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#05 ご褒美を堪能しよう

 私が苦し紛れに放った弾幕は螺旋軌道を描きながらワンコに襲い掛かる。


ドドドドドドドッ!! と、鈍く重い音の連続。ワンコの表情が歪んだ。

そして、その内の一発がワンコの左目に命中する。


「ガアアァ!!」


 やった! そう思ったその時、苦しみにもがくワンコの前足が私に振り下ろされ、その爪が私の太股をザックリと切り裂いた。

ぷしゃっ、と鮮血が舞う。


綺麗だな。

最初は自分の太股から吹き出る血しぶきをまるで人事のように観察していたが、時間がたつごとに患部が熱を持ってくるのを感じた。

そして数秒後、それを自覚する。

今まで感じたこともない、常に身体を何かでえぐられ続けているような激痛が私を襲った。


「あ゛あ゛ぁーー! ぐぅ、い、いた……」


 私は激痛に耐えながら、目の前で暴れるワンコから距離を取ろうとするが、切り裂かれた左足が言うことを聞いてくれない。

切り裂かれた左太股を見るとパックリと皮膚が捲くれ、ピンク色の肉が見え隠れしている。

出血もひどいし、このままでは血の流しすぎで死ぬ!


私は無作為に振り下ろされる凶刃を地を転がるようにして避ける。

動くたびに感じる激痛を我慢しなんとか反撃しようと、転がっている小石類を魔法でぶつけようとするも、集中力が散漫になり上手く操ることができない。

やけくそ気味にワンコに放った小石類はほとんどが意図した方向とは違う方へと進み、ワンコのほうは当たろうが、当たるまいが関係ないとばかりに私に迫ってくる。


「もう! しつこい!」


 背負っていたショルダーバッグをワンコへ投げつけるも、中身を散らばらせるのみでただワンコを興奮させただけのようだった。

ワンコの怒り狂った攻撃が続く。


いくらワンコが痛みに錯乱していて攻撃が単調だったとしても、足に怪我を負った私では避け続けるのにも限界がある。

四撃目を避けた時には私の体力は限界に来ていた。

そして五撃目、私の頭を喰いちぎる気なのか開かれたあぎと、そして凶暴に尖った牙が私に襲い掛かってきた。

左足の激痛に朦朧としながらも、私は起死回生の一撃を放つため周囲の武器になりそうな物を探した。


ゴロンッ。


と、私の目に最初に飛び込んできたのは、鈍い光を発して輝く野球ボール程の大きさの石。

あぁ、そういえばこれも持ってきたんだった。

おそらく、先ほどショルダーバッグを投げつけたときに中からこぼれ落ちたのだろう。

私は、フッと笑みを浮かべる。


「……頼むよ?」


 薄れゆく意識の中で放ったその石は眩しい輝きと共に私の手を離れるやいなや、ワンコの身体を一直線に食い破った。

混濁する意識の中でその様子を見届ける。

そして、プツリと意識が途切れた。



「──んぱい──きてください」


 身体を揺さぶられる。

深い眠りにいざなうような優しい振動。


「──なないでください」


 ああ、やけに心地のいい感触だ。

それになんだかいいにおいが……。

あ、そういえば私死んだんだっけ。

だったらこのかわいい声は天使かな──。




「せ、んぱいっ! めぇ、あげてぐだ、ください!」


 と、女の子の悲痛な泣き声と共に、私の意識が完全に覚醒する。


まず目に飛び込んできたのは、適度な大きさに膨らんだ世界で最も美しい双丘そうきゅう

どうやら私は女の子に抱きかかえられているようで、ほとんど顔を胸にうずめている状況らしかった。

彼女はまだ私が目を覚ましたことに気づいていないようで、私をぎゅっと抱きしめながらすすり泣いている。


なので、仕方が無いのでもっとこの状況を堪能することにしようと思う。


顔を、柔らかくいいにおいのする胸へとうずめる。

クンクン、あ~幸せ。

ほお擦りほお擦り、と。


「ん……ぁ、せ、んぱい?」


 スンスン、スンスン。

あ~、たまらん、ずっとこうしてたい。

もう私は絶対離れないぞ。

そうだ、これは対価だ。私がんばったし、少しくらいご褒美あってもいいよね。

うん、これは神様からの私へのご褒美に違いない。


は~、柔らかくて気持ちいいなー。

モミモミ。


「ぁっ、んぁ、ゃ、ん……せ、んぱぁぃ」


 うりゃ、更にほお擦りほお擦り。ぐへへ。


「ぁ……せん、ぱい、ゃあ、ん、だ、だめぇー!!」


「ぐふぅ!」


「あぁ! ごめんなさいっ!! 大丈夫ですか!?」


 はっ! あまりの嬉しい状況に少しばかり混乱していたようだ。

心配そうに私を覗き込む女の子を見上げる。


制服は泥だらけで、スカートなども所々が破れている。

リボンの色は青なので一年生なのだろう。

目に付くのが、肩まで伸ばしたサラサラの黒髪。

──このを含め私も通う聖歌学園という学校は校風も比較的ゆるく、茶髪もやり過ぎない程度になら許容されているため、このような黒髪はわりと珍しかったりする。まぁ私も生まれてこのかた髪を染めたことは一度も無いのだけど。ナチュラルで未加工なままである。──

身長はあまり高くはないようだが、出てるところは出ているみたい。

まぁ、これは私がさっきまで堪能していたわけだが。


それと顔のほうは、これはもう可愛いと一言で表すしかない。

化粧はしてないように見えるが、もとがいいのかスッピンでもそこらの変に化粧した女よりも断然可愛い。

少々たれ目で、優しそうな雰囲気を持っているのもポイントが高い。


と、いうか、なんだか顔もほんのり赤くなって、息遣いも……ジュルリ。


「あの、せ、せんぱい? 大丈夫ですか?」


 はっ!


「あ、ああ、うん、大丈夫、もう大丈夫よ、ちょっと混乱してたみたい、ごめんね?」


「あ……いえ、ぅ、私は別に……」頬をほんのりと染める女の子。マジ可愛い。


 さて、と。私もそろそろ起き上がるとするか。

そう思い立ち上がろうとしたとき──


「って、あれ?」


 私は妙な違和感に気づくのだった。

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