#03 外に出てみよう
世界が終わったのが5日前。
水道が止まったのが3日前。
食料が底をついたのが2日前。
電気が止まったのが1日前。
──私の我慢の限界が来たのが5分前のことである。
*
「うわぁぁぁーーーーーーー!! おーなーかーすーいーたーーーー!!!」
二日も何も食べてない。
と、いうか、2日目にしてインスタントラーメンを食べきったのが悪かったのかもしれない。
デリバリーでピザでも頼もうかと思って、電話してみたけど全くつながらない、ちくしょう。
残っているのは、マーブルチョコが二つ。
サバイバルにはよくチョコレートと聞くけど、あいにくこれだけじゃ全くお腹が膨れない。早急に食料を調達する必要があるだろう。
私はカーテンの隙間から外を覗いた。
数は少なくなっていたが、まだいる。黒い羽毛に包まれたカラスのバケモノだ。
ふいに、電信柱の頂点に止まっていたソレと目が合った気がして、慌ててカーテンを閉めた。
私はベッドに倒れこみ、魔法でマーブルチョコを一粒口内に移動させ、カチカチと音をたてて動く掛け時計の針を眺めながらこれからのことを思案した。
食料も無い、水ももう少しで尽きる、電気も無い。
そんな家にいつまでも引きこもっていてもいずれ餓死するのは明白だ。
それなら、まだ身体が元気なうちに思い切って外に出てみるほうが得策かもしれない。
いや、絶対にそれがいい、うん、そうしよう。
私は、ガバッとベッドから身体を起こし、服の入ったクローゼットを漁った。
戦闘に備えて出来るだけ動きやすい服を選んでいく。
膝丈のハーフパンツとレギンス、黒の長袖インナー、最低限必要そうなものをいれた小さめの皮のショルダーバッグを背負い、その上からスポンとポンチョを被った。
今年の冬は冷えるとのことだが、余分な厚着は動きを制限するし、第一私自身寒さには強いのでこんなものでいいのだ。
靴も動きやすさを重視したスニーカーだ。
私は玄関に座り込み、靴紐をきつく締め終えると、自分の家の玄関を6日ぶりに開けはなった。
*
開けた瞬間、血の匂いが冷気に乗って私に押し寄せてきた。
久しぶりの外の匂いは随分と変わっており、私は眉を顰めた。
「早くしないと」
第一の目標は食料の調達、後は現状の詳しい情報が知りたい。
私は無意識にエレベーターへ乗ろうとするが電気が止まっているのを思い出して、階段へと向かった。
出来るだけ足音を立てないように、ゆっくりと階段を下り、遂にマンションの外へと出た。
空を見上げると大きな鳥が獲物を探るように旋回しているため、安易に飛び出したら普通ならその時点でぱくりだろう。
が、そこは私。
忘れていると思うが、私は魔法を使える。
しかも、この5日間それを使いこなす練習を積んできたのだ。大丈夫、いける。
私はポケットからビー球を一つ取り出し、目の前に浮かせ旋回する鳥に向け照準を合わせ、射出した。
初速から、最高速度で発射されたビー球は凶弾となり、悠然と空を飛んでいた巨大な鳥の身体にのめりこんだ。
「ギャァーー!?」
と何が起こったのか分からないといった様子で痛みにもがきながらも墜落はせずに、他所へと飛び去っていく。
「硬いなぁ、やっぱり威力が足りない、弾も使い捨てだし節約しないと」
まぁ、その辺の石をぶつけてもいいわけだけど、それは私の趣味に反するため却下だ。
もっともそうならないように弾はそれなりに用意した。
が、少なくとも今の私じゃ、一匹を倒すのにもかなり苦戦を強いられそうだ。
私は膨らんだポケットに手を突っ込みながら、歩みを進めた。
食料調達のために立ち寄ったコンビニ数件は、ほとんどが荒らされ、食料という食料がなくなっていた。
人間の仕業か、バケモノの仕業か分からないがこうなったら少し離れたショッピングモールまで行くしかなさそうだ。
ため息をついて、本日5件目のコンビニを発とうと開けっ放しの自動ドアから外に出た。
と、その時、「キャァーーー!!」と女性の甲高い悲鳴が響き渡たり、その悲鳴の聞こえた方角から、数名の学生と思われる集団が走ってきた。
と、いうか私の学校の生徒だった。久しぶりに人間を見た気がする。
しかしその顔は皆恐怖に染まっており、私の存在など見えていないようだった。
そして口々に叫ぶ。
「やばいよ! 早く、早く逃げないと!!」
「嫌だ! 死にたくないっ!!!」
「だ、大丈夫よ! あの役立たずもこれでやっと役に立ったんじゃない!?」
「しかたがなかったんだ!! 許してくれっ!!」
私は直ぐに理解した。
誰かを囮として使ったことを。
私は逃げる女子生徒の服を掴んで強引に引き寄せた。
そして顔を思いっきり近づけ問いただす。
「どこっ!!」
「ひっ!? え? か、会長ぉ!? なんで……!!」
女子生徒は自分の学校の生徒会長の姿を見て驚いているようだが、こちらにそんな暇は無い。
「いいから教えなさい!! 置いてきた人はどこにいるの!!!」
私の剣幕に押されたのか、女子生徒は泣きながら答えた。
「あ、あの、曲がり、か、角の向こう、ですっ」
私はそれを聞くと女子生徒を解放し、彼女が指差した方向に向かって全速力で駆けていった。