寂れた神社に通ってみた結果
読み切りってヤツさ!
友達のたっくんと喧嘩して泣くのを我慢しながら獣道を突っ切ったら、神社があった。
誰もいなさそうなので、木で出来た階段に座っていたら涙が出てきた。
心が落ち着いて、なんだか眠くなって、気付いたら寝ていた。帰ったら、お父さんとお母さんにとても怒られた。
学校でたっくんと仲直りできなくて悲しかったから、今日も神社に行った。
雑草は伸び放題だし、落ち葉もそのままで石畳が隠れている。
だけど、人の手が入っていなさそうなここは居心地がよかった。
たっくんが謝ってきたのに、突っぱねてしまったから今日も神社に行った。
意地を張った自分が恥ずかしくて仕方なくて、階段に蹲って泣いた。
「謝りたい」と口にしたら、なんだか勇気が出た気がした。
たっくんに謝って、仲直りできた。いつものように遊べて嬉しかったから、今日も神社に行った。
この神社は居心地がいいから教えてあげようと思ったけど、なんだか独り占めしたかったから黙っちゃった。
でも、仲直りできたのはきっとここに来たから。だから5円だけ持って来てお賽銭箱に入れた。
校庭に犬が迷い込んで授業が止まって面白くて、何度も思い出し笑いしながら今日も神社に行った。
友達に話すみたいに独り言を言った。仲の良い友達と話しているかのように、すらすらと言葉が出た。
ふと思い立って、大きな鈴を揺らしてみた。ガランガランと心地よい音が鳴った。
いつも遊ぶたっくんが家族と出かけるなんて言ったので、今日は朝から神社に行った。
家からゴミ袋を持って行って、生えている雑草を抜いて集めた。思ったよりも広くって、気付いたら夕方だった。
そういえばいつも獣道を通って来ているけれど、この神社の階段を下ったらどこに出るんだろう?
折角なら全部綺麗にしたくて、今日も朝から神社に行った。
家から竹ぼうきを持って行って、石畳の上に生えた落ち葉を集めた。
鳥居に神社の名前が書いてあるけど、暗くてよく見えなかった。
社会の授業を真面目に聞いていたらなんだか行きたくなったので、今日も神社に行った。
神社は神様のお家だから、神社の中で悪い事はしちゃダメなんだって。
神社の外でも悪い事しちゃだめだよね、なんて独り言を言った。風が髪を揺らした。
なんだかワクワクしながら今日も神社に行った。
同じクラスのきたくんは、何人かで秘密基地を作っているんだって。でもここは僕だけの秘密基地みたいだ。
誰かと遊ぶんじゃなくて、ひとりで落ち着ける場所。そんな気がする。
学校ですごく怒られたので、トボトボと今日も神社に行った。
窓を割った犯人は僕じゃないのに、ボールを拾った僕が悪者扱いされて先生に怒られた。
これが世の理不尽だ、大人に負けてたまるか、と涙を拭う。風が髪を揺らした。
たっくんがまいちゃんを好きなんだって、気付いちゃった。誰にも言えなくて今日も神社に行った。
誰かが誰かを好きになるって、どういうことなんだろう?僕にはまだわからなかった。
さわちゃんが休んだから、給食のプリンの争奪戦になった。見事ゲットできてうれしくて、今日も神社に行った。
紙で出来たスプーンは、とても使いにくかった。
お父さんが休日出勤は嫌だ、と玄関で頭を抱えていた。大人って大変だな、と笑いながら今日も朝から神社に行った。
もっと綺麗に出来る場所はないか、と少し考えて、賽銭箱を布で乾拭きした。木に水は良くないって聞いたんだ。
お母さんに掃除のことを聞いたら、家の掃除だと思われたから今日はお昼から神社に行った。
こうして見渡してみると、長い事手入れされていなかったんだなぁと感じる。コツコツ綺麗にしていくぞ、と胸に誓った。
今日は1日雨だった。明日はもっと雨が酷くなるらしい。傘を差しながら神社に行った。
お賽銭を入れながら、あんまりひどくなりませんように、と願った。晴れの続きすぎは、農家が泣くって昔じいちゃんが言ってたから。
今日は小雨だった。天気予報は嘘ばっかりだ、なんて笑いながら神社に行った。
雲ひとつない快晴だった。今日も神社に行った。
蝉が鳴き始めた。今日も神社に行った。
今日も神社に行った。
今日も神社に行った。
今日も神社に行った。
今日も神社に行った。
今日も神社に行った。
今日も神社に行った。
今日も神社に行った。今日も神社に行った。
今日も。今日も。今日も。
神社に行った。
——引っ越すことに決まった。
じいちゃんの足が悪くて、一緒に住むことになったんだって。
毎日通った僕だけの場所。誰とも会わなかった、僕だけの居場所。
でも、もう来られなくなっちゃう。
引っ越し前日の夕方、綺麗になったお賽銭箱へ5円玉を入れて鈴を鳴らした。
今までありがとうって言ったら、風が髪を揺らした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
じいちゃんが亡くなってからも東京に住み続けていたのは、ひとえにそこが都会だったからだろう。
両親は常々、田舎から出たいなどと方言交じりに話していた。
でも僕は都会が好きじゃなかった。外を見ればビルの森。コンクリートジャングルなんて言葉が出来るくらい、緑が少ない。
子供心に友達と引き裂かれたことで恨んだ気持ちもあったし、それが原因で少しだけグレた時期もあった。ほんの少しだけどね。
結局大学受験のその瞬間まで、都会が好きになることはなかった。幾つも大学のランクは落ちたし、親を悲しませたれど……この空気感が溜まらなく好きなのだ。
長閑な風景。車が無ければ何もできないような場所にあるアパート。なんと3LDKで月4万円という好物件に、独居を始めることにした。
10年と言う時間は、より長く生きている大人たちにとって大した時間ではないだろう。だが、僕にとっては確かに半生を超える時間なのだ。だと言うのに、時間の経過を感じさせない景色に、酷く安心した。
ふと、この辺りにあった神社の事を思い出す。結局名前も知らないあの神社。一度も誰とも会ったことのない、あの神社。
地域の西の端、掲示板の裏にある獣道。10年の年月で誰も通っていないのか、生い茂った草木がその道筋を覆い隠している。
だけど、そんなのは関係なかった。どれだけ時が隠そうと、記憶にこびり付いた道は僕の足を勝手に動かして誘う。
そこには、あの時と変わらない寂びれた神社があった。
人の手が入っていないその場所は、落ち葉が石畳を覆い、賽銭箱は薄汚れている。
——ああ、やっぱり落ち着く。
誰かに守られているかのような。孤独に胸の痛みを感じることもない。
成長したこの体では、獣道を歩くのは一苦労だ。あの頃は決して下りなかった階段へ目を向けた。
一度帰って、本格的に掃除しようか。あの頃とは違って、もっと綺麗に出来るだろう。
そう考え、鳥居をくぐって階段を降りていく。
やけに長い階段だった。明日は足が筋肉痛になることだろう。
……どこだ、ここは?階段を降りた先は、結局獣道としか言いようがない森の中。周囲を見渡しても、特に見知った光景があるはずもなかった。
そもそもあの神社、あんなに高い場所だったか?
まだ昼時だというのに、道は木漏れ日しか入らず薄暗い。まだ腰を曲げて小さな獣道を通った方が、心身どちらも健全だ。
スマホで位置情報を確認しようにも、少し出かけるだけのつもりだったので家に置いてきてしまった。これ以上進むのは危険だと判断し、引き返して神社へ戻ることに。
あの頃は背が小さくて読めなかった神社の文字も、読めるだろう……なんて、考えていた。
鳥居が見えるまでは。
階段を登って目にした光景。
——何もかも変わっていた。
汚れて元の色がわからなかった鳥居は、赤と黒の綺麗さを取り戻している。
石畳を覆い隠していた落ち葉も外に寄せられ、堆く積もっている。
そして何より。
「あら、参拝客?お賽銭箱はあっちよ」
頭の上にはフリルのついた大きなリボン。
肩と腋が露出した、コスプレとしか思えない巫女服を着た黒髪の少女が、そこに立っていた。
というわけで主人公は幻想郷に迷い込みました。
昔読んだ東方の二次創作小説をまた読みたいのに、すでに削除されて読めない悲しみを筆に込めています。
幻想入りした主人公がどうなっていくのかは……ふふふ。




