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#09 休憩してみよう


 最初は、もう少し人がいたらしい。

バケモノが現れ、この食料品売り場にも少なからずの避難者が集まった。

異変が起こり始めたのは、その直ぐ後だったと言う。



「消えた?」


 私は不良たちに鉄槌を喰らわしたあと、詳しい事情を聞くために不良たちがここ最近立てこもっていると言う店の従業員専用の小部屋のようなところに集まっていた。少々タバコ臭いが灯油ストーブも設置されておりそこそこに快適だ。

蓮が少々怯えていたが、暖かい環境にそれなりの食糧も揃っているため身体を休ませるには丁度いいだろう。

私は蓮と一緒にソファーへと腰掛けると桃の缶詰を開けて、蓮に食べさせてやる。

嬉しそうに微笑む蓮。

不良連中は床に正座である。


「はい、その、俺らと一緒にいた中年の親父なんですけど、急に倒れたと思ったら、身体がどんどん石みたいになっていって……」


 と、不良リーダー──葉山というらしいが特に興味はない──が言う。


「アレ、マジできもかったよな?」


「そうそう、おっさんの石像とかまじ勘弁だし」


「はいはい、それで?」


 蓮に食べさせてやりながら、自分でも食べてみる。

実に2日ぶりの食事だ。

桃の甘みと水分が私の身体を潤していく。


「はい、それで、なんか気持ち悪くなって、そのまま放置してたんです」


「はい、蓮、あ~ん」


「でも、俺らも鬼じゃないんで、次の日におっさんがどうなってるのか見にいったんですけど──」


「蓮、おいしい?」


「うん、おいしいよ。凛音ちゃんも」


「ん、あ~ん」


 は~、蓮に食べさせてもらうと八割り増しくらいに美味しいなぁ。


「……姐さん、聞いてます?」


「んぐんぐ、む? ひぃてうよ。……っ、それで、見に行ってみたら綺麗さっぱりだった、と」


「あ、はい。……それと噂なんですけど、もう地球にほとんど人が残っていないとか」


「へ~、あっ、そこの人、お茶入れてくれる?」


「は、はいっ、姐さん、今すぐ」


「二人分ね~」


「心得ています!」


 私は、いかつい顔をした不良の一人が灯油ストーブの上に置いてあったヤカンを取り、いそいそと急須きゅうすにお湯を注ぐのをぼんやりと眺める。


私がここに来るまで人に全く出会わなかった理由わけ、それが例の病気のせいだとしたら私たちも安心していられない。

世界中で発生しているわけだし空気感染するのかな。情報だと10~20代には被害者がほとんどいなかったはず、つまりその年代には例の病気に対する何らかの抗体が──。


「姐さん、お待たせしま、熱っ!! あっ!」


 手を滑らせた不良の手から、湯飲みがその中身を撒き散らしながら落下する。


しかし、それがそのまま床にぶちまけられることはなかった。

湯飲みとその中身、その周辺だけが時間が止まったようにピタリと静止している。

そのハイスピードカメラのワンシーンのような状況に、私以外の全ての人間もまた固まるようにして見入っていた。


「ったく、気をつけなさいよ? 蓮が火傷やけどでもしたらどうすんのよ」


 私はそう言いながら宙に飛び散ったお茶を全て湯飲みの中へと移動させると、そのまま湯飲みごと落とした不良につき返す。

ふわふわと宙に浮く湯飲みに困惑しながらも不良は湯飲みを受け取った。


「もう一度お願いね?」


 私は笑いかけながらそう言った。



 私はいれなおしてもらったお茶を啜り、ふぅ、とため息を吐いた。

と、不良リーダーが静寂を破って話しかけてくる。


「姐さん、超能力者だったんですね」


 そして、次々に、


「姐さん、ぱねぇッス!」


「か、かっけー……」


「うお、マジかよ」


 なに、何でこいつらこんなに驚いてるわけ?

ちょっと前に散々見せてやったはずなんだけど。


というか。


「超能力者じゃなくて魔法使い。分かる? この違い」


「え? いや、よく分からないッスけど」


「なんか違うんすか?」


「はぁ……あんたら、ごみ屑以下ね、いっそ死ねばいい」


「ええ!!? そこまでッスか!!?」


 私はお茶を半分ほど飲み、湯飲みをテーブルに置いた。

そして、隣で両手を使ってお茶を飲む蓮の太股に、ゆっくりと自分の頭を預ける。


「わっ、凛音ちゃん、あぶないよ?」


「ん~……ちょっとだけ」


 はあ、柔らかい。

蓮が「凛音ちゃん、眠たいん?」とふんわりとした声で聞いてくる。

やばいな、ほんとこのまま寝ちゃいそう。


「あの~姐さん?」


「あ、そうそう、その超能力者についてだけど、なにか知ってる?」


 蓮の太股を頬で堪能しながら、不良たちに問いかけた。

お茶を飲み終わった蓮が私の頭に手を添えて優しく撫でてくれる。蓮の細くて繊細な指の感触がたまらなく気持ちいい。


「い、いえ、そっちも噂程度で、実際見たのは姐さんが初めてです、マジビビリました」


「そう……」


 誰にでも使えるわけじゃないのか。

それとも、ただ自覚ができていないだけなのか。


「っべぇ! 興奮してきたわ!」


「姐さん! 俺らにも使えないんすか!?」


「ん~……私からは何とも……なんかこう、体のどっかにもやもやとしたチカラを感じたりしない?」


「チカラっすか? いえ、特には」


「ふ~ん。蓮は? なにか感じない?」


 顔を上に向け、二つの胸の向こうに見える蓮に訊ねる。

私の顔を覗き込むようにしていた蓮と目が合った。


「ふぇっ? あ、えっと、その、ウチも、よーわからへん、ごめんな?」


 何故か顔を真っ赤にしてあたふたしている。かーいい。


「そうですか、つまり、そのチカラを自覚できれば俺たちにも可能性はあるってことですか?」


「へ? あ、うん……知らないけど」


 私がボソリと呟いたのは聞こえなかったようだ。

不良たちは目を爛々と輝かせ、自分に一体どんなチカラが宿っているのか。といったことで盛り上がりだした。

まぁ、勝手にしてくれたまえ。


「っし! 分かりました姐さん! 俺ら精進することにするッス!」


「うん、がんばってね、あと、今から少し寝るからしばらく出てってもらえる?」


「分かりました姐さん! 見張りは俺らに任せてください!」


「うん、ありがと」


 バタン、と音をたてて小部屋の扉が閉められた。

扉の外から聞こえる不良たちの笑い声が遠ざかっていく。


私は扉についている内鍵を魔法で回した。

不良リーダー(葉山さん):それなりに常識人

不良A:影薄い

不良B:AVが好き

不良C:怖い顔

不良D:すんごい元気

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