#18 よく現状を確認しよう(2)
それはなんてことのない、ありふれたホームビデオ。
そのはずだった。
『──おーい、ソラ~? こら、そこで何してんだ。……ってそんなに震えなくてもいいよ、もう怒ってないからっ。よしよし、ほらいい子だからおもちゃ持ってきな、お兄ちゃんと遊ぼう……ん? おい、ソラ、本当に大丈夫か? ッッ!! おいおい! お前口から泡吹いて……!? ────は!?? は!!!? へ……ちょ、なんだこれ……!! なんだよこれっ!! まて、まてまてまてま────ズシャ────…………ザザ、ザザザザ…………ッ────』
いきなり苦しみ始めた自分の愛犬に心配そうに近づく飼い主。
次の瞬間、愛犬は口から泡を吹き始め、その身体は見る見るうちに膨張していく。
首輪は弾け飛び、元の姿からは想像もつかないほどの巨体がカメラ越しにこちらを見下ろしている。
そして、最後に写っていたのはレンズに付着した赤黒い水滴。
それと、
────肉を引き裂くようなやけに不快な音。
再生時間47秒の悲劇だった。
*
「……これ」
不良仲間はすでに見たことがあったのか割と平然としているが、蓮と美並ちゃんはそのあまりにショッキングな映像に呆然としているようだった。私は震えている蓮の手を優しく握った。
「はい、投稿者は不明ですけど似たような動画が他にいくつも投稿されています。信憑性は高いかと」
葉山が動画投稿サイトを開き、検索ワード【突然変異】と入力すると、最近になって投稿されたらしい動画が上からズラリと並んだ。
そしてそのどれもが100万再生オーバーを記録している。
「……うん。とりあえずは動物の突然変異って考えでよさそうね。まぁ、だからといってどうなるわけでもないんだけど……」
「……いえ、そうでもありません。少なくとも近辺にどのような種類のバケモノが生息しているか、という予測はたてられると思います。あるいはその対策も」
そう言った私に対し、素早く立ち直った美並ちゃんがさっと自分の意見を述べる。
私は思わず感心してしまった。
落ち着いて、常に他人を気遣える余裕のある心。
大胆すぎるほどの行動力とあの戦いで見せた雷の能力。
おまけに美人でスタイル抜群という、まさに心技体のそろった人物と言える。
「流石みーちゃん、頼りになるね」
「誰がみーちゃんですか」
そして私の軽口にも、きちんと対応してくれるところも素晴らしい。
いや、可愛い。ぐへへ。
「姐さん。キャラが戻ってますけど大丈夫っすか?」
うるさいなビー、飽きたんだよ。悪いか。
っと、それよりも、
「蓮、大丈夫?」
隣でずっと黙っている蓮が気になって声をかける。
忘れかけていたが、蓮があのバケモノに正面から襲われてからまだ一日しか経っていないのだ。
先の映像を見たことで、その悪夢のような経験がフラッシュバックした可能性もある。
私は握った手にぎゅっと力を込めた。
「あ、凛音ちゃん、その、ウチなら大丈夫やから……」
「でも……」
「えっと、そ、それよりもウチが気になったのは種類……かな。ウチが今まで見たことがあるのは犬と……ニワトリくらいやけど……他にもいるかもしれないな、って……」
あまり大丈夫そうには見えない……十中八九強がりだろう。
実際、まだ手が震えているのだ。
いくら自分に大丈夫と言い聞かせたところで、心に染み付いた恐怖はなかなか拭えないのだろう。
今はそっとしておくのが得策と思えた。
「それには私も同感です。それにその意見を逆に考えると、一連の事件はもしかしたら何かしらの感染症の一種で、抗体のある種、ない種があるのかもしれません。現に昆虫などは今までどおりのものが存在していましたし、家で飼っていたオウムにも特に異常は見られませんでした」
美並ちゃんもそれに感づいたのか、蓮の意見を更に発展させるようにして会話を進める。
ナイス、美並ちゃん。
「え? 美並さんオウム飼ってんすか? オレもッス」
と、更にエーの空気の読めない発言によって、若干沈んでいた空気も幾分力を取り戻す。
「名前はなんていうんすか?」と詰め寄るエーに困惑顔をする美並ちゃん。
「はいはい、どうでもいいから。でも、もしそうだとしたら、この魔法の力の説明もつくかもしれないわね。これが突然変異の一種だとすれば」
「その辺りはネットでも議論されているようですね。真偽は不明ですが」
葉山の言葉にふむ、と頷く。
仮に突然変異の一種とするなら、私や、蓮、美並ちゃんは、この騒動の原因と言える何かしらのウイルスのようなものに対して、耐性があった……私たちの魔法の力にはそのことも関係しているかもしれない。
そして、仮称、結晶病で消えた人たちはその耐性が限りなく低くウイルスに耐えることができなかった。
そう考えれば、この三つの問題は全てが繋がるのではないだろうか。
と、私は不意に思い立って家からもってきた小さなショルダーバッグの中を漁る。
目的のものはすぐに見つかり、私の手の中で変わらない淡い輝きを放っていた。
一話2000~3000くらいで収めたいので無理やりにでも切らざるを得ない。
てなわけで説明は続くのです。