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妊娠疑惑

突然の吐き気が香西を襲った。


ドラマでありがちなシーン。ふと生理が来てないことも頭をよぎる。



「まさか…」


震えるような声で香西が呟いた。内村は香西の両肩を持って、顔を覗き込むようにして訊ねた。


「どうした?大丈夫か?」


香西はゆっくりゆっくり振り返った。動揺しているのを表しているかのように、香西の目がきょろきょろしはじめる。


「私、妊娠したかもしれない…」


「…え?」



香西の言葉に内村はうまく返事が出来ない。


遊びで付き合ってるわけではないし、むしろこれから夫婦になるのだから問題ないといえば問題ないのかもしれない。だが、まだ結婚はしていない。同棲もしていない。ともすれば、状況的にも金銭的にもかなり厳しいものがある。




「妊娠って…」


内村は口元に手を当てて呟くように言った。



香西が妊娠したとすれば、それは明らかに自分の責任。ならば結婚時期を早めるか?いや、もともと結婚するつもりだったんだし、そんなに焦らなくても…。


いやいや、自分本意で香西を抱いたときが何度あったことか。香西は何も言わずに自分を受け入れ、自分はそんな香西を傷つけてしかない。



そんな考えが内村の頭をぐるぐると駆け巡る。


それでも、自分の子供が授かったということに少なからず喜びを内村は感じる。

ずっと想っていた女性(ひと)。ずっと忘れられなかった女性。やっとの思いで結ばれた女性。そんな香西との子供なのだ。嬉しくないはずがない。




内村はそっと香西を抱き寄せた。普段の行動や存在感からは想像出来ない華奢な体がすっぽりと内村の胸におさまる。


「ごめん、薫のこと何も考えてなくて…まだ籍入れてないのに妊娠させて…でも、俺は嬉しいよ」


そう言って香西の下腹部に手を当てた。ゆっくりと、そっと、香西のお腹をさする。


「俺とお前の子供なら…」






そして、込み上げてくる吐き気。

内村は眉をひそめてトイレへと駆け込んだ。


妊娠するってこんな感じなのか?そんなバカな…俺は妊婦じゃない。

内村はそんなことを思いながら部屋へと戻ってきた。何が原因なのかを記憶を辿って考える。


「…あ、」


そこで思い出すように気付いたモノ。それは…。



「あのさぁ、お前今朝消費期限切れたの食わせたよな?」






さかのぼること朝8時。


今日は珍しく朝食が洋風だった。

トーストにサラダ、スクランブルエッグ。そしてヨーグルト。


透明なグラスに入れたヨーグルトにブルーベリーソースをかけながら、香西がぽつりと呟いた。


『あ、ヨーグルト賞味期限昨日だったみたい…大丈夫か』







「大丈夫じゃねーし。しかも賞味じゃなくて消費だし」


「だぁって新一さんなら大丈夫そうだったんだもん。それにそうだったら普通お腹壊すよね」


香西がのんきな声をあげてそう言った。


「胃が拒否したんだろ」


「今更?もう昼なのに」


「でも二人共通した原因てヨーグルトしかなくないか?」


「…まあ」



冷静になって考えると、以上の点から香西の妊娠は疑わしい。


「お前、本当に妊娠したの?吐き気で考えるなら違うよね」


「確かに…でも生理も来てないんだよねぇ」


「ま、不安なら検査に行けば良いか」


「そうね」




結局二人してそのままベッドへと向かい、眠りに落ちた。


そして偶然にも、予定日から二週間ずれた今日、香西に女の子の日がやってきたのだった。


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