#12 色々と調達しよう
私たちは、ショッピングモールの中にあるホームセンターのようなところに来ている。
ここなら生活用品の大抵は揃っているだろうということで荷物もちを引き連れてやってきたのだ。
建物の中にもバケモノがいる可能性だって十分に考えられたため、ここまで来るのにもかなりの注意を払う必要があった。
ちなみにいつどんなことが起こるか分からないため、蓮は部屋に残してきた。
置いていかれるのが不安なのか、上目遣いで連れて行ってとお願いする蓮に危うく折れそうにもなったが、何とか自制することができた。
帰ったら、思う存分愛でてやろう。
私はカイロの袋を何個かショッピングカートに入れる。
現在カートには、石鹸や歯ブラシ、毛布など、生活必需品がうずたかく積まれている。
「え~と……次は」
「姐、さんっ!」
私が必要なものリストを見て、次のものを探していると、不良リーダーから声が掛かった。
やけに、こう、踏ん張ってる感じの声だ。
「なに? なんかあった?」
「こ、れっ! 見てくだ、さいっ!」
振り向いた先にあったのは、五右衛門風呂と思しき物体を五人がかりで運ぶ不良たちの姿だった。
*
ドスンッ! と音をたてて床に下ろされた物体は見れば見るほど五右衛門風呂で、下方には薪を燃やすかまどが付いており、上に排煙するための煙突がそびえている。
うん、五右衛門風呂だ。紛れもないな。
「あんたら……これどっから持ってきたの?」
私は呆れたような視線を不良たちと五右衛門風呂に向ける。
しかし、よくこんなものがあったな。
「向こうのほうにありました!」
「どうッスか、これっ!」
「どうって言われても……こんなもの室内じゃ使えないし……」
私は一瞬、戻してきて、と言いかけ、待てよ? と思いとどまる。
部屋の半分くらいをお風呂用に区切って、床にビニールシートを張ってから、レンガか何かを土台にしてしっかりと固定すれば。
それから大き目のアルミダストを煙突の先に取り付けて、動かない換気扇は取り外して直接外に排煙すれば……。
うん! なんかいけそうな気がする。
やってやれないことはない、とにかくその案を試してみることにしよう。
だめだったらだめだったでいいんだし。
それにもし出来たら、蓮と一緒に……。
うん、なんとしても完成させなければっ!
「てなわけで、あんたらでっかいアルミダスト探してきて! 多分どっかにあるはずだから」
「どんなわけッスか!? あと、アルミダストってなんすか!?」
「あ~、なんというかアルミで出来たでっかいホースみたいやつ、この煙突を延長したいんだけど……分かる?」
「あー、はいっ! 了解しましたっ! 全身全霊をもってアルミダスト、探してまいります」
そう言って一斉に散らばっていく五人。
ほんとよく働く連中だ。
さて、私はお風呂の取り付けに必要そうなものを探すか……えっと、まずは──
*
部屋を分けるカーテン、煙突とアルミダストを繋げるためのテープなどを手際よくカートに入れ、私は工具のコーナーにやってきた。
こういう店はあまり入ることがないため、工具がサイズ別にずらりと並べられている様を見ると訳もなく興奮してしまう。
宝探しをしているような心情かもしれない。
「おっ、ドライバー発見っ」
あっ、でもどれ持っていけばいいんだろう……。
う~、よく分かんないし、サイズは適当に持ってっとくか。
私がドライバーを見比べていると、ダッダッダッ、っと誰かが走る足音が聞こえた。
私の体が一瞬ビクつく。
「姐さんッ!!」
なんだお前か、店内を走るなガキか。つかあんたらは喋るのにいちいち大声を出さないと気がすまないのか全く。
私は背を向けたままため息をついた。
「姐さんッ!! 逃げてくださいっ!!」
「え?」
ドォーン!!
そんな効果音がしそうなほどの音をたてて、私の直ぐ後ろの商品棚が吹き飛んだ。
サイズごとに並べられていたネジや釘が散乱し、それらを踏みしめる陰が一つ。
茶黒い体毛に鋭く尖った爪、ピンと伸びた耳、涎を滴らせ大きな牙を覗かせる口。
「グルルルルル──」
白濁した瞳が私を貫いた。
──またお前か。
と、私がうんざりとしていると、ザッと私の前に立ちはだかる人影。
ドライバーを探していた体勢のまま見上げる。
私服のため学生かどうかは分からないが多分私と同年代、もしくは一つ年下くらいの女の子。
茶髪のボブカット、灰色のセーターに黒のマフラー。
薄紫の上品なフレアスカートに、足元は茶色のブーツ。
そしてその美少女は私を一瞥すると、
「ちっ」
と、舌打ちした。
えええええーーーーーーー!!!?
私あなたに舌打ちされるような何かしました!? 凛音さんびっくりですよ!?
あ、いや、そんなこと言ってる場合じゃなかった!
ワンコっ! あいつめっちゃグルグル言ってる! 早く逃げてー!!
「そこの貴女! はやくここから逃げてくださいっ!!」
それ、私のセリフなんですけどっ!?
私はフゥとため息を吐いた後、やるしかないか。と覚悟を決める。
今度ばかりはやられるわけにはいかない。
私が死んだら蓮が泣く。
私は咄嗟にワンコを迎撃するための武器がないかあたりを見渡した。
──あった。
私がソレを手に取り、攻撃態勢に移ろうと体を起こしたときにはワンコの爪が私の目前まで迫っていた。
あ。
私が思ったのはそれだけ。
そして私の目の前が真っ白になった。