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#16 お昼ご飯を食べてみよう

※主人公からの呼び方を、美並→美並ちゃんに変更。


 お風呂の制作を手伝ってくれたお礼に「お昼ご飯は特別に私が作ってあげるよー」と言ってみたところ、何故か異様に興奮し始めた不良連中。

ドン引きする私を置いて、勝手に『何を作ってもらうか』という議論が始まった。


やれハンバーグだ、ステーキだ、などと喧嘩をするビー及びディー。

子供か。

味噌汁。と言い切ったシー。

こいつ、分かってる。

ブンボーフエ。とボソッと呟くエー。

何故ベトナムの郷土料理……? まぁ作れるけど。


その後もいっそう会議が白熱していく中、終始議論を傍観していたリーダー葉山の、


「つか、蓮さんに決めてもらうのが一番いいんじゃね?」


という一言で場が急に静まり返った。


「えっ、ウチ?」


 とうろたえた声を出す蓮に、私を含めた全員が注目する。

いきなり自分に振られて戸惑っている蓮だが、口をもごもごとさせているのでどうやら食べたいものはあるみたいだ。

……なんだろう、気になる。


「蓮。何でもいいから言ってみて、多分何でも作れるし」


「う~、笑わへん?」


 ほんのりと頬を染めてそう聞いてくる。

笑うわけがない。むしろ笑ったやつは殺す。

とりあえず、視線だけ動かして、静かになった不良連中に軽くけん制をしておく。

「ヒイィィッ!!」とか聞こえたが、気のせいだろう。


「笑わないよ。それで?」


 視線を戻し、蓮に続きを促す。

しばらくもごもごとしていた口が少しだけ開き、小さく声を発する。


「や……」


「や?」


「や、きそば。食べたいな」


 ──っく!

もはや、ここまで可愛いと兵器級ではないだろうか。

雰囲気的には、オムライスやスパゲティなど、比較的おとなしめのメニューが似合いそうなところを、あえて外しての焼きそば。

小柄で、大人しくて、優しくて、黒髪の京都で焼きそばの美人なのだ。


私は何を言っているんだろうか。

さて、一応やつらの意見も聞いておくか、もはや決まってそうではあるけど。


「焼きそばという意見だが、あんたらどう思う?」


「焼きそばこそ至高!」


「ステーキなどと言っていた自分を殴りたいっす!」


「味噌汁……と焼きそば!」


「ブンボ……焼きそば最高ッ!」


「蓮さんに間違いはないですね」


 



 焼きそば定食に決定した。



 コンコンコンコン、とまな板を小刻みに打ちつける音が響く。

にんじんは少し大きめの千切りに、豚肉やエビ、イカも適当な大きさに切っていく。

それらを塩コショウで炒めたら、ウスターソースや醤油等で味付け、全体に絡まったら用意していた焼きそば麺を投入して完成だ。

後は適当に盛り付けるだけかな。


「蓮、そっちは出来た?」


「うん、後は味噌をくだけや。えと……」


「はい」


 蓮の何かを探すそぶりに気づき、お玉を渡す。


「わっ、どうしてわかったん? おおきに、凛音ちゃん」


 ふ、愚問だな。この私、蓮の一挙一動すら見逃すことはない。

そのまま、蓮がお玉で味噌を鍋に入れるのを見ている。

途中、何度か自分で味見をして、薄かったのかもう一度少量の味噌を少しずつ加えながら味をととのえていく。

そうすると2、3回目くらいで納得がいったらしく「うん」と可愛らしく頷いた。


ボーっとその様子を見ていた私の口元に、蓮が少量の味噌汁が入った小皿を近づけ、


「凛音ちゃんも味見してみて?」


 と優しげな表情でそう言った。

蓮に飲ませてもらった味噌汁はとても懐かしい味で、やっぱりかなり美味しかった。

今度、うちの台所に立たせようと思う。


「どう?」


「ん、すごく美味しい。さすが蓮」


「えへへ、よかったー凛音ちゃんに喜んでもらえて」


 にこにこと笑う蓮に私も笑い返して、できあがった焼きそば(私作)と味噌汁(蓮作)をそれぞれ器に盛り付けていった。



 美並ちゃんが目を覚ましたのは、私たちができあがった昼ごはんを談笑と悲鳴を交えながら食べているときだった。


「……──……ぉ──……」


 綺麗な唇から何かが呟かれたかと思うと、閉じられていた両目がうっすらと開いていき、倒れていた体が起き上がっていく。

目を指で数回擦り、眠気を飛ばすように数回頭を振る。

そして、その目が私たちを捉えたかと思うと──そのままビックリしたように目を見開いて、数秒の間固まった。


うん? どうしたんだろう。

固まったけど。


先ほどまで談笑をしていた、男どもも空気を読んだのか静かになっている。

食べていた焼きそばを机に置いて美並ちゃんを見れば、その茶髪ボブカットから寝癖のようなものがピンと立っているのが分かった。

ああいうのが萌えポイントなんだろうか。と私がどうでもいいことを思っていると、


「……なにをしているんですか」


 と、彼女特有の落ち着いた口調で私に問いかけてきた。

なにを……と言われても。


「焼きそば食べてる?」


「やき、そば?」


「うん、焼きそば。知らない?」


「いえ、それくらいは知っていますが……なんというか……少し驚いています」


「驚く?」


 なんのことだろう。

焼きそばがどうかしたのかな?


すると、美並ちゃんは「皮肉ではないですが」と前置きをして、


「この状況の中、みなさんがあまりに普通に振る舞っていらっしゃるので……驚きもありますが、なんというか、気が抜けてしまいました」


 そう言って、美並ちゃんはふぅと息をく。

そっか、言いたいことは分かった。


「他の人たちがどうかは知らないけど、私って基本的にこんなだからさ。ごめんね?」


 机に置いた焼きそばに手を伸ばしながらそう言う。

 私は自分がマイペースな性格だと自覚しているし、それが欠点であり、そして長所だと思っている。

外の──たとえば蓮を見捨てた連中。

今ゆっくりと考えれば、あの連中も必死だったんだろう。

見逃せないセリフはあったが、自分の命を最優先に考えるのは究極の状況において、人間としては正常だ。

間違っているが間違ってない。

今の状況をちょっとした避難生活程度に捉えている私の方がおそらく異常だろう。


──ははは、ちょっと落ち込むね、これ。


しかし、そうやって私が勝手に落ち込んでいると、美並ちゃんが「そうではなく」とかぶりを振って、


「むしろありがたいです。今までずっと気を張っていたのですが……ここにいるととてもリラックスできます」


 そう、フォローを入れてくれる。

そして次々に、


「実際オレたち、姐さんといるからなんとかって感じだよな!」


「確かに、オレら姐さんと会う前の四、五日はほとんど寝てないもんな」


「ここ数日、寝つきが良くなった気がするっす!」


「姐さんといると、妙に安心するんですよね」


「うん、ウチも。凛音ちゃんと一緒にいるとすごく落ち着く」


 などと、なにやら褒め殺しのような目に合ってしまった。

え? なにこれ。妙に恥ずかしいんですが。

あと、アンタらやっぱ寝てなかったのか。

いくらなんでもあのテンションはないと思ってたが。

蓮は……可愛いね、相変わらず。


「その話は置いておいて──美並ちゃん」


 これ以上褒め殺しにあうのも気恥ずかしかったので、ソファーに腰掛ける美並ちゃんに話しかける。


「身体は大丈夫?」


 憶測だが、美並ちゃんがあの時倒れたのは、魔法の使いすぎによる──仮称、魔力切れというやつだろう。

私は倒れることはなかったが、最初に魔法を使ったときのダルさは覚えている。

この症状は多分休めば回復するものだと判断したため、さして心配はしてなかったのだが。


 美並ちゃんは一度立ち上がろうとしたあと、直ぐにソファーにもたれかかってしまう。

そして僅かに沈黙した後、申し訳なさそうに言う。


「……大丈夫、と言いたいところですが、すみません。実はまだ身体がうまく動かせません」


「そっか」


「ご迷惑をおかけします」


「もー、そんなのは気にしなくていいから。そんなことより、お腹すいてない?」


 私が聞くと、美並ちゃんはその引き締まったお腹を確かめるように撫でて、


「えっと、どうなんでしょうか……ただ、ここ数日食べ物を口にしていないので……」


 と、あいまいな返事を返した。

これは、いかん。


「美並ちゃん」


「はい?」


「焼きそばを食べなさい。それと味噌汁」


「え……でも、それは貴重な食料では……」


「いいから、食べなさい。分かった?」


 遠慮したように言う美並ちゃんを、有無を言わさず納得させる。

いくらこんな状況でも、流石に何日も食べていないのは感心できない。

今度は魔力切れとは別のところで倒れそうだ。

いや、今回のはそのせいもあったのだろう。


「……分かりました。凛音さん、ありがとうございます」


 そう言って小さく微笑む美並ちゃんの茶髪をポンと撫でて、私は8セット目の焼きそば定食を作るために立ち上がったのだった。



凛音「はい、あーん」

美並「凛音さん、自分で食べられます」

凛音「うそ。腕持ち上がらないでしょ?」

美並「う……ですが……(はずかしいんです)」

凛音「はい、あーん」

美並「あ、あーん(パク)」

凛音「おいし?」

美並「……美味しいです。これ、凛音さんが作ったんですか?」

凛音「そうだよー、はい、あーん」

美並「あ、あーん」

蓮「あ、あの、美並さん。こっちはお味噌汁です。飲めますか?」

美並「えと、貴女は蓮さんですね。すごく美味しそうですけど、でも一人でできますから」

蓮「ダメです。病人は他人に甘えるのが仕事なんですよ。大丈夫です、一口ずつ飲みやすいように冷やしてあげますから」


……


…………




B(梅)「榊原、俺を殴るんだ。具体的には腕が上がらなくなるくらいにな」

D(榊)「よしきた」


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