ちてたんやけど……」


「ううん最高! 偉い! 可愛い! 結婚しよう!」


「り、凛音ちゃんっ、女の子同士で結婚はできひんよ!?」


 そうやって蓮とじゃれ合っていたとき、ふと私は背後になにかの気配を感じた。

蓮を守るようにして、戦闘態勢を整える。


「だれ!?」


 私はポケットに手を突っ込み、弾丸(ビー玉)を握り締めながら空虚な空間に向かって叫んだ。

すると、ガサリと音をたて、一人の男が姿を表したかと思うと、それに続いて男の仲間と思わしき連中が続々と現れる。

皆一様にいやらしい笑みを浮かべており、何を考えているのかは大体想像がついた。


「り、凛音、ちゃん」


 怯えた蓮が私の背中にぎゅっと抱きついてくる。

が、残念なことに喜んでいる暇はなさそうだ。

男達が口々に言う。


「やべマジ上玉じゃん」


「つか怯えてんし、かぁーわいーー!」


「ぎゃははははっ!!ばーか! お前の顔がこえーからだろ!!」


「そこの君、隠れてないでお兄さん達といいことしない?」


「なに? お前ああいうの趣味だっけ? 俺的には手前なんだけど」


「まー、ぶっちゃけ、やれればだれでもいいってゆーか?」


「ブスには全く容赦しないくせしてよく言うよな!」


 


 あー、これは私が最も係わり合いになりたくない類の人種だわ。


なんだ、この見るからに不良です。みたいな格好と口調。

もうちょっと個性だしていこうとか思わないのかな、毎回不思議に思うんだけどさ。


 私は左手を蓮の震える手に伸ばし安心させるように握り締める。

小声で大丈夫だからと囁き、男達を睨みつけた。


「私たちに何か用?」


 感情を殺し、できるだけ相手を刺激しないような言葉を選ぶ。

こういう手合いは下手なことを言うと意味なく逆上する。

穏便に済むのならそれが一番なのだ。


「おい、聞いたかっ?! 何か用? だとよ!」


「おいおーい? そりゃ俺たちのセリフじゃね?」


「そーそー、つか何勝手に俺たちのもん持ち出そうとしてるわけ?」


 む、言葉を間違えたか。

「私たちに何かごようかしら」のほうが淑女っぽくてよかったかな? いや関係ないか。

私が思案していると、


「おい、聞いてんのか!? いいから盗ったモン出せって言ってんの!」


「ばかお前、あんま怖がらせんなよ、ただでさえ顔こえーんだから」


「いーんだよ、どうせこのあとで散々悦ぶことになるんだから」


 あ~、いかん、頭が痛くなってきた。

こう、何人かに次々と話されると頭が混乱するんだよね。

言ってることは意味不明だし、誰かが代表して喋ってくれれば楽なのに……。


そう考えていると男達は何を勘違いしたのか声を上げて笑い、内一人がにやりと品のない笑みを浮かべて言う。


「くくく、気丈な女もこう言うと大抵あんたみたいな反応すんだよね」


「ベッドの上じゃ、いい声で啼くくせにな」


「俺たち結構良心的なんだぜ? 身体で払ってくれれば万引きも見逃すっていってんだよ?」


「だからお前、AVの見すぎだっつの! ぎゃははははっ!」


「おーい! 後ろのねーちゃんも隠れてないでちゃんと顔見せてみろよ」


 ふるふると震えていた蓮の身体がビクリとして、私の手を握る力が一層強くなった。

多分、一度見捨てられたことで大きなトラウマが出来ているんだろうと思う。


あー、こいつら早く消えてくれないかな……。


ダメだ、イライラしてきた。

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