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家族計画

「ふっ…だははっ!それただのギャグじゃないですか!」


「うるさい黙れ」



お前はおっさんか、と突っ込みたくなる笑い方に内村は思わずため息を吐いた。





今内村の目の前に座っているのは、彼の後輩の坂井結衣。旧姓は池田という。


結婚しても内村の働く古野ドライビングで指導員を続けていたが、出産してからの育児を機に、子供といる時間を増やしたいと退職した。昔は子供を実家に預けっぱなしだったが、今や朝から晩まで家事育児に専念している。


男勝りな性格ながらも可愛らしい見た目から教習所のアイドルのような存在だった池田も、今では母親の顔が覗く。


「今コーヒー淹れますからね」


池田は笑いながら席を立った。




今内村がいるのは坂井家。香西と二人でやって来た。香西が池田に聞きたいことがあるからと訪問したのに、香西は池田の子供の隼人とずっと遊んでいる。



池田はコーヒーを三つ準備してテーブルに置く。


「薫ちゃん、コーヒー淹れたからここに置いときますね」


「あ、ありがとうございます」


香西はにっこりと笑ってみせ、再び隼人と遊びはじめた。



「…てことは、薫ちゃんの話って子供のこと?」


「わかんね。それは何か聞いてないけど」


「いやー、それにしても面白いハプニングって起こるもんなんですね」


「面白くないし」


内村は苦笑いしながらコーヒーを口に含んだ。



香西が席を外しているのをいいことに、先日の妊娠未遂事件を池田に相談して女性の心理を聞こうとしたというのに、話を聞くやいなや池田が大爆笑した。実際のところ笑い話に出来たもんじゃないというのか当人の主張ではあるが…。



池田はコーヒーを冷ましながら内村と目を合わせた。


「薫ちゃんの話が子供のことだとして、内村さんはどうなんですか?」


「どうって?」


「ホラ、子供はいつ頃欲しいとか、何人欲しいとか。これは一人じゃ決めれない事じゃないですか」


内村はコーヒーカップを置いて、うーん、と唸った。冗談で香西に『野球できる人数欲しいよね』と言ってグーパンチをくらったことはあるが、現実的な問題としてしっかり考えたことはなかった。これからいつ入籍するかも含めて、きちんと向き合うべき事ではある。



「…俺は…三人くらい欲しいかな」


「へぇ」


「二人でも良いけどさ、少しでも多いほうが賑やかになるじゃん。でも子供四人も養っていける自信はないし…」


「ちゃんと考えてるんですね」


池田が笑いながらクッキーに手を伸ばした。内村はそのまま子供とじゃれている香西に目をやった。


「俺もあいつも子供は好きだし、家族全員が幸せな生活を送れるなら何人でも良いとは思うけど」


「そうですね…それで」


池田はそう言ってテーブルから身を乗り出した。


「いつ入籍するんですか?」


「は?」


「だってこんなに子供のこととかも真剣に考えてるから」



池田の言葉を聞いて、内村は盗み見るように香西の方を見た。


さっきまできゃあきゃあとはしゃいでいた隼人が、遊び疲れたのか横になってうとうとしている。香西はそんな彼にタオルケットをかけて寝かしつけていた。


ついこの間香西と本屋に行ったとき、香西は真っ先にある本を取った。後ろからこっそり窺うと、香西が手にしていたのは育児関係の本だった。行く先行く先にいる子供に目を奪われている辺り、本当に子供が欲しいんだなぁと思う。



…そういえば一昔前、二人で温泉旅行に行った時も、あいつ子供に釘づけだったな。

そんなことを思いながら内村はふっと笑った。


「なーに、余裕の笑みってやつですか?」


池田がにやにやしながら内村に話し掛けた。内村はばーか、と言ってコーヒーを一気にあおった。


「来月か再来月に籍入れようかなと思って」


にやついていた池田の顔が急に険しくなる。


「え?」


「出来ればすぐに結納とか色々済ませて、終わり次第かな」


「ちょ、ちょっと、急じゃないですか?」


「善は急げ。思い立ったが吉日。だろ?」



満面の笑みを浮かべる内村に池田は呆気に取られたが、しょうがないと言わんばかりに笑顔で軽く息を吐いた。


「適いませんね、内村さんには」


「そう?」


「こんな人と一緒にいれるの、薫ちゃんくらいですよ?」


内村は苦笑して香西を見つめた。


「そんなの、初めて会った時からわかってるよ」


「うわ、クサイ台詞…内村さんじゃなかったらドン引きですよ」


「なんだそれ」




ようやく食卓へやって来た香西は、二人が笑い続けている理由がわからないまま、目を丸くしてコーヒーに口をつけた。


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