第1章 ③ ゲーム開始
広い廊下。
白い壁。
並ぶ教室の扉。
蛍光灯の光が少し冷たく、床に均一な明るさを落としている。空気は乾いていて、古い校舎特有の埃っぽさと、どこか消毒液のような匂いが混じっていた。
周りには同年代の子供たちが大勢いる。
ざわめき。
混乱。
誰も状況が分かっていない。
泣き出す子。怒鳴る子。呆然と立ち尽くす子。壁を何度も叩いて出口を探す子。
だが不思議なことに。
ユウは感じていた。
(……知っている)
この人たちを。
どこかで。
知っている気がする。
顔を見たことがあるわけじゃない。話した記憶もない。なのに、胸の奥のもっと深い場所で、彼らの存在だけを知っているような感覚があった。
説明のつかない既視感だった。
その時。
隣に立つ少年が笑った。
「お、やっと起きたか」
友達のような口調だった。
しかし顔に見覚えはない。
日焼けした肌。少し乱れた髪。どこか挑発的な笑い方。雰囲気は粗っぽいのに、不思議と嫌悪感はなかった。
だがその瞬間。
頭の中に、突然名前が浮かぶ。
三浦カイト。
ユウは驚いた。
「……カイト?」
カイトはニヤッと笑う。
「何だよその顔」
「まだ寝ぼけてんのか?」
どうして名前が分かったのか、自分でも分からない。
それなのに、その名前だけは確信を持って口にできた。
ユウが答えようとした瞬間。
校舎内に、突然音声が流れた。
無機質な機械音。
『参加者の皆様へ』
ざわめきが止まる。
全員が天井のスピーカーを見る。
その声には感情がまったくなかった。歓迎も威圧もない。ただ事務的に言葉を並べているだけの音だった。
『これより第1回ゲームを開始します』
空気が凍った。
何人かが息を呑む音が聞こえた。
「ゲーム……?」
誰かが小さく呟く。
『最初のゲームは』
数秒の沈黙。
その数秒が、ひどく長く感じられた。
そして。
『宝探しゲーム』
その瞬間。
校舎の扉が一斉に開いた。
ガタンッと大きな音が廊下に響く。
あちこちの教室の扉が同時に動く音。金属が擦れる音。何かが始まってしまったという実感だけが、その場にいた全員を貫いた。
カイトがニヤリと笑う。
「面白くなってきたな」
その声音には強がりが混じっていた。
だが。
ユウの胸には、重たい不安が広がっていた。
直感が告げている。
これは、ただのゲームじゃない。
誰かが遊び半分で作ったものではない。
もっと冷たく、もっと計算された何かだ。
背中に嫌な汗が伝う。
この瞬間から――
ユウたちの、
地獄の10年が始まる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第一章はこれにて完結となります。
突然始まった不可解な現象と「ゲーム」。
そして、ユウたちが足を踏み入れた異常な世界。
この物語は、ここから本格的に動き出します。
「なぜ子供の姿になったのか」
「この世界は何なのか」
「ミサキに何が起きているのか」
そのすべては、次章以降で少しずつ明らかになっていきます。
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引き続き「Lost Children」をよろしくお願いします。




