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内村新一

朝起きると、まず身支度をして朝食を取り、新聞や朝のニュースを見て出勤する。これがいつもの彼のスタイル。





内村新一、35歳。現在古野ドライビングスクールに勤めて13年目になる。


ちょっと昔はスクールバスの運転手もしていたが、今は自動車と二輪車の指導員、学科の教員、そして今年に入って検定員も務めるようになった。車やバイクをこよなく愛するのも幸いして、この若さにして教務部長に任命されている。



婚約者の香西薫とはまだ内村が20代の時に出会った。何を隠そう、香西は内村の指名生徒だったのだ。まあ色々あって今に至る。


まだ同棲は始めてないので、日によって内村の家に香西が泊まりに来たり、内村が香西の家に泊まりに行ったり。今日は香西が泊まりに来ていたので、内村はゆっくりとした時間を過ごせている。


香西の家からだと職場まで車で約15分かかるところが、内村の家からだと約8分。自分の家から出勤するほうが気持ちゆっくり出来るが、どちらにせよ内村は朝8時半には出勤しなくてはならず、朝10時から仕事の香西に比べて早く支度をしなくてはいけない。


だが香西は毎朝内村のために早起きをして弁当を作っている。普通ならこういう場合幸せ太りをするものだが、いつもコンビニ弁当だったことを配慮した香西が低カロリーのおかずを作ってくれるため、体重こそ変わらないものの体脂肪がぐんと落ちてきている。




昨晩わがままを通した内村は、今日は久しぶりのコンビニ弁当だな、と思いながら起き上がった。すると台所ですでに香西が弁当づくりに励んでいるのに気付く。何だかんだ言いながら尽くしてくれる香西がたまらなく愛しい。



内村が起きたことに気付いた香西は、出来たてのご飯と小さな焼き魚、そしてだしのきいた味噌汁を机に並べた。


「おはよ。はい、朝ご飯よ」


そう言って内村ににっこりと微笑みかけた。


「ありがと」


内村が笑顔を向けると、香西はもう一度ふふ、と笑った。


「お弁当、ここに置いとくからね」


「ああ、ありがと。今日は弁当なしと思ってたよ」


「頑張って起きたの。褒めて褒めて」



最近の香西からは以前付き合っていた時に見たあどけなさは感じないが、ごくまれにそういう部分が垣間見える時がある。内村が香西にマンネリを感じないのも、きっと香西の反応がいつも新鮮なものだからだろう。



内村は箸を置いて自分の横にちょこんと座っている香西の頭を撫でた。まるで小動物のように撫でられたことを喜び、香西は小さくえへへ、と笑った。


クールでいかにもキャリアウーマンという外見の香西のこの一面は、内村しか知らない。




朝からこの変な独占欲と勝ち誇ったような気分に浸りながら、内村は朝食を済ませた。もう少しで出勤時間だ。


「そうだ、今日ちょっと遅くなるかも」


「そうなの?」


「新人研修が入ってさ…早く帰れそうだったら早めに戻ってくるから」


「無理はしないようにね」



香西はそう言って朝食の皿を片付けた。布巾を持ってきてテーブルを拭きあげながら尋ねる。


「今日もここで良いの?」


「いや…今日は薫の家に行くよ」


「わかった」


もう一度香西がにっこりと笑った。内村は車のキーを手にして玄関へ向かう。


「そうだ、今週の休みにさ、モデルルーム見に行こう」


「え?」


「近々結婚するんだし、もう同棲始めても良いだろ。こうやってお互いの家を行き来するのも何だし」


香西が皿洗いを終わらせて、ぱたぱたと玄関の方へ行った。


「そうね、そうしよっか」


「よし、決まり」


香西の手から弁当を受け取って笑みを浮かべた。


「じゃあ行ってきます」


「行ってらっしゃい」






そして内村は今日も、忙しくも充実した一日を過ごすのだ。


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