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#10 PRESENT FOR YOU

 目が覚めると目の前に天使がいた。



 私は、すやすやと寝息を立てて眠る蓮を起こさないようにソファーから起きあがると、蓮の細い腰に手を回してソファーに倒して楽な体勢にしてやる。

あれからずっと私に膝枕をしてくれていたようだ。

ふと自分の腕時計を見ると、もう夜の七時を過ぎているところだった。


三時間近く眠っていたのか……。


冬の七時の空は暗い。

この部屋も、灯油ストーブから見える仄かな明かりがぼんやりと光っているだけで、ストーブの火のボゥッと燃える音とその上に置かれた古びたヤカンがボコボコと沸騰する音以外は、蓮の寝息がかすかに聞こえるだけだった。

その驚くほど静寂な空間に何故か心が安らいだ。

私はストーブを取り、簡易台所の蛇口から水を加え直すと──ここの水道はまだ生きているようだ──再度ストーブの上に置きなおした。


「……んっ、凛音ちゃん?」


 と、その音で目を覚ましたのか、蓮がソファーからゆっくりと体を起こし、目の端を袖で擦りながら私の名前を呼んだ。


「蓮、ごめんね、起こしちゃった」


「ううん、ええんよ……凛音ちゃん、何しとるん?」


 私に気づいた蓮が安心したように微笑みを浮かべ、立ったままストーブに手を当てていた私の側へ近づき、私の隣に立った。ふわりと、やわらかで優しい香りが漂う。


「う~ん、特に何も、私も今起きたから……ふふっ、蓮の膝枕気持ちよかったよ?」


「そ、そうなんや……えへへ、実はウチもよくおばあちゃんにしてもらってたんよ」


「そっか、じゃ、また今度してもらおっかな~」


「あ、その、凛音ちゃんがして欲しいなら、ウチはいつでも……」


 なんでもないような会話が実に心地いい。

夜の静けさと部屋の雰囲気も相まって、まるで世界に二人だけが取り残されたかのような不思議な錯覚を覚えた。もっとも実際それに近い状況ではあるんだろうが。


「あっ」


 その時、蓮が一つだけ付いた窓を指して小さな声をあげた。


「ん?」


「雪」


「お、ほんとだ」


 雪なんて久しぶりに見たな。

そういえば、こっちに来てからは初めてのような気がする。


「ホワイトクリスマスやね」


「は?」


 蓮が振り返ってにっこりと言い、舞い落ちる雪をぼんやりと眺めていた私は、思わず間抜けな声を漏らしてしまう。

え、ちょっと待って、え~と、最初の日が二十日だったから……一、二、三……あ。


「忘れてた。あ~、蓮とはもっとちゃんとしたクリスマスを過ごせればよかったんだけど……ごめんね? 気の利いたプレゼントもなくて」


 買いにいける状況でもないしなぁ。

私、今何か持ってたっけ……。


と、そんなことを思っていると、ふと、頬に柔らかくて暖かな感触を覚えた。

しかし、いつまでも味わっていたいような、とろけるような感触は直ぐに消え、代わりに顔を真っ赤にして俯いた蓮が言った。


「そ、その、えと……こんな状況でこんなこと言うのも変なんやけど……ウチ、凛音ちゃんとお友達になれて本当に嬉しくて……や、やから、ウチは、えと……今日凛音ちゃんと知り合えただけで最高のプレゼントをもろうとるん、よ?」


 ……え~と? 


あ、これは、あれか。抱きしめればいいのか? 抱きしめてチューすればいいのか!?

ていうか、なんだこの可愛すぎる生物いきものはっ!

私はこんな可愛い子に育てた覚えはありませんわよっ!?


私が身悶えしていると、蓮が不安げに私を見て、


「り、凛音、ちゃん? ……その、嫌やった? や、やったらごめんな、ウチ変なこと言う──ふゎ」


 語尾がどんどん小さくなるり、声が小さく震える。

 

仕方ないので、蓮をこちらに引き寄せ、ぎゅぅっと抱きしめておいた。

小柄で線の細い蓮が私の腕の中にすっぽりと収まる。


「全然嫌なんかじゃないよ? 私も蓮と友達になれて凄く嬉しい。今年は、まぁ、こんな感じのクリスマスになっちゃったけど、また来年も、そのまた次だってあるんだしさ、その時は今日よりもっと素敵なクリスマスを過ごそうっ……ね?」


「凛音ちゃん……うん」


「だから、今回はこんなもので我慢してね?」


 抱きしめた蓮の首に両手を回して、私がいつも身につけているドッグタグを付けてやる。

蓮の顔が目と鼻の先にあり、少し距離を詰めるだけで簡単にキスができそうだ。


「あっ」


 蓮が自分の首から下がっている銀色のプレートを見て、小さく声をあげた。


「お友達記念。私の名前と血液型が入ってるんだけど……要らない?」


 蓮が頭を取れそうな勢いで横に振る。


「……でも、ええの?」


「うん、そんなものでよければ」


「ううん、嬉しい……おおきに凛音ちゃん」


「どういたしまして」


 どうやら、喜んでもらえたみたいで一安心だ。


そう思っていると、蓮は自分の髪から先端に綺麗なガラス球の付いたヘアピンを抜き取り、スッと私の髪へと付けてくれた。


「お返しや」と、恥ずかしそうに笑う蓮が可愛いくて、私は蓮の前髪をサッと払うと、おでこに触れるだけの口付けをした。


「蓮、これからもよろしくね?」


「凛音ちゃん……」


 ストーブの仄かな灯りに照らされて、しばらくの間見つめあう。



ぐぅぅーーーー。


「……今の」


「あ、あ、その……」


 わたわたと慌てる蓮。

私は蓮から離れ、軽く頭を撫でながら言った。


「ご飯でも作ろっか? お友達記念兼クリスマスってことでなんか豪華なものにしよう」


 


 そのあとは、蓮にも手伝ってもらって鍋料理を作った。

野菜類はいいとして、肉類もまだ使えそうなものが多く、かなり本格的なものが出来上がった。

少し量が多くなりすぎたため、不良どもも仲間に入れてあげると泣いて喜んでいた。


というか、本当に今まで見張りをしていたらしい。ご苦労なことで。

KOISAKI

RINNE

BLOOD TYPE AB

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