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香西薫

6時頃に目を覚まして着替え、エプロンをまとって朝食と弁当の支度をする。これがいつもの彼女のスタイル。





香西薫、25歳。現在某フランスの自動車メーカーに勤めて3年目になる。


入社してしばらくは大学の専攻だったフランス語を生かして、フランス本社で勤務をしていた。そして日本に帰って来てからは営業所で販売員をしている。過去経験してきたアルバイトや香西の人柄が手伝って、売り上げ台数は営業所の誰よりも優秀な成績を収めている。



婚約者の内村新一とはまだ香西が10代の時に出会った…しかも自動車学校の指導員と生徒として。香西が実は苦手としていた内村がたまたま担当になり、色々あってそれがきっかけで香西は内村を指名するようになった。


きっとあの時、香西が内村の教習をキャンセルしていたら、二人は恋人どころか顔馴染みにすらなれてなかったかもしれない。


内村はこの話を初めて聞いたとき、はにかみながら「薫があの時キャンセルしなくてホントによかった」と言っていた。それが香西は何となく嬉しかったりする。



香西は内村のために、自分の仕事がなかろうがどんなにきつかろうが、基本的に早起きして料理にいそしむ。たまにうっかり寝坊した時は、先に仕事に出掛けた内村が香西の分の朝食も準備してくれる。そんな心遣いをしてくれる内村がとても大好きなのだ。




昨日は内村のわがままを聞いたためにいつもより早く起きてシャワーを浴び、眠いのをひたすら我慢して卵焼き作りを始めた。


香西家の卵焼きは甘くてふっくらしたもの。基本醤油を使う内村家とは違っているが、内村は香西の手料理を何でも喜んで食べてくれる。だが香西はそろそろ嫁ぐのもあって、内村の母親に味付けをならうつもりでいる。



内村がラフな格好で部屋から出て来たのに気付くと、笑顔を向けてご飯をよそった。


「おはよ」


内村は朝の眠気も吹き飛ばしてくれそうなほど爽やかな笑顔を香西に向ける。


「おはよ」



まさに絵に描いたようなおしどり夫婦…まあ正しくはまだ恋人なのだが。同僚や友人から羨ましがられるその良好な関係に、香西はこの上ない幸せを感じている。


もう付き合い始めてから半年、二人が出会ってからは6年近く経過しようとしているが、マンネリ化したことは今のところまだない。内村はいつでも香西を愛しているし、香西だってそうだ。行き過ぎたバカップルと違うのは、二人に適度な距離感もまたあるからだ。お互いの時間もちゃんと尊重し合っている。




香西は仕事に行く前に部屋が綺麗かとか、忘れ物がないかとか、一度ぐるりと部屋を見渡して家を出る。


「今日はうちか…」


ここ2、3日家に帰ってないため綺麗な部屋である自信がない。いつも先に家にいるのは香西で、料理の下ごしらえに取り掛かる前にぱぱぱっと掃除を終わらせる。こまめな性格なのだ。


「掃除しなきゃなー」



嬉しそうにつぶやきながら香西は内村宅をあとにした。


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